仮想化環境KVMのシステム管理、監視
導入が容易で自社の目的に合った管理ツールを選ぶ
以下では、KVM仮想マシンや仮想化ホストを一元管理するツールを紹介します。
KVMの管理ツールで、OS標準のVirt-managerよりも高機能なものを開発しようと、多くのコミュニティが精力的に取り組んでいます。ところが、データ・センターや大規模クラウド環境を見据えたオープンソースのソフトウエアとなると、依然として導入方法の調査や構築作業に手間がかかる傾向があります。
一方、ベンダーが提供する有償のソフトは機能が豊富です。企業のプライベート・クラウド構築に適した運用自動化の仕組みなどが備わっています。仮想マシンの起動、停止、画面操作だけでなく、仮想マシンと物理マシンの負荷状況を一元的に管理して過去の負荷データから将来を予測できます。コンソリデーションによるコスト削減シミュレーション機能を備えるものや、セルフポータルからユーザーが欲しい環境をマウス・クリックだけで配備できるものもあります。
構築の手間ができるだけかからず、機能面においてもクラウド・コンピューティングを見据えた管理ツールを選択しなければなりません。
ベンダーの有償ソフト以外にも、コミュニティが開発している優秀なオープンソースが数多く存在します。ベンダー提供の無償ツールや有償ソフトとオープンソースを組み合わせて利用すると効果的です。
クラウド・コンピューティングにおいては、特殊なソフトをクライアントにインストールすることなく、Webブラウザだけで利用できることが望まれます。また、複数の仮想化環境を一元管理して、必要に応じて物理リソースと論理構成を半自動的に配備できなければなりません。
非常に多くの課題をクリアしなければなりませんが、まずはクラウド・コンピューティングに到達する前段階の「仮想化の一元管理」を目指しましょう。以下では、複数の仮想化環境を一元管理するツールを紹介します。
Virt-managerを補完する、無料の仮想化管理ツール「convirt」
OSに標準で付属しているVirt-managerでも、ある程度の管理が可能です。このうえでさらに、遠隔からの集中管理機能を補完するのに適したソフトが、オープンソースの仮想化管理ツール「convirt」です。遠隔地にあるKVMホストとXenホストを管理できます。
convirtは、Red Hat Enterprise LinuxやUbuntuには含まれていません。このため、別途ダウンロードしてインストールします。バージョン1.1ベースのものはRPMパッケージが用意されてるので簡単に導入できますが、最新のバージョン2.0では、インストール・スクリプトを実行する必要があり、幾分面倒です。
図13: KVM対応の一元管理ソフト「Convirt」。KVM仮想マシンの起動、停止、配備、リストアなどの、仮想化環境で必要な機能を備えている。(クリックで拡大) |
Webブラウザ経由で操作できる仮想化管理ソフト
Webブラウザ経由でKVM仮想マシンやVMwareなどを集中管理できるツールに、OpenQRMがあります。複数の仮想化技術が混在した環境を管理するのに適したツールです。
現時点では、CentOS 5用のRPMパッケージが用意されています。2010年12月時点では、最新版4.7が存在し、tar ballからRPMパッケージをビルドして利用できます。データベースにMySQLを採用していますが、設定自体は非常に簡単です。
主に、GUIによる設定がメインになります。サーバー仮想化ソフトとして、KVM、Xen、VMwareを利用できます。ヘテロジニアスな仮想化環境を一元管理できる無償ソフトとして、開発者やIT管理者の間で知名度が向上しています。
ベンダーが提供しているツールでは、オープンソースのNagiosとRRDtoolを組み込んだ、有償のHP Insight Control for Linuxなどがあります。物理ホストや仮想ホスト、仮想マシンを一元的に管理し、KVMのゲストOSの管理や、ドライバの配布などが可能です。
Insight Control for Linuxは、オープンソースのNagiosやRRDtoolが組み込まれているため、それらオープンソースを利用する環境を構築する手間を省きます。さらに、大量の仮想マシンを直観的な操作で一元管理できるようになっています。Insight Control for Linuxの稼働OSもLinuxであるため、Windowsの知識がない場合や、物理マシンがLinuxで標準化されている場合に特に有用です。
HP Insight Control for Linuxは、isoイメージをHPのWebページからダウンロードできます。60日間の評価用ライセンス・キーも入手できます。評価用のライセンス・キーで、機能の制限なく、Insight Control for Linuxのすべての機能を評価できます。
図14: オープンソース・ソフトウエアのNagiosとRRDtoolが組み込まれているHP Insight Control for Linuxの画面。データベース・エンジンもオープンソースのPostgreSQLを採用している。ユーザーは、Webブラウザから、物理ホスト、仮想化ホスト、仮想マシンを一元管理できる。(クリックで拡大) |
以上、KVMを含めた仮想化環境における、監視システムの基本的な構築手法と管理ソフトを解説しました。
オープンソースのkvmコマンド、VNC、virshコマンドなどによる仮想マシンの操作は、仮想化システムの管理者やコスト削減を目的としたIT部門にとっては、敷居が高く感じられます。
しかし、クラウド対応の高機能ソフト、EucalyptusやOpenQRMなども、バージョンアップを繰り返して日々進化しています。Linux系のクラウド・システムにおいて、注目が集まってきています。
本連載では、仮想化システムの構築・運用・監視について、非常に基本的で典型的な手法に限って解説しています。ところが、実際のシステムを運用する場合、サーバーだけでなく、仮想マシンを保存する外部ストレージの設定やバックアップ手法の検討、仮想マシンの災害対策なども設計する必要があります。少ない工数でシステムの状態を詳細に管理・監視するためには、Red Hat Enterprise Virtualizationや、実績のあるVMware、Hyper-V、XenServerなども検討すべきです。
KVMは、Linux OS付属の仮想化機能であり、ユーザーに魅力的な機能とコスト削減を提供します。このうえで、KVMを補完するように、EucalyptusやOpenQRM、有償のInsight Control for Linuxなどがあります。これらのメリットを最大限得られるよう、目的と手段、運用コストをよく考えたうえで、導入してみてください。
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