「DeFi」と「ハイプ・サイクル2023」

2023年9月28日(木)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
第8回の今回は、ブロックチェーンを基盤とした分散型金融の「DeFi」と、毎年ガートナー社が公開する「ハイプ・サイクル2023」で注目されるテクノロジーについて解説します。

ハイプ・サイクル2023

IT分野の調査会社米ガートナーが毎年公表しているハイプ・サイクル2023年版が8月16日に公開されました。これは、新しいテクノロジーが世の中に広まるプロセスが、①黎明期から②過度な期待のピーク期を迎えた後で、③幻滅期を経てから④啓発期にたどり着き、ようやく⑤生産性の安定期へと変化する注目度(ハイプ)の変化を表したものです。そして、現在、どのようなテクノロジーがどの段階になっているかを米ガートナーの見解でプロットしています。

米ガートナー発表のハイプ・サイクル

図6は、米ガートナーが公開したハイプ・サイクルです。現在、過度な期待のピーク期を迎えている技術には表3に示すものがあります。

表3:Hype-Sycle2023における過度な期待のピーク(Peak of Inflated Expectations)の技術

テクノロジー名 概要
Cloud-Native クラウド環境で最適化されたアプリケーションを開発・運用するアプローチ(オンプレミスのクラウド化ではない)
AI Augment AIで人間の知識や判断力を高める技術。人間と協働するAI
Generative AI ChatGPTなどの生成AI
API-Centric SaaS APIを中心としたSaaS。他のアプリケーションとの連携やフロントとバックの通信をAPI中心にアーキテクトする構想
Open-Source Program Office(OSPO) 企業や組織でオープンソースの利用や公開に関する戦略・方針を決定する部署
Cloud-Out to Edge AI TRiSM クラウドからエッジ端末までのAIの信頼性、リスク、セキュリティを管理する取り組み

NFTやWeb3、メタバース、ブロックチェーンなどは見当たらないですね。実は米ガートナーは2021年から「幻滅期」「啓発期」「生産性の安定期」にある技術はフォーカスしない方針にしたようで、この段階にある技術はプロットされなくなっているのです。2022年版には「過度な期待のピーク期」にNFTとWeb3があり「黎明期」にメタバースがあったのですが、これらはもう消えていますね。

Gartner Hype Cycle 2023

図6:Gartner Hype Cycle 2023【出典】Gartner Newsroom

ガートナージャパン発表の日本ハイプ・サイクル

ガートナージャパンは独自に「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」を毎年作成しており、8月17日に2023年版を発表しました(図3)。嬉しいことに、日本では「幻滅期」や「啓蒙期」に入った技術もきちんとフォローしてプロットしてくれています。

日本のハイプ・サイクル 2023

図7:Gartner Hype Cycle 2023【出典】ガートナージャパン ニュースルーム

「幻滅期」を見るとWeb3やNFT、メタバース、ブロックチェーンなど、本連載で取り上げているテーマが並んでいます。幻滅期の後でそのまま衰退する技術と啓発期を経て定着する技術もありますので、これからどうなるか注目ですね。せっかくなので、日本のハイプ・サイクルの過度な期待のピーク期にある技術も表4にまとめてみました。

中でも私が注目しているのがファインデーションモデルです。ChatGPT EnterpriseのようなLLM(大規模言語モデル)を使い、企業が自社のデータを使って再訓練してAIを活用する時代が到来したと感じています。

表4:日本のハイプ・サイクル2023における過度な期待のピークの技術

テクノロジー名 概要
スマート・ワークスペース リモートワークやワーケーション、おしゃれオフィスなど従業員の働く環境を支援するコンセプトやテクノロジーのこと
デジタル倫理 AIやIoTなどのデジタルテクノロジーが社会に与える影響やリスクに対して、倫理的に健全な方法で管理すること
デジタル・ツイン 製造業や都市開発などで活用されている技術。現実のもの(機械や車など)をデータで仮想空間上に再現する
ファウンデーション・モデル(NLP) 大量データで訓練されたAIを、さまざまなアプリケーションへ適用できるように再訓練できるモデル
生成AI ChatGPTなどの生成AI
コネクテッド・プロダクト インターネットに接続してデータをやり取りできる製品。車(コネクテッドカー)や機械など幅広い製品に広がってきている
分散型アイデンティティ ブロックチェーンなどを使って、個人や組織が自分のIDを管理してやり取りすること。NFTは自分が何を持っているかの証明であるのに対し、こちらは自分が誰なのかを証明するもの
People-Centric 「人間を中心に」という概念。AIや都市計画、セキュリティなどさまざまな分野で使われる

NFTの今後

投資に関する概念で大バカ理論(Greater Fool Theory)というものがあります。これは、本来の価値よりも高い値段で資産を買っても、それよりも高い価格で買う人(より大きなバカ)が後から現れると期待して購入を決意するという考え方です。1989年の日本の土地バブルや2021年始めのNFTバブルなどは、こうした大バカ理論で起こったものです。

日本の土地はバブル後に急落しましたが、投資ではなく利用するという本来の価値で評価され取引されています。同じようにNFTのバブルもはじけましたが、NFTの本来の価値できちんと普及してゆくと思われます。

では、NFTの本来の価値とは何でしょうか。それは「これが本物であり、私が所有している」という証明です。例えば大谷選手の打った第50号のホームランボールを手に入れたとしましょう。今まではこれをオークションに出そうと思ったときに、大谷選手がボールにサインしてくれているかが重要でした。しかし、NFTという統一の手法でこうした証明が行われるようになれば、偽物疑惑という課題をクリアしやすくなります。

デジタル商品はモノ以上にNFTが重要です。デジタルはコピーが容易(というか本物と同じものを生成できる)なので、NFTによりデジタル証明するニーズは格段に大きくなります。今後は、偽物疑惑問題に対抗するためにいろいろなものがNFT化されてゆく社会が来ると考えています。

まとめ

第8回の今回は、以下の内容について学習しました。

  • DeFiは銀行や証券などの金融機関の役割をP2Pネットワーク型で行うもの
  • DeFiの銀行業務としてステーブルコイン型の仮想通貨を発行している事例
  • DeFiの証券業務として株式やETF(投資信託)、商品(金や石油など)などを合成資産としてトークン化して取引している事例
  • DeFiの保険業務として暗号資産の損失を補償する保険の事例
  • DeFiの不動産取引業務として不動産をトークン化し、幅広いユーザーに販売している事例
  • DeFiに続いて中央管理者不要なP2P型サービスが金融以外にも広がるか注目に値すること
  • DeFiのメリットとして手数料が安い、グローバルアクセス、24時間365日運用などがある
  • ガートナーのハイプ・サイクル2023では、生成AIなどが過度な期待のピーク期

これまで、8回にわたってブロックチェーンの仕組みやその技術を使ったスマートコントラクト、それらを利用して流通し始めたNFTなどを解説してきました。次回からはWeb3のもう1つの柱である「セマンティックWeb」編に入ります。こちらも大きなロマンを感じさせられる技術です。お楽しみに!

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部、2019年東証スタンダード上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」「エンジニアなら知っておきたい システム設計とドキュメント」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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