日本マイクロソフトのパートナー向けイベント「Microsoft Japan Partner Conference 2017 Tokyo」開催
日本マイクロソフトは9月1日、パートナー向けイベント「Microsoft Japan Partner Conference 2017 Tokyo」を東京会場で開催した。9月14日には福岡、9月26日には大阪、10月3日には名古屋、10月11日には札幌と順次開催していく。
基調講演は、日本マイクロソフト株式会社 代表取締役 社長の平野拓也氏が中心となり、ときおりゲストを紹介する形式で進行した。
2018会計年度は「デジタルトランスフォーメーション」
平野氏は冒頭で「パートナーファーストと考えている」と挨拶し、パートナーを表彰する「Microsoft Japan Partner of the Year 2017」20部門の受賞企業を一覧で紹介した。なお、20社からの受賞メッセージは、基調講演オープニングとしてビデオメッセージで上映された。
平野氏は2017年6月までの2017会計年度を振り返った。Microsoftのグローバルでは、法人向けクラウド事業の売上高が約190億ドルと、クラウドビジネスの好調が目立ったという。日本マイクロソフトの2017会計年度については「デジタルトランスフォーメーション元年」と平野氏は位置づけ、「働き方改革が追い風となり、Office 365が企業に刺さった」「AI(人工知能)やMR(Mixed Reality、複合現実)がビジネスに入り込んでいることを感じた一年だった」という2点を挙げた。
「私が社長になって2年。当時、努力目標として、日本マイクロソフトの売上の7%だったクラウドを、2年で売上の半分にしたいと言った。2017会計年度の最終四半期で47%となり、50%にはちょっと足りないが、これでよしとさせていただきたい」(平野氏)
今期である2018会計年度のテーマとしても、平野氏はデジタルトランスフォーメーションを掲げた。その分野として「社員にパワーを」「お客様とつながる」「業務を最適化」「製品の変革」の4つを挙げ、Microsoftの得意とする「モダンワークプレース」「ビジネスアプリケーション」「アプリケーション&インフラストラクチャー」「データ&AI」の4つで支援すると語った。
デジタルトランスフォーメーションはMicrosoftの手掛ける市場の拡大の上にあると平野氏は説明する。同社の元々の市場であるパソコン+Windowsが1,400億円(1995年)の市場だったものが、クライアント+サーバーで1兆4,400億円(2005年)の市場に、モバイル+クラウドで14兆4,000億円の市場になった。そして、デジタルトランスフォーメーションで26兆円の市場になるという計算だ。
働き方改革の取り組みと事例
続いて日本マイクロソフト独自の注力分野として、平野氏は「働き方改革」「デバイスモダナイゼーション」「インダストリーイノベーション」の3つを掲げ、それぞれごとに取り組みを解説した。
1つめは働き方改革だ。平野氏は「生産性をどう上げるかを軸に、テクノロジーや仕事環境変革で実現する」と説明。フリーアドレスや在宅勤務などの仕事スタイル変革と同時に、それを支えるMicrosoftテクノロジーとして、“時間の使い方”改革にパーソナルAIの「MyAnalytics」を、“作業の進め方”改革にグループチャットの「Microsoft Teams」を紹介した。
同時に、「われわれも自社内をモルモットとして働き方改革を実践し、結果を発信していく」と紹介。それに関連して8月に発表されたオフィス家具メーカーSteelcaseとの協業についてもビデオで紹介し、両者製品を備えたクリエイティブスペースを品川オフィスに開設したと語った。
また、Webサイト「働き方改革ムーブメント」を7月に開設したことにも触れた。セミナーや事例、パートナーソリューションなどを紹介している。
働き方改革分野におけるパートナーのソリューションとしては、HPEのエグゼクティブブリーフィングセンターとPWCの経営コンサルティングを組み合わせた例を紹介。さらに、アイキューブドシステムズ、三井情報(MKI)、リクルートキャリアの例が紹介された。
そのほか、Office 365、Windows 10、Enterprise Mobility + Securityの3つを1つにパッケージングした「Microsoft 365」についても平野氏は紹介した。
Suface Pro LTEモデルを今年秋にリリース
2つめはデバイスモダナイゼーションだ。平野氏はWindows 10デバイスが5億台という数字を紹介し、10月にリリースされるWindows 10 Fall Creators Updateや、Windows 10 Sなど、「どんどん進化している」と語った。
そのうえで、Suface Pro LTEモデルを今年秋にリリースする予定であることを平野氏は発表した。また、大画面デバイスのSurface Hubについても、100社以上が導入していると平野氏は紹介し、8月に発表した取次リセラー制度を説明した。
続いてMixed Reality(MR、拡張現実)についてもパートナープログラムを開始することを平野氏は発表した。パイロット参加した、株式会社博報堂、株式会社wise、株式会社ネクストスケープの3社がすでに認定パートナーとなっているという。スクリーンでは動画で、ネクストスケープのHoloLensを使った新築マンション販売向けビューアーや、博報堂とwiseによる建仁寺の風神雷神図屛風のHoloLens鑑賞ソリューションが紹介された。
そのほか、Windows 7とOffice 2010のサポート終了に向けた活動についても平野氏は語った。「Windows XP終了では不要な特需を発生させてしまった。今回は早めにキャンペーンを展開していきたい」(平野氏)。
業務ごとの組織体制に変更、パートナー事業本部も新設
3つめはインダストリーイノベーションだ。日本マイクロソフトでは2018会計年度から組織体制を変更し、業種ごとに分けた組織体制を作ったと平野氏は説明し、「確実にフォーカスして提案、訴求していきたい」と語った。
同時に、パートナー事業本部を新設し、それまで8つあったパートナーと関わる組織を1つにまとめた。これについて、本部長に就任した高橋美波(よしなみ)氏が壇上に立って説明した。
新設の目的について高橋氏は「組織を一元化し、パートナーのソリューションに対して一気通貫で応える」と説明。機能も4〜5つあったものを、「Build-with」(パートナーとマイクロソフトのソリューションを組み合わせる)、「Go-To-Market」(世の中に広める)「Sell-With」(エンドユーザーのニーズをしっかり把握)の3つにまとめたと説明した。
さらに、パートナー向けに「Partner Success Japan」プログラムを開始することも高橋氏は明らかにした。詳細は後日発表とのことだったが、AIやMRなどの最新技術の動向について、技術リソースやトレーニングなどを提供するという。
パートナーやユーザーの事例が登場
パートナー企業やユーザー企業も次々に登壇して事例を紹介した。
インダストリーイノベーションの分野では、株式会社FIXERと株式会社北國銀行が、6月に発表したAzure上のクラウドバンキングを紹介した。
北國銀行の杖村修司氏(代表取締役 専務)が背景を説明。働き方改革が言われるようになる前から「生産性二倍運動」に取り組み、その中で「私の部屋にはキャビネットもない。ハンコを押すのは月2回だけ」(杖村氏)というまでペーパーレスを進め、過去最高益を実現したという。
FIXERの松岡清一氏(代表取締役 社長)は、「それを聞いてすごいと思い、サーバーを提案したいと思った」と語った。発表を受けて、ほかの銀行からも問い合わせが来ているという。
両氏は海外のFintech事情などもまじえ、クラウドバンキングを強化する一方で店舗の付加価値も上げていくことや、SoRシステムだけでなくSoEシステムに取り組む可能性などについて語り合った。
IoTの分野では、ソフトバンク・テクノロジー株式会社とミツフジ株式会社の事例が紹介された。ミツフジはもとも西陣織を製造する会社だったが、現在では銀メッキ繊維によるスマートウェアhamonなどを製造しているという、まさにデジタルトランスフォーメーションを実現した企業だ。
ミツフジの三寺歩氏(代表取締役 社長)は、「繊維の展示会は毎年来場者が減っているが、ウェアラブルエキスポは来場者が増えている」と市場動向を説明。「ウェアラブルではセンサーデバイスの精度が重要になる。それをわれわれが提供する。一般にウェアラブルには3〜4社の協力が必要となるので、われわれと協業して参入障壁を解決していただければと思う」と語った。
ミツフジのhamonでは、ソフトバンク・テクノロジーの「セキュアIoTプラットフォーム」を採用したことが8月に発表された。ソフトバンク・テクノロジーの眞柄泰利氏(取締役 常務執行役員)は、「生体情報という個人に結びついた情報なので、安全に扱う必要がある」としてセキュリティの重要性を強調。IoTデバイスのライフサイクル管理や認証などを提供するセキュアIoTプラットフォームと、Azureのクラウドプラットフォームの組み合せを推した。
AIの分野では、エイベックスの事例が紹介された。エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社の加藤信介氏(グループ執行役員 グループ戦略室長)は、ダンス&ボーカルグループ「lol」のライブで、来場者の表情をAI(MicrosoftのCognitive Services)で認識して感情を数値化し、盛り上がりの様子を定量的に確認した例を紹介した。lolのメンバーからの「新しい取り組みを活用できて光栄です」「ファンに満足を届けます」というビデオコメントもスクリーンに映された。
AIの分野でもう1社、株式会社Preferred Networks(PFN)の西川徹氏(創業者 代表取締役社長 最高経営責任者)が登壇した。
西川氏は、5月に発表した日本マイクロソフトとの協業について、コミュニティ、教育、両社のプラットフォームをかけあわせることの3つの軸を説明した。その具体的な事例として、Azure上で深層学習フレームワークのChainerを動かすことや、Azure上で動かしている独自のサービス「PaintsChainer」、Azure上で提供するプロダクト「DIMo」を紹介した。
PaintsChainerは線画に自動で色を塗るサービスで、「Azureに乗せたことで、新しい機能を追加したときの負荷にも対応できた」と西川氏は説明した。DIMoはエッジ機器向けの深層学習ソフトで、画像から故障を検出する実証実験を実施していることを紹介した。そのほか、Ridge-i社とNHKアートによる、Azure上で白黒映像をカラー化する事例も紹介された。
さらに、Chainerを大規模並列分散に対応させる「ChainerMN」の正式版となる1.0.0を同日にリリースしたことも発表した。
AIやMRの機能をデモ
基調講演の最後に、日本マイクロソフトの西脇資哲氏(業務執行役員 エバンジェリスト)によるデモが行なわれた。
まず、Office 365のAI機能を紹介。メールから残業時間やどの人と共同作業しているかなどを分析して、これからどういう働き方をしたらいいかまでアドバイスするというところを見せた。
また、顧客管理のOutlook Customer Managerでは、スマートフォンで名刺を読み取るとPCの連絡先にも登録されるところを見せた。
Microsoft TranslatorとPowerPointについては、まず音声でテキストを入力するところをデモし、文脈を認識して聞き分けるところや、あとから前の部分を修正するところなどを見せた。そのうえで、日本語で話した内容をリアルタイムで韓国語に翻訳するところを見せた。
Microsoft Visionのデモでは、「恋ダンス」や乃木坂46のプロモーションビデオの動画を読み込んで、登場する人物を特定して時系列で分析してみせた。さらに、乃木坂46の特定メンバーの画像を学習させ、名前まで特定できるようにしてみせた。
画像認識ではそのほか、ヒアリの写真とヒアリでない写真を学習して識別するところもデモした。さらに、それをチャットボットにしてLINEで問い合わせるところも見せた。
最後のデモとしては、ステージの隅にずっと置かれていたラリーカー、トヨタのヤリスWRCが取り上げられた。トミ・マキネンも登場するビデオをスクリーンで流したあと、西脇氏がヤリスWRCに近づき、HoloLensで車に重ねて情報を見る様子をデモした。点検記録簿を確認したり、タイヤの締め付けトルクをサービスマニュアルから調べたりする様子を見せながら、両手がフリーになる長所を説明した。
ラリーについてはそのほか、車載カメラで撮った映像と運転データを複数のドライバーで比較して、よりよい走りを分析する例も見せた。
西脇氏は一連のデモをまとめて、「Microsoftのクラウドの膨大な処理能力を使ってみなさまにAIをお届けし、それをサービス化し、さまざまなアプリケーションやビジネスに使っていく。こうした形で、パートナーの皆様とともにデジタルトランスフォーメーションを実現していきたい」と語って基調講演を締めくくった。
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