KubeCon China 2024から車載システムの開発をクラウドで行うNIOのセッションを紹介

2024年11月7日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon+CloudNativeCon China 2024から車載システムにKubeEdgeを使うNIOのセッションを紹介する。

The Linux Foundationが主催するKubeCon+CloudNativeCon+Open Source Summit+AI_dev China 2024から、自動運転システムの開発にKubernetesとKubeEdge、仮想車輛をクラウド上に実装することでテストを加速させるNIOのセッションを紹介する。

プレゼンターはNIOのSaint Jiang氏とHuaweiのKevin Wang氏だ

プレゼンターはNIOのSaint Jiang氏とHuaweiのKevin Wang氏だ

コネクテッドカーを手掛ける新興メーカーNIO

NIOは2014年11月創業の電気自動車に特化した自動車メーカーだ。公式サイトをみれば単に電気自動車だけを製造しているのではなく、スマートホームやスマートフォンなども製造する新興メーカーであることがわかる。

●公式サイト:https://www.nio.com/

特徴として充電式のバッテリーではなく交換式のバッテリーをサブスクリプション形式で提供する企業であることから、早くからクラウドとの連携を視野にいれて開発を進めてきたことが伺える。

NIOの紹介を行うJiang氏

NIOの紹介を行うJiang氏

まず車載システムの過去からの進化のようすを解説した。ここで「E/E Architecture」と称されているのはElectrical/Electronicの略で、車輛に実装されるコントローラーとそれを繋ぐ配線を総合的に設計するための設計思想というべきものだ。詳細は下記のボッシュが公開しているWebページを参照されたい。

●参考:複雑化する自動車の機能を司る「E/Eアーキテクチャ」とは

ここで個別に設計実装されていたコントローラーが分散していた状態から、領域ごとにまとめられ中央のコントローラーが制御する方式へ、さらに最終的にはクラウドと接続されることで常に接続されて機能が実装され制御される状態に進化していくことを説明。上記のボッシュの解説では自動車がスマートフォンと同様にクラウドに接続されることは近い未来の姿であるという部分から、車輛内で収まっていたコンピュータシステムがNIOにおいてはクラウドに接続されることが必須であるという発想であることに注目したい。これは後半に出てくるクラウド上に仮想の車輛を実装するという発想に繋がるものだ。

E/Eアーキテクチャとその未来を解説

E/Eアーキテクチャとその未来を解説

そしてそれを実現するためにはソフトウェアの力が必須であるとして、Software Defined Vehicle(SDV)を解説。

SDVの解説。ここでもクラウドとの接続は当たり前のように出てくる

SDVの解説。ここでもクラウドとの接続は当たり前のように出てくる

ここでは機能別にハードウェアや配線からOS、アプリケーションまでカバーして解説を行っているが、セキュリティと開発から実装を担うツールチェインも視野に入っていることがわかる。

SDVを実現するためのソフトウェア開発の要点を解説

SDVを実現するためのソフトウェア開発の要点を解説

このスライドではSDVを実装するためにはアジャイル開発とデリバリーの実現、コストの低減、そして複数の開発チームの協力体制が挙げられている。

SDVの開発はクラウドネイティブが前提

HuaweiのWang氏がソフトウェア開発にクラウドネイティブが必要であることを解説

HuaweiのWang氏がソフトウェア開発にクラウドネイティブが必要であることを解説

プレゼンターがHuaweiのWang氏に交代してアジャイルなソフトウェア開発とデリバリーにはクラウドネイティブなツールが必要であるとしてCNCFのランドスケープを紹介。

クラウドネイティブを車載システムに応用する際のチャレンジを紹介

クラウドネイティブを車載システムに応用する際のチャレンジを紹介

再度、Jiang氏が登壇し、クラウドネイティブなシステムを車載システムに実装する際の要点を説明。ここではコンピューティング資源が限られていること、エッジノードの運用管理、ネットワークにおいてコストやレイテンシー、そして常時接続が難しいことなどを挙げて、サーバーとクライアントが安定して接続されるクラウドコンピューティングとは違うことを強調した。

CNCFのエコシステムからKubeEdgeを解説

CNCFのエコシステムからKubeEdgeを解説

そのエッジ側の実装としてKubeEdgeを挙げて解説。ここではNIOがクラウド側をKubernetes、車載システム側の実装はKubeEdgeを想定していることがわかる。

クラウドとエッジの中間に仮想的な車輛を位置付けて機能面のテストを実施

クラウドとエッジの中間に仮想的な車輛を位置付けて機能面のテストを実施

このシステム構成図で特徴的なのは、クラウド側に機能テストのための仮想的な車輛を実装してそこで集中的にテストを実施しているという部分だろう。

クラウド側のコアはKubernetesで実装

クラウド側のコアはKubernetesで実装

ここではクラウド側はKubernetesで実装されていることが解説された。

バッテリーのヘルスチェックを行う機能を説明

バッテリーのヘルスチェックを行う機能を説明

そしていかにも電気で駆動される車輛ならではの機能、バッテリーのヘルスチェックに関するデータ解析の説明を行った。このアプリケーションもクラウドとエッジで実装され、常に最適なアルゴリズムがシステムに更新されていくという。

クラウドに実装された仮想車輛で機能テストを実施

クラウドに実装された仮想車輛で機能テストを実施

さまざまなアプリケーションが実装した機能に対するテストについては、ラボのテスト車輛だけではなくクラウド側に実装された仮想車輛でテストがフルに行われると説明。クラウドとエッジの両方がKubernetesとKubeEdgeで実装されており、車載システムをクラウド側に寄せていることがわかる。

このシステムによって得られた利点を解説したのが次のスライドだ。

NIOのクラウドプラットフォームの利点を説明

NIOのクラウドプラットフォームの利点を説明

ここでは開発効率、品質、コストが挙げられている。品質の部分で強力な並列処理と自動化された機能テストが挙げられているが、それの具体例が仮想車輛での機能テストということだろう。

最後にまとめとしてKubernetesとKubeEdgeによる実装、アジャイル開発と頻繁なデリバリー、自動化された機能テストなどを再度振り返り、セッションを終えた。

セッションのまとめ。クラウドネイティブを最大限利用している点を訴求

セッションのまとめ。クラウドネイティブを最大限利用している点を訴求

創業10年という自動車メーカーらしく、レガシーを持たない強さが存分に発揮された内容のセッションとなった。機能テストに仮想車輛を使うという部分はモーターとタイヤが付いて人が乗り込む車輛とは言え、コンピュータのレベルでは大量のセンサーから上がってくるデータが実体であるという発想から、それを仮想のデバイスとして実装して機能テストを行うことが現実的であることを示していると言える。

セキュリティ面での工夫やネットワークコネクションが失われた際のリカバリーをどうやっているのか、などについて詳しく話を聞きたいと思わせる内容だった。NIOとその開発を支えていると思われるHuaweiが今後どのようにクラウドネイティブな車輛を実現してくれるのか期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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