「ストーリーテリング」を使ってビジネスを有利に展開する方法

2024年11月26日(火)
宮川 文吾
本連載では、演出家であり脚本家である著者の経験から、他業種の視点でエンジニアに役立つ知識などを紹介していきます。

ようやく恐ろしい程の暑さも過ぎ去り、秋をすっ飛ばして冬へ突入しそうな今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。宮川です。こんにちは。夏場、大量の汗をかいては「こりゃいかん!」とかいた以上のビールと日本酒を補給し、今年も無事にマシュマロ体型キープで冬を迎えることになりました。最近は本格的に日本酒への興味が高まり、テイスティングという名の飲み荒らしに精が出ている今日この頃です。読者の皆さまと日本酒の会でもやりたいところですね。

トランプ氏に見るストーリーテリングの重要性

ところで、原稿を書いている目の前でトランプ前大統領が返り咲き確実となりました。

第2次トランプ政権がどのような展開を見せるのかはさておき、職業的にどうしても気になるのが「言葉の使い方」です。その点、トランプ氏は非常に優秀です。トランプ氏が使う単語は主に小学校で習うレベルのものばかりですが、非常に感情的で、良いことも悪いことも、今どきの言い方で言えば“盛って”伝えようとします。しかも話し言葉で。彼のXでの発言もほとんどが話し言葉ですよね。例えば、

「今日、寝坊して遅刻した」

という簡単なエピソードを、

「今日さ、朝寝坊してね。  学校まで走って向かってたんだけど、そこの曲り角で立派な犬が歩いててさ。  見とれてたら結局遅刻しちゃったよ」

、と次の会話に繋がるような要素をいくつか入れたりするわけです。さらに、

「昨日の夜、スティーブと話し込んで深夜になっちゃってね。  朝起きれなくて、パンを咥えて走ってたら、曲がり角で熊とぶつかってさ。  いや、熊じゃなくて大きな犬だったんだけど!  この展開、恋が生まれるか、その犬が転校生だったか、どちらかだと思わないかい?  とか考えてたら結局遅刻しちゃったよ」

くらいなスピーチをしていますよね。文字にするとアレですが、スピーチを一種の会話だと考えるとどれほど魅力的か、お気づきになると思います。つまり、文章の中にちゃんとしたストーリーを盛り込んでいるんですよね。感情を入れながら。

ビジネスでのストーリーテリングの応用と効果

ストーリーについて解説すると、必要な要素は明確で、

  1. 登場人物(キャラクター)
  2. 目的(ゴール)
  3. 葛藤・問題(コンフリクト)
  4. 解決・結末(リゾリューション)
の4要素があることです。今、このコラムで何故ストーリーに触れているかと申しますと、昨今「ストーリーテリング」を利用したビジネストークが主流になってきているからです。つまり、会社は「モノ」を売るのではなく、この商品を買うことで得られる「体験」を売るという考え方にシフトしているんですね。

言い換えると「商品の良さ」をPRするのではなく、「この商品にまつわるメッセージや、商品を手にしたあなたが得られる幸せ」を伝えることで、契約に繋げるわけです。これは単に営業のお仕事ではなく、開発や製造サイドの方々も同じように共有・共感してチームとして進めて行くことで大きな成果が出ることもデータとして証明されています。

ストーリーテリングというのは、古代では吟遊詩人やシャーマンといった語り人や伝達者を指す言葉でしたが、最近ではこのようにビジネスの世界で使われることも多くなりました。

ストーリーテリングはマーケティング、教育、プレゼンテーション、ビジネスの場面でも役立ちます。特にマーケティングでは、ブランドの価値やミッションを伝えるために、共感を呼ぶ物語が使われます。また、教育の場面では物語形式で情報を提供することで、学習者の興味を引き、理解を深めることができます。

ストーリーテリングを上手に使うためには、練習と聞き手への理解が重要です。相手がどのようなことに興味を持ち、どうすれば共感を引き出せるかを意識しながら物語を構成することで、伝わる力が格段に増します。

ストーリーテリングと感情の融合がもたらす効果

以前に「セリフは感情から伝えることで相手にリーチしやすい」という話を書きましたが、このストーリーテリングという手法と感情という要素をミックスして相手へ伝えていくことで、その成果は大きく変わるはずです。

それでは、今流行のchat GPTに「仕事が欲しい」をストーリーテリングを使って相手に伝えるとどうなるか、考えてもらいましたので見てみましょう。

「私はある小さな町で育ちました。  そこでは、誰もが地域を支えるために懸命に働いているのが当たり前で、家族や友人が一丸となって生活を築いている姿がありました。  私の家族も例外ではありませんでした。両親はそれぞれ朝早くから遅くまで働き、休みの日には地域のイベントやお手伝いに参加していました。  その姿を見て、私も自然と「自分も何かの役に立つ仕事がしたい」と思うようになりました。

しかし、実際に働き始めるまでは、多くの試練がありました。学生の頃、アルバイトをしながら学費を貯め、  日々の生活を支えることが精一杯で、将来のために何かに集中することは難しかったです。  それでも、何とか学業を修了し、いくつかの仕事を経験してきました。その中で、「仕事を通して自分のスキルを磨き、  誰かの役に立ちたい」という想いがますます強くなっていきました。

これまで働く中で、時には失敗や挫折もありましたが、そこで学んだことは一生の財産です。  例えば、ある職場で自分のアイデアが受け入れられ、チームが成功を収めたときの喜びや達成感は、何にも代えがたいものでした。  私はその経験を通して、自分がチームの一員として何かを成し遂げることがとても好きで、仕事を通じて充実感を得られることを再確認しました。

だからこそ、今、心から「仕事が欲しい」と感じています。単にお金を稼ぐためではなく、自分が培ってきたスキルや経験を活かして、  また新しい環境で貢献したいと思うのです。そして、新たな職場で出会う人々やチームとともに成長し、未来を築いていくことを心から楽しみにしています。

私はこれからも、誠実さと努力を忘れずに取り組んでいきます。そして、私にできることが少しでも多くの人々の役に立ち、  その先に自分の成長や喜びがあることを願っています。」

…長い。長すぎるよ、chat GPT! まだまだ作家としての私の出番はなくなりそうもないな。ふっふっふ…

1974年生まれ。演出家・脚本家。コンサート演出、フェス演出、テーマパークショー演出など多岐に渡る。脚本代表作は「はなかっぱ」「ベイブレードバースト神」などアニメ作品が中心。

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