即活用!「レビューの質チェック票」
レビューの価値の具体的な算出方法
例えば、ある設計文書レビューで不具合を指摘したとして、以下のように評価する。
まず、このレビューの指摘による修正工数は1行記述を追加するだけで微々たるものだとしても、もしもその指摘がテスト工程で発覚したらシステム全体に修正が及ぶと予想できるような内容であれば、修正範囲を「大」と評価する。つまり、あくまでもレビュー時点での修正範囲ではなく、後のテスト工程での修正範囲の予測値とする。「大」は5ポイントである。
続いて、発見工程は、設計文書レビューなので、「設計」となる。「設計」は2ポイントである。
ここで、1ポイント当たりの修正工数は4時間と想定し、賃率が5000円/時間とする。これを前述の式に当てはめると、以下のようになる。
修正範囲:5P×発見工程:2P×1ポイント修正工数:4H×賃率:5000円=20万円
これをすべての指摘ごとに評価し、最後に合算する。ただしポイントが付かない指摘も有り、その場合は0円とする。
図3-1に実際の設計文書レビューにて、レビューの価値を算出した例を示す。
レビューの投資対効果
今回の例で、レビューの投資対効果を検討した。
投資は、このレビューに参加したメンバーの工数に先ほどの賃率を掛けることで費用が算出可能である。今回の例では、事前準備なども含めてトータル24Hだったので、12万円となる。
これに対して、算出した修正規模、ユーザーインパクトの損失防止金額を比べることで、今回のレビューが割に合うものであったのかを判断することが可能となる。グラフで示したのが図3-2、3-3である。
修正規模の方は、12万円のレビューコストを掛けて、64万円の将来発生したであろう修正コストを予防できたので52万円のコストセーブと考えることができる。
ユーザーインパクトの方は、レビューで漏れた不具合のすべてがテストでも漏れてユーザークレームになるとは想定できないため、この420万円という金額をそのまま効果と見るには無理が有る。適切な例えと言えないかもしれないが、12万円で420万円の損害保険を掛けたととらえれば、妥当な投資と考えることも可能である。
これらの金額効果の算出方法の正確さに議論の余地がある事は重々承知しているが、それでも従来の単なる指摘件数よりは、レビューの価値を実感しやすいものであると考える。
このレビューの価値メトリクスを活用することで、よりレビューの重要性が認識され、上流工程でのレビューが促進される。また、文書のあら探しのようなうわべだけのレビューでは意味が無いことを理解し、事前準備やレビューアの人選などレビュー自体の質を高めなければ、価値の高い指摘は出ないことが認識される。すぐにそうはならないかもしれないが、継続的にこれらのメトリクスを測定し、見える化していくことで、徐々にそういった文化が醸成されていくことを期待する。
この手法を実践するに当たって、新たに発生する工数は、もちろんレビューの規模にもよるが1回のレビュー当たりの大よその目安として、以下が想定できる。
・レビュー会議後にレビューの質チェック票を記入する時間(1人当たり数分)
・レビューの質チェック票を集計する時間(30分程度)
・指摘内容の修正範囲とユーザーインパクトを評価する時間(1指摘では、かかっても数分、大抵は即時に評価可能、レビュー会議内で評価をすれば、別立てに工数を用意する必要無し)
すべて足しても1時間程度のものであろう。このことは実際の現場でのトライアルにて実証済みである。このように、どのような組織でも適用可能な汎用性のある手軽な手法となっているので、ぜひともカスタマイズして活用していただければ幸いである。