マイクロソフトはいつからOSSラブになったのかーOSS関係者座談会

2017年6月30日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
ここ数年でマイクロソフトに転職したエンジニアが語るOSSに振り切れたマイクロソフトの過去と未来を探る座談会。書けないことのほうが多いのが非常に残念なインタビューであった。

日本マイクロソフトのオープンソースソフトウェアに対する取り組みを掘り下げるこの特集の最後は、複数のマイクロソフト社員による座談会をお届けする。参加したのはより顧客やパートナーに近いところで仕事をしているエンジニアたちだ。マイクロソフトは如何にしてOSSを愛するようになったのか?を掘り下げる良い機会となった。

今回の座談会の参会者は以下の通り。

  • 藤田 稜(OSS Japan Tech Lead/米国Microsoft Corporation所属)
  • 廣瀬 一海(Azure Technology Solutions Professional/クラウドプラットフォーム技術部)
  • 吉田 雄哉(Azure Technology Solutions Professional/クラウドプラットフォーム技術部)
  • 久森 達郎(Technical Evangelist/Developer Experience & Evangelism)

ーー今回がこのインタビューシリーズの最後ということでより顧客に近い仕事をしている皆さんにも集まって頂きました。Azureチームが元Red Hat、元IBM、元HPEという強者だったのに比べると「良い人」感が半端ないですね(笑)

藤田:わはは。そうですかね。ちなみにこの中では藤田と久森がマーケティング的な仕事、廣瀬と吉田がお客様に近い仕事で案件もこなすし、エバンジェリスト的な仕事もやる人という感じですね。

久森:私は特にVisual Studio(以下、VS)に関してアドオンやプラグインを作ってくれるベンチャーのような企業と付き合うことが多いので、デプロイ王子(廣瀬氏)とかパクえさん(吉田氏)とかとはちょっと違う感じかもしれないですね。そういうベンチャー企業の人ってインターネットで情報収集するのが当たり前で、例えばQiitaにコピペできるコードが無いと評価してもらえない、みたいなことがあったりするので、そういう企業に話をする時はどういう人にちゃんと対応するのか? を非常に気にしています。

左:藤田氏、右:久森氏

ーー情報の中身そのものよりも「誰々がこれは良いと言ったから、じゃあ使ってみようか」的な感じになるということですか?

久森:そうですね。誰と話をするのかによってその後の影響力が違うっていうことなんですよね。なので誰に伝えれば影響力があるか? は気にします。

ーーその辺はウンチクがあるかどうか?的にも見えますね。

久森:そのウンチクという意味ではVS Codeって凄いソフトウェアで、マイクロソフトが本気を出してエディターを作ったっていう……。何せエリック・ガンマという著名なエンジニアが作っているんですけど、彼の下に十数人エンジニアがいてVS Codeを作っているんです。

注:エリック・ガンマ(Erich Gamma)はJUnitやJDTの開発者として有名。デザインパターンに関する著作でも知られている。ガンマ氏と他に3名で共著したのが「Design Patterns - Elements of Reusable Object-Oriented Software」『オブジェクト指向における再利用のためのデザインパターン』だ。

廣瀬:無料のソフトウェアを本気で開発しているんですよ(笑)。他のエディターから乗り換えたっていう人も結構いるみたいですし。

吉田:ElectronベースのエディターでいうとGitHubが作っているAtomがありますが、それと比べても非常にお金と人材をかけて作っている感じはしますよね。しかしVisualっていう割りにはGUIの開発ができないっていう部分が、まぁ、ありますが……。

左:廣瀬氏、右:吉田氏

廣瀬:確かに! そう言われてみればビジュアルではないですね。名前はキャラクタースタジオでも良かったのかな(笑)

久森:まぁ、クラウドはAzureっていうブランド、開発ツールはVisual Studioっていうブランドに集約していくっていう意志は感じて欲しいです。

吉田:急にVisual Studioじゃなくて変な動物の名前とかを付けられるよりもずっと良いです(笑)。生息地を調べる必要が無い(笑)。

廣瀬:変な名前付けて他の会社の商標と被るよりはずっと良いですよね。

ーー名前の付け方はマイクロソフトらしい感じですけども、互換性という部分も他のOSSとは一味違うというか。

吉田:そうですね。AzureのPaaSにオンプレで作った昔のWin32のアプリを持っていこうとしたお客さんがいましたけどちゃんと動くんですよね。

久森:それはホントにやってみた時に「おお! 動いた!」って軽く感動しました。このスタックの意味はコレだったのかって。こうやって互換性をちゃんと保証しているんだ、ということに気付いた時がありましたね。

廣瀬:そうやって昔、作っていただいたアプリケーションを意地でもサポートするっていう部分はOSSらしくないですね(笑)。そういうIT部門の人たちからお金をいただいてきたことは忘れないっていう。

ーーではちょっと過去のどの辺からOSSラブになっていったのか? そしてこれからどうなっていくのか? と言う話をしましょう。

廣瀬:特にお客さんと話をしていると感じることですけど、これはプロプライエタリなソフトで、こっちはオープンなソフトでみたいな択一じゃなくて適材適所にソフトウェアを選択していくという状況になりつつある、と思います。お客さんのほうがその辺はうまく使い分けてるというのを実感しますね。

久森:これはビッグデータ系のソフトウェアでは顕著なんですけど、実はマイクロソフトが開発するHadoopのプロプライエタリ版というものがあったんですが、ビッグデータ系ってどうしても進化しているエコシステムそのものがOSSをベースにしているじゃないですか。なので途中でマイクロソフト自身が「あ、これはもうプロプライエタリで作るよりもOSSを取り込んでいったほうが良いな」って感じたんじゃないかと思うんです。なのでよく「マイクロソフトはOSSを実際に使っているの?」って言われるんですけど、Office365のDelveとかみてもらうと分かるんですが、裏でCassandraとかがガンガン動いているし、Redisも動いてるし、そういう時代になってきた、ということだと思います。

ーーいつ頃からそうなってきたんでしょうね?

吉田:私が転職してきたのはだいたい2年前なんですけど、その時に社内を回って紹介して貰ったんですけど、その時に何故かオレンジ色のネックストラップを着けて回ったんですよ。

ーーオレンジ色ということはUbuntuですね(笑)Azureのじゃなくて(笑)

吉田:そうです。「UbuntuっていうOSSがありまして、オレ知ってるんですよ~」アピールで(笑)そしたら「お前、なんで(Azureじゃなくて)こんなの着けてるんだ」っていうコメントをマジでする人がいまして(苦笑)

廣瀬:まだそういう人が日本のオフィスにはいたんですよね。

久森:でもそれってサティア・ナデラが「Microsoft♡Linux」ってプレゼンした半年後くらいなんですよ。なのでトップが方向転換したとしてもそれが末端にまで行き渡るのには時間がかかったという。徐々に変わってきたとは思いますけど。

吉田:それに関して言えば、ここ最近、外から入ってくる人がマイクロソフト製品のエキスパートではなくてOSSのエキスパートになったということが大きいですよね。これまであったと思われるボーダー、つまりプロプライエタリとオープンの間の壁を乗り越えてマイクロソフトの中にそういうエキスパートが入ってきたということじゃないですかね。実際にお客さんのところに行けば、マイクロソフトの製品だけでシステムが作られている訳ではないので、お客さんが望むような話をできる人が増えて来ています。逆に我々みたいにOSSがメインの人にはWindows固有のことを訊かれても困るんですけども(笑)。

ーーただ外部にはそういうことがあまり伝わっていないような。つまりインターネット関連の人からするとマイクロソフトはOSSをやっているという辺りの宣伝があまり上手くないと。これはCTOの榊原さんも言ってましたけど。Googleのほうが上手くやっている印象があります。

久森:マイクロソフトリサーチの論文とかかなり出しているんですけどね、実際には。ただ、そういう人達ってGoogleに関する情報の感度が高いというか生存戦略に関わるっていうか(笑)。つまりそういう人ってGoogleのソフトを使うのが生活や仕事の一部になっているので感度が高い。でもマイクロソフトの製品は直接には関係無い、なので情報があっても反応しない、つまり無いことと同じ、ということじゃないですかね。

廣瀬:ただ最近、パブリッククラウドに関して言えばだいぶ認知されているとは思いますけど。

吉田:そうですね、最近はAWSの次にAzureって言って貰えるようになったなとは思います。ただクラウドを使っていない人なんて世の中に一杯いるわけですよ。なのでクラウド同士で戦っている場合じゃなくて、もっと使って貰えるようにお互いが協力するべきなんじゃないかなとは思います。だってもうあと3年で東京オリンピックがきちゃうんですよ。お互いが脚の引っ張り合いしてる場合じゃないんですよ(笑)。

ーー確かに。GoogleとAmazonとMicrosoftが協力して東京オリンピックに向けたシステムを東京都と一緒に開発するなんて夢がありますよね。

吉田:そうですよ。そのためには私達だけじゃなくてCTOの榊原さんにもっと頑張ってもらわないと(笑)。

廣瀬:パクえさん、良い人だ!他の会社とか絶対に批判しないですもんね!

吉田:そういうポリシーで仕事してますから(笑)

エディター宗教戦争に終止符を打ちそうなVSCodeの裏話やJavaScript方言の興亡、更にSkype for Linuxのアフリカでの使われ方まで、多方面にジャンプしながらもマイクロソフトとOSSとの関わりを語り合えた座談会だった。1年後に同じメンバーで定点観測をしたくなるメンバーを揃えていただいた藤田氏に感謝したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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