パネルディスカッション(2) 「OSS活用推進と攻めのIT - 促進策・支援策の提言へ」レポート
本記事では2015年2月27日に「OSC2015 Tokyo/Spring」(http://www.ospn.jp/osc2015-spring/)の併設イベントとして開催されたシンポジウム 「クラウド×OSS~“攻めのIT”への転換」(http://www.meti.go.jp/press/2014/02/20150210002/20150210002.html)の中から、パネルディスカッション(2)「OSS活用推進と攻めのIT - 促進策・支援策の提言へ」の内容を紹介する。パネルディスカッション(2)は、「利用者側と提供者側がOSSを積極的に活用するためにはどうすべきか、さらに攻めのITを実現するために必要な促進策や支援策はどう考えるべきか」をテーマにディスカッションが行われた。
OSSに関する現状の課題
OSS利用の促進策を検討するにあたり、まず現状の課題の整理から議論が始まった。利用者側・提供者側(OSS開発事業者やOSSを使ったシステムを提供するシステムインテグレータ等)、およびその両者共通で抱える現状の課題として、以下の3点がある。
利用者側の課題
- OSSに対する理解が浅く、OSS利用に踏み切れていないケースが多い
提供者側の課題
- 利用者側での内製化が進み、提供者側(特にシステムインテグレータ等)が入り込める領域が狭くなっている
共通の課題
- 技術がオープンであるが故にエンジニアの流動性が高まり、エンジニアの長期的な確保が困難になっている
- OSSエンジニアの価値を評価できず人材育成に繋がっていない
利用者側の課題:OSSへの理解不足によるOSS利用の停滞
OSS利用が進んでいない要因の一つとして、利用者側であるユーザ企業のOSSへの理解不足が挙げられた。OSSを利用することでライセンスコストが下げられるという点は非常にわかりやすいメリットであるが、OSSの導入によるそれ以上のメリットが正しく理解されず導入が進まない現状があるという。
例えば、OSSを使うことで社内ニーズに細かく対応できる、短期間でシステムを構築できるようになるといった点の価値が理解されず、このようなメリットに費用を支払うという意識に繋がっていない。これはシンポジウムに先駆けて行われたOSSに関する調査結果から出された意見である。
その要因について溝口氏は、「システムの提案を行うシステムインテグレータから正しくOSSを活用するための提案が出ていないことがある」という課題を提起。「利用者にとって本当に価値のあるものは何かを考えた上で、そのためにOSSがどのような点で本当に有効なのかを見極め、提案することが必要ではないか」と述べた。
提供者側の課題:OSS開発企業やシステムインテグレータ
OSSのさらなる利用促進に向けた課題は、利用者側だけでなくOSS開発企業やOSSを活用したシステムを提供するシステムインテグレータ側にもあるという。石井氏は、提供者側の立場から「全てのOSSに当てはまるわけではないが、OSSであるが故に利用者側の技術者自身で自社システムの内製化を進めることができるようになってきており、提供者側であるシステムインテグレータが入り込める領域が狭くなってきている」と指摘する。
単純に「OSSを使えば構築できる」「OSSのサポートを提供できる」というだけではビジネスとして成立しなくなってきているのが現状で、こういった従来から変化しているビジネスモデルを正しく理解できず「OSSは儲からない」といったイメージが推進を妨げているケースもあるのではないか、と言うのだ。
こういった観点から、システムインテグレータをはじめとする提供者側はどういった点を付加価値として利用者に提供できるかを常に考え続けなければならない。
共通の課題:OSSエンジニアの確保・育成
さらに、利用者側・提供者側に共通の課題として、OSSを推進するために重要なエンジニアの確保・育成がある。OSSに携わるエンジニアは活発かつオープンに活動するため、より自分にとって魅力のある企業へ積極的に移るなど、流動性が高い傾向にある。これには、OSSに携わるエンジニアを評価する仕組みの整備が追いついていないことにも要因があるようだ。
こういった状況において、企業がOSSを扱えるエンジニアを確保し続けるために、魅力ある事業展開や評価制度の整備など、人の好循環をもたらすにはどうすればいいかを考えることが重要となっている。
OSSの利用促進に向けた対策
これらの様々な課題を受けて、国内でのOSS利用促進に向けてどういった対策を検討すべきかディスカッションが行われた。
ユーザ主導によるIT産業の好循環化
野口氏は、「ボトムアップのアプローチでは変化のスピードも遅く利用は進みにくい。利用者側の経営層からトップダウンのアプローチで展開していけるよう利用者側・提供者側が連携することが重要である」と指摘する。
実際に、利用者側であるユーザ企業では様々なOSSの導入事例が出てきている。例えば、アンデルセンサービスの事例では「Hadoop」や「Asakusa Framework」を積極的に活用したり、マネックス証券の事例ではアジャイル開発の軸としてOSSを活用するなど、自社のビジネスを成功に導くためにOSS活用が不可欠となっている。
また、楽天では既存のOSSを使うだけでなく、自社のニーズに細かく対応できるようOSSを自作してビジネスに活かすというスタンスを取っている。
こういったことからも、「ユーザ企業が主導となり、ビジネスの成功に繋げるためにOSSを積極活用することがIT産業の好循環化に繋がるのではないか」と結論が出された。
業界を跨った連携
ユーザ企業主導で推進するにあたっては、「異なる業界間での連携」も重要な要素ではないか、という議論に及んだ。
例えば、発電の効率化に挑戦するというスーパーコミュニティ(複数の有力企業が集まってOSS開発を推進する団体)が形成されつつある。このコミュニティは電力関連企業を中心に、発電所での発電効率化に向けたセンサーデバイスを扱う製造メーカやビッグデータを扱うIT事業者など、業界を跨った連携の基推進するグループである。このような団体においてもOSSを活用しオープン化・標準化することで「様々なプレイヤーに入ってきてもらうことができ、推進力が高められる」と吉田氏は言う。
さらに、「こういった業界を横断した組織を形成することは各企業の取り組みだけでは難しいため、経済産業省の支援等があることでより推進できるのではないか」とも意見した。この意見に対し野口氏は、「業界を跨ったビジネスコンソーシアムの重要性は認識しており、実現できないかを検討中である」と回答。こういった点からも、これまでの枠組みにとらわれないコミュニティ形成が重要になってくると思われる。
ユーザニーズに対する高付加価値サービスの提供
ユーザ主導によるOSSの積極活用が進めば、提供者側はさらなる高付加価値のサービスを提供する必要がある。システムインテグレータの立場から溝口氏は言う。「システムインテグレータには、プロフェッショナリズムを提供することに価値を見出してもらう必要がある。それを正しく評価してもらうためにソフトウェアをOSS化し、そのOSSを使って価値を提供することが重要である」。
さらに、石井氏も自社の戦略から指摘する。「PostgreSQLはOSSとして提供することでマーケットの拡大を実現できた。さらにデータベースの負荷分散機能やレプリケーション機能を持つ「pgpool-II」を提供することで、OSSを適用できる新たなマーケットを獲得することにも繋がっている」。
こういったことからも、既存領域を拡張するための新しい価値創造や先端領域における新しいビジネスの創造に注力することで、既存のビジネス推進や新しいビジネス獲得機会の創出に繋がると言える。
人材の育成
最後に、人材育成について議論が行われた。OSSを扱うことができるエンジニアに対する「価値の評価」という点が議論の軸となった。
「OSSを扱うエンジニアの育成にはOSSを扱うエンジニアが必要とされなければならず、エンジニアが必要とされるにはOSS自体のニーズが高まらないといけない。このような一連の流れが実現され、正当にエンジニアが評価される土壌を作ることが根本的な改善に繋がるのではないか」という意見が石井氏より投げかけられた。
OSS利用促進に向けた提言
シンポジウムを通して、溝口氏は今後のOSSの利用推進に向けた提言を以下のようにまとめた。
あるべき状態にむけた役割の変革
ユーザ企業は自分達のビジネスの成功のため、積極的に先進的なIT技術を活用すべきである。一方、ITベンダーは「ユーザの代行」という役割から脱却し、高度技術のプロフェッショナルとして自立したビジネス展開を推進すべきである。
変革のスピードアップを促進
ビジネスチャンスを獲得するには、サービス提供スピードを上げる必要がある。そのためにはITベンダーからの提案を待つのではなく、OSSを使って自らサービス構築を推進する体制を築くべきである。
オープン戦略の実践
オープン化とは、仲良く協力することではなく「競争している」ことだという現実を理解しなければならない。そういった競争の中、より先行して新しい技術をオープン化することで利益獲得に繋げる取り組みを強化すべきである。
OSS第三世代への進化
これまで、ハードウェアメーカー企業・ソフトウェア開発企業・ユーザ企業やクラウドサービス事業者・ユーザ企業など、仕組みを作る側と使う側という区分けが存在していたが、「サービスを提供する」「事業を展開する」という目的の基で区分けなく連携していくべきである(図)。
おわりに
OSS推進に際しユーザ企業やITベンダーが抱えている現状の課題の整理から、来たる市場の変化に対してOSSをどのように推進すべきかの方向性が示されたディスカッションであった。OSSは企業がビジネスを成功させるためのベースとして、その柔軟性や迅速性という観点から非常に重要なものであり、今後もますます必要不可欠な存在になる。そんな中で、OSSビジネスの展開方針検討時やOSS導入可否の検討時に考慮すべき点として本ディスカッションで取り上げられた内容は非常に有用となるだろう。
今後、本シンポジウムやその前提となる調査事業の報告結果は経済産業省から公開される予定である。ぜひその内容を吟味した上で、OSSの利用・推進について改めて検討してみると良いのではないだろうか。
なお、本シンポジウムで使用された資料と動画は経済産業省・TIS シンポジウム 「クラウド×OSS “攻めのIT”への転換」Webサイト(http://www.tis.jp/seminarreport/detail/cloudxoss.html)で公開されている。興味のある方は、ぜひご覧いただきたい。
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