新型マインドストームEV3が彩るアイデアロボットの競演「ロボTRY」決勝イベントレポート
新型レゴ マインドストームを使った楽しいアイデアの数々
前製品のNXTから6年ぶりの新型となる、レゴ マインドストームEV3(以降、EV3)の発売が2013年9月から日本でも開始された。「ロボTRY」は、そのEV3を使ったアイデアロボットコンテスト。11月24日、東京千代田区のグラントウキョウサウスタワーにて決勝大会が行われた。
本イベントは、EV3の発売直後である2013年9月20日にエントリーを開始。10月~11月の予選を経て、勝ち残った12組が決勝に進出した。出場者たちはほとんど情報のない状態から、EV3の新しい機能を体験しつつ、可能性を探ってきた。
わずかな開発期間の中で見事決勝進出を果たしたのは、学生から社会人まで、多彩な顔ぶれからなる全12組のチーム。仲間同士、親子同士で力を合わせて作った自信作を発表した。
決勝出場チームの作品紹介
決勝出場チームを写真とともに紹介していく。
作品名「太鼓でどんどん」/チーム名「高専太郎」
トップバッターのチーム「高専太郎」が発表した「太鼓でどんどん」は、レゴで作られたコース上を色分けされたボールが転がり、正しいタイミングでボールの通過時にボタンを押すとスコアが加算される音楽ゲーム。アナログのコースをボールが走る機構も作りこまれており、ゲームという要素が加わって、誰もに楽しんでもらいたいという意気込みが伝わってきた。
作品名「ben-K」/チーム名「かつら」
トイレに行きたいけれど個室が空いているかわからない。個室が開くのを待つのも面倒。そんな気苦労(?)を全自動トイレ個室予約ロボットが解決する。「ben-K」は自分の代わりにトイレを偵察し、空きがあれば個室を予約、空いてなければその場で待機して空いた事を知らせてくれる。ちょっとした生活の一コマを大まじめに作りこんだ作品だ。
作品名「2wayUFOキャッチャー」/チーム名「ASONDEMITA」
UFOキャッチャーの中にぶら下がったEV3がお菓子をつかみ取りする「2wayUFOキャッチャー」。ローカル環境ではもちろん、遠隔操作でもお菓子のつかみどりを楽しむことができる。参加チームの地元ではハロウィンパーティが町を挙げて行われており、訪れた子どもたちにとても好評だったようだ。可愛らしい本体のデコレーションも印象的だった。
作品名「宇宙エレベーター」/チーム名「えりたけんちゃん」
高度3万6千キロの宇宙空間にエレベーターで行くことのできる宇宙エレベーターは現在多くの人の関心を集めているが、この宇宙エレベーターをテーマにしたロボットによる競技も行われている。チーム「えりたけんちゃん」からは、EV3を使って実際の競技で200mを昇ったクライマー(昇降機)が出品された。椅子の上でケーブルを持ち、クライマーが昇る様子も紹介され、実際の宇宙エレベータが動く様子をイメージすることができた。
作品名「ディテクターくん」/チーム名「ニケ」
WRO日本大会で5回優勝という輝かしい成績を持つチーム「ニケ」による「ディテクターくん」は走行ユニットと消化ユニットの2つのEV3からなる早期消化用ロボットで、建物のマップ情報をもとに、障害物を避けながら照度センサーや熱センサーを駆使して火元を判別、消化を行う。2台のEV3はBluetoothによって接続されており、センサーユニットの情報をもとに走行ユニットで的確な消化位置に移動。人のいない時間帯などに実力を発揮する。
作品名「Fisans」/チーム名「くろだ 02」
忘れ物を探し、気づかせることのできるシステム「Fisans」は、例えば上映後の映画館やデパート等で、清掃と同時にロボットが忘れ物や落し物を見つけ、持ち主の元へ素早く届けることができる。
発表した黒田幹大さんは、小学校6年生の頃からJST(科学技術振興機構)の主催する未来の科学者養成講座に参加、また独学でC#を学ぶなど、若干中学3年生ながら科学技術に関する知識も豊富で、終始堂々と作品を説明していた。
決勝大会のためにはるばる長崎から上京したものの、翌日から期末試験を控えていたため、短い滞在時間となってしまった。それでも、他の参加者に大きな存在感を与えていた。
作品名「CABA-ROBO」/チーム名「みやけん」
「くろだ 02」の後で、ひときわ緊張したと後に話していたのは、チーム「みやけん」の面々。今回発表したのは、ちょっと大人の雰囲気を醸し出す、「CABA-ROBO(キャバロボ)」という作品。名前の由来については言うまでもないが、出張などで遠距離状態の家族やカップルが、距離を気にすることなくコミュニケーションを取れるように考えられたロボットとなっている。遠隔操作でロボットがお酌をしてくれたり、ご飯を口に運んでくれることで、離れている寂しさを少しでも解消しようという思い入れに好感が持てる作品だった。
作品名「Mindeyes」/チーム名「一菜」
閉じた箱の中に入れられた果物や玩具を、人間の目では判別することが出来ない。チーム「一菜」が挑戦したのは、これらの見分けをロボットで行うという内容だ。電子レンジの10倍となる24GHzの電波と、リモコン等に使われる赤外線を使って、ベルトコンベアに載せられた牛乳パック製の箱に何が入っているかを見分け、あたかも透視しているようにそれぞれ指定のエリアに仕分けることに成功していた。機構部分も非常に安定しており、正確に物体を見分ける様子は、さながら工場などで活躍するロボットを連想させた。
作品名「ムスカ・ケトル」/チーム名「岐阜高専LEGO同好会」
学生にとってカップラーメンは非常に身近な存在であり、このカップラーメンを食べるまでの時間も楽しみたいという思いから、「ムスカ・ケトル」が生まれた。
動きまわったり、光ったりしながらカップラーメンの待ち時間を演出してくれるのだが、機構もさることながら、実際のケトルをモチーフに作られた外観は、決勝進出作品の中でもひときわ目立つ存在となっており、上部から吹き出す湯気を綿を使って作っているなど、作品への愛情が随所に見られた。
なぜムスカなのか、という質問には「某アニメ映画で、最後に3分間だけ待ってやる人から取りました」とのこと。
作品名「うつし太郎」/チーム名「長崎大学ロボットサークル」
一昨年に誕生し、普段は九州地区でのボランティア活動を行っている長崎大学ロボットサークルは、今回が初の九州外イベント参加となる。
「気軽に設置できる自宅警備ロボ」をコンセプトとして製作した本作品は、侵入者を検知するとゴム鉄砲による攻撃を行い、パトランプが作動、同時にカメラによる撮影を行い、犯人の特定に結びつけるなど、侵入者を撃退する頼もしいロボットと言えそうだ。
ネーミングの由来は「(ゴムを)撃つ」「写す」と、「~したろう(~してやろう)」という関西方面の方言を合わせたものとなっている。
作品名「ドミノロボットいーヴぃさん」/チーム名「Suelab」
気分転換にドミノを爽快に倒したい。しかしドミノを並べるのはとても面倒。Suelabの製作した「ドミノロボットいーヴぃさん」はそんな時、人間に代わってドミノを並べてくれるロボットだ。Android搭載のスマートフォンでマインドストームを制御し、ラジコン感覚で搭載したドミノを好きな形に並べ、倒すといった一連の動きを楽しむことができる。ドミノの搭載数などに課題はあるものの、走行しながら綺麗にドミノを並べていく様子は非常に安定しており、完成度の高さを感じさせた。また、本作品では3Dプリンタでパーツを生成するという工夫も見られた。
作品名「大阪のオカン」/チーム名「ToolBox」
「大阪のオカン」を簡単に紹介すると、どうしても寝ずに仕事をしなければならない時にサポートしてくれる、眠気防止ロボットということになる。仕事中に寝てしまった人を激しく起こしながらも、同時に眠気防止のミント菓子を差し出してくれる。大阪のオカンの厳しさと優しさを表現した、というのがコンセプトだという。
頭の傾きで寝たかどうかを判断すると、すかさず回転灯が動作してピンポン球を発射、Twitterにメッセージが送信される。ユーザーが目を覚ましてボタンを押すと、回転灯を止まってミント菓子が出てくるという流れになっている。深夜に一人で作業する時の心強い味方になるかもしれない。
審査員紹介
決勝大会の審査を担当するのは、masuidriveこと増井雄一郎氏、株式会社ツクロアの秋葉ちひろ氏、株式会社アフレルの軽部禎文氏の3名。決勝プレゼンテーション中も、出場者にさまざまな質問をぶつけ、各作品の優れているポイントを見極めている様子だった。
“Rubyの女神”を迎えて行われたトークセッション
ひと通りプレゼンテーションを終え、審査員が会場を後にすると、本決勝大会のスペシャルゲストである“Rubyの女神”こと池澤あやかさんがあらためて紹介され、司会の工藤氏とアフレルの渡辺氏の3名によるトークセッションが行われた。
トークセッションでは、はじめに池澤さん自身が製作したEV3ロボットを紹介。その後、プログラミングのできる女優でありながら学生という多才な経歴を紹介しながら、自身が興味を持っているという金魚の研究や、中学校で必修化されたプログラミングの授業などの話題で盛り上がりつつ、審査待ちの会場内を楽しませてくれた。
審査結果発表!グランプリ作品はチーム「一菜」の「Mindeyes」
トークセッション後、審査結果を携えて審査員たちが再登場。多彩な決勝作品の中、チーム「一菜」の製作した物体識別ロボット「Mindeyes」が見事グランプリを獲得した。
受賞したチーム一菜の東谷萌菜子さんのコメント「自分だけでなく、お父さんや家族みんなが練習の時も支えてくれたのが良かった。ロボットも審査員の前でいいところを見せようと頑張ってくれたので1位になれたのかなと思いました。」
父親の賢一さんは萌菜子さんについて、自分よりレゴ教室に通い、プレゼンもこなしていた。作品のダメ出しもすごかったので、ここまでこれたのは彼女のおかげ、それから皆さんのおかげです。と話していた。
その他の各賞受賞者は以下の通り。
準グランプリ:作品名「2wayUFOキャッチャー」/チーム名「ASONDEMITA」
第3位:作品名「CABA-ROBO」/チーム名「みやけん」
チームラボ株式会社賞:作品名「CABA-ROBO」/チーム名「みやけん」
チームラボ株式会社賞は、第3位と同じくみやけんが受賞。連続での受賞に会場も沸いていた。
アフレル賞:作品名「Fisans」/チーム名「くろだ 02」
長崎から期末試験前日に参加し、見事なプレゼンテーションを披露した黒田幹大さんには、飛び入りのアフレル賞として、レゴマインドストームEV3が贈られた。
審査委員長の増井氏による総評
採点ではスコアが迫っておりどのチームを評価するか非常に悩んだ。1位から3位までに共通するのは、プロダクト(製品)レベルでまとまっているかどうか。そういった視点だと年の功か、大人が強くなってしまう傾向がある。子どもの発想力と、製品をまとめる力を両方持っているチームが強かった。
1位のチーム「一菜」については、審査員全員が「完成度」の項目で満点をつけており、満場一致で決まった。デモンストレーションの完成度や、モーターを使った通信など技術的な観点からも完成度の高さを感じることができた。2位の「ASONDEMITA」は、実際のイベントで使われている様子を見ることで完成度の高さを十分感じられたし、子どもと一緒に楽しみたいという気持ちも強く伝わってきて、これらが採点に反映された。親子チーム以外で受賞した3位の「みやけん」は、I2CやArduinoなど新しいデバイスを使い、幅広い技術を使いながらも、遠隔地の人とコミュニケーションを取るという面白いパッケージをまとめた点を評価した。マインドストームの新しい方向性が見ている人にも伝わったのではないだろうか。
発売されたばかりのEV3についても触れ、情報も少なく、また準備期間も短かったため、完成度を上げることは大変だったと思う、と語る。前作NXTに比べてメモリも大幅に増え、Bluetoothでスマートフォンと連携したり、Wi-FiでTwitterやFacebookと連携ができたりと大幅に進化しているので、次回以降も開催されるのであれば、そういった機能を生かした新しい試みも見てみたい。と結んだ。次回以降については事務局より前向きに検討中とのこと。
増井氏が話したとおり、どの作品も非常に興味深いものばかりだったため、ぜひ次回も開催して新しいロボットが次々と登場することを期待したい。
【参考リンク】
(リンク先最終アクセス:2013.12)
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