「DApps」と「メタバース」

2023年9月7日(木)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
第7回の今回は、今後社会広く普及していくと思われる「DApps」と「メタバース」について解説します。

はじめに

前回は、スマートコントラクト上で取引されるデジタルアートやゲームなどのNFTについて解説しました。NFTバブルはいったん終焉しましたが、今後はDAppsとともに社会に幅広く普及していくと思われますので、メタバースとNFTの関係やNFTの規格、DAppsなどについて理解しておきましょう。

Googleトレンドで見るNFTの動向

前回で紹介したNFT高額取引事例のほとんどは2021年2月から3月にかけてのものでした。その後、NFTに対する人々の熱量はどうなっているのでしょうか。

Googleトレンドで調べてみましょう。図1は、世界中の人たちが“NFT”というキーワードを検索したボリュームの推移です。Googleトレンドはピークを100とした相対的なグラフで表されるのですが、これを見ると2021年2月〜3月のNFTバブルの頃に急激に立ち上がったことがわかります。

NFTの人気動向

図1:NFTの人気動向 (【参考】Googleトレンド)

ピークは2022年の1月となっており、アーリーアダプターたちの熱狂が裾野(マジョリティ)に広がるのに約1年くらいの遅延が発生する傾向が見て取れます。ピークを迎えた直後から急速に熱が冷めましたが、現在は落ち着いた動きになっています。

メタバースとNFT

Web3の要素でもあるメタバースとの関係でも見てみましょう。前回で紹介したAxie InfinityやCryptoKittiesなどのゲームも一種のメタバース(仮想空間)と言えるのでボーダーラインを付けるのは難しいですが、メタバースとNFTを組み合わせたDApps分散型アプリケーションも多数リリースされています。有名どころを2つ紹介しましょう。

Decentraland

土地の売買を行うメタバースDAppsは多いですが、中でも人気があるのは2020年2月に公開されたDecentralandです。イーサリアム上のバーチャルリアリティで土地(LAND)を所有し、他者と売買できるプラットフォームをDAppsとして提供しています。土地や建物、ウェアラブル(服飾品)などさまざまなアイテムはNFTとして所有権が記録され、MANAというDecentralandの内部通貨を使ってマーケットプレイスで取引できます。

2006年頃に話題となったセカンドライフに似ていますが、セカンドライフはLinden Labという企業が提供するWeb2.0の中央集権型だったのに対し、DecentralandはP2PのWeb3の分散型なのが大きな違いです。

Decentralandのマーケットプレイス

図2:Decentralandのマーケットプレイス【出典】Decentralandのホームページ

ICO

Decentralandは2017年にICOという手段で資金調達をしています。ICO(Initial Coin Offering)とは、新しい暗号通貨やトークンを公開して資金調達する手法です。株式公開して資金調達する手段のことをIPO(Initial Public Offering)と言いますが、株式ではなくデジタルトークンを発行するというものです。ICOが注目されたのは2014年のイーサリアムのICOで、このときは約18億円相当のビットコインの資金調達に成功しました。

2017年から2018年にかけてICOが活発に行われましたが、詐欺などの被害も増えて各国で規制が強まり、その後はSTO(Security Token Offering)やIEO(Initian Exchange Offering)などの調達手法に発展しました。STOは証券に似たトークンを販売する資金調達方法で、IEOは暗号通貨取引所と連携し取引所を通じてトークンを販売する資金調達方法です。

The Sandbox

The Sandboxも仮想空間上で土地(LAND)を購入・所有・販売できるDAppsです。ユーザーが主役というコンセプトのもと、VoxEditというツールを使用して3Dアセットを自分で作成し、それをマーケットプレイスで他のユーザーに販売できます。

アセット(ASEET)とは資産や資源という意味ですが、ここではキャラクターや建物、装備品(武器やアクセサリー)、乗り物、(車や船など)、環境要素(木や岩など)、音楽(バックグラウンドミュージックや効果音)、などさまざまなものがアセットNFTとして取引できます。

The Sandbox

図3:The Sandbox【出典】The Sandboxのホームページ

ボクセル

The SandboxのVoxEdit(ボックスエディット)は、ボクセルアートを作成できるツールです。ボクセル(Voxcel)とは、VolumeとPixelを組み合わせた言葉で、3次元空間における小さな立方体の単位です。2次元空間におけるピクセルの3次元版ですね。2次元のWebページではピクセルという単位を使いますが、3次元のメタバースだとボクセルを使い、立方体のレゴを積み上げるように立体をデザインするわけです。

Googleトレンドで見るメタバースDAppsの動向

メタバースの盛り上がりはどのような状況かGoogleトレンドで見てみましょう。図4は上記2つのサービス名のググられ具合を5年間の推移で調べた結果です。おまけでMeta社の提供するHorizon Worldsというキーワードも追加しています。青がThe Sandbox、赤がDecenralandで、黄色がMeta社のHorizon Worldsです。

NFTの人気動向

図4:メタバースDAppsの人気動向 (【参考】Googleトレンド【出典】Decentraland)

図1のNFTと似たようなグラフになっていますね。2021年11月にピークを迎えたあと、だいぶ熱が冷めているように見受けられます。FacebookがMetaに社名変更したのが2021年10月28日なので、ちょうどトレンドのピークに決断したことがわかります。Meta社もいろいろと巻き返しを計画しているそうですが、人々の情熱が冷めているのでもう一度社名を戻すかも知れないと勝手に予測しています。

DApps

DAppsという言葉について、もう少し詳しく説明しましょう。

特徴

DAppsとはDecentralized Applications(分散型アプリケーション)の略で、P2P技術をベースとしたアプリケーションのことです。具体的には、ブロックチェーン上でスマートコントラクトを利用することで実現できるアプリケーションを指し、次のような特徴が挙げられます。

1. P2Pネットワーク
中央集権的なサーバーに依存しないP2P(ピア・ツー・ピア)型のネットワークで、中央の管理者が不在でもネットワーク参加者の合意形成にもとづいてアプリケーションが動作することが保証されます。

2. オープンソース
多くのDAppsはオープンソースとして公開されていてコードを誰でも検証できます。コードの透明性が高いため、不正や改ざんなどが起こりにくくなっています。

3. セキュリティ
仮想通貨と同じブロックチェーン技術をベースとしているため、データの偽造や改ざんが非常に難しくなっています。

4. 独自トークン
DAppsによってはアプリケーションで独自のトークンを持っており、これを使用してシステム内での取引や報酬、特性変動などを行えます。

5. データの保全
ネットワーク上の各ノードに同じデータが保存されているので、中央サーバーがダウンしてデータが失われるというような大きな事故が起きません。

NFT(Non-Fungible Token)そのものもDAppsの一種と言えますが、ゲームのCryptoKittiesやメタバースのDecentralandなどもブロックチェーン上でNFTを所有・交換・使用するDAppsです。さらに、次回で解説するDeFi(分散型金融)の各サービス(銀行、証券、保険など)もブロックチェーン上でトークンを取引できるDAppsと言えます。

DAppsのP2Pネットワーク構造

DAppsがP2P型のアプリケーションだという特徴について、もう少し説明しましょう。中央集権的なサーバーがないということは、アプリケーションとデータの両方をすべてのユーザーが持つことになります。

図5は、第5回で説明したPoSアルゴリズムを使ったブロックチェーンの構造です。イーサリアム上のスマートコントラクトを利用したDAppsは、このようなPoSの合意形成アルゴリズムにもとづいて動作します。

DAppsのネットワーク構成

図5:DAppsのネットワーク構成

仕組みは仮想通貨とほぼ同じです。仮想通貨の取引がゲームやデジタルアートのNFTの売買に相当します。スマートコントラクトを支えるバリデータが取引データを検証してブロックに蓄積するところも同じです。ただし、仮想通貨の場合はcoinbase(コイン報酬)と取引手数料の両方がブロックをつないだバリデータに支払われるのに対し、DAppsの場合はGASと呼ばれる取引手数料だけが支払われます。

DAppsの端末

DAppsがアプリケーションとデータを各ノードが保持するからと言って、必ずしも自分の端末にアプリをダウンロードする必要はありません。DAppsによって利用方法は異なりますが、一般的には次のようなケースがあります。

a. WebベースのDApps
WebブラウザからDAppsにアクセスできる形態です。例えばイーサリアムではMetaMaskというウォレットをブラウザ拡張機能で実装でき、これを使うことでDAppsと直接インタラクションを取ることができます。

b. モバイルやデスクトップアプリ
モバイル端末やデスクトップ端末にアプリをインストールする形態です。通常、これらのアプリはApp StoreやGoogle Playなどからダウンロードできます。

c. 軽量クライアント

仮想通貨と同じく軽量クライアントで参加できるDappsもあります。すべての取引情報を保存・管理する代わりに、主要な機能を利用するための最小限のリソースのみを保持するスタイルです。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部、2019年東証スタンダード上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」「エンジニアなら知っておきたい システム設計とドキュメント」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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