OTRSの変更管理(前編)

2012年2月17日(金)
櫻井 耕造

OTRSの変更管理

変更管理の機能は設定項目が多いので、2回に分けて解説します。

変更管理プロセスの目的は、すべての変更を安全かつ確実に実行することです。数年前から内部統制の一環として、監査対象システムの作業証跡を取得するために変更管理を活用する事例が増えています。また、IT環境のクラウド化が進むなかで、変更管理があらためて注目されつつあります。クラウド環境においては、1か所の変更が影響を与える範囲が広がる傾向があるからです。

変更管理のフローは、標準変更タイプ、緊急変更タイプ、重大変更タイプなど複数のタイプで運用されることが多いようです。図1は、ITILが推奨している業務プロセスのサンプルです。

図1:標準変更の変更管理プロセスの流れ(クリックで拡大)

OTRSの変更管理では、よく使用されるITILの略語やOTRS用語があります。それらの用語を表1にまとめました。

ITILの用語 説明
RFC 「Request for Change」の略で、変更要求のことです。システムの変更作業する前は、必ず変更要求を起票し、変更作業を記録します。
CAB 「Change Advisory Board」の略で変更諮問委員会のことです。変更承認者のアドバイザとして複数の立場が異なる専門家から構成され、技術及びビジネスの両方の視点からITサービスの変更を評価・分析し、変更承認者に助言を行います。
PSA 「Projected Service Advailablity」の略で、サービスの予想可能性のことです。FSC(将来的な変更スケジュール)によって発生するSLAや可用性に対する変更の詳細が記載されたもので、変更が失敗した場合の影響を含めた観点でレビューされます。
Work Order itSMFJapanなどでは、作業依頼書と訳している。定義された活動の実行を求める正式な要求と位置付けられています。作業依頼書は、変更管理とリリース管理及び展開管理が、要求を技術管理機能やアプリケーション管理機能に引き出す際などに使用されます。変更作業は複数の作業依頼書で構成されたサブタスクという位置付けです。
State Machine OTRSでは、そのまま「ステートマシーン」として訳しています。これは、変更や作業依頼書の状態遷移のことです。OTRSを利用するためには、必ず定義する必要があります。
表1:OTRSでよく使われる変更管理関連の用語

変更のダイアグラム

通常、OTRSでは、1つの変更(Change)が複数のタスクで構成されています(図2)。OTRSでは、そのタスクを作業依頼書(Workorder)と呼んでいます。変更のステートマシーンと作業依頼書のステートマシーンを組み合わせて、変更の業務プロセスを作成していきます。

図2:変更管理のダイアグラム

変更の起案をするまでの事前設定

変更の機能を利用するためには、事前に設定すべき項目があります。以下の1. 〜4. の項目にはデフォルト値が入っているので、そのまま利用することが可能です。

  1. 変更のステートマシーンの定義
  2. 作業依頼書のステートマシーンの定義
  3. 変更の優先付け
  4. 変更の通知設定
  5. 変更のグループの権限設定
  6. 変更の作成
  7. 必要な作業依頼書の作成
  8. 状態と実行の設定
  9. 変更のテンプレート作成、起案

変更のステートマシーンの定義

OTRSのデフォルト設定では、変更のステートマシーンは図3のようになっています。

図3:変更のステートマシーン(BPMN 2.0で表記)(クリックで拡大)

※[BPMN 2.0とは] BMMNは「Business Process Model and Notation」の略で、ビジネスプロセスを表現する記法の国際標準です。OTRSでは、ステートマシーンを作成する前にこのプロセスモデルを作成する必要があります。

変更のステートマシーンを作成するときは、「管理」の「一般的なカタログ」をクリックします。そして、カタログ・クラスにある「ITSM::ChangeManagement::Change::State」で、変更の状態を定義することができます。

次に、「管理」の「ステートマシーン」をクリックして
「ITSM::Change Management::Change::State」を選択すると、状態遷移の一覧が表示されます。先ほど作成した変更の状態をクリックして、現在の状態から遷移する次の状態を指定します(表2)。なお、使用するすべての状態に関して、同様に定義する必要があります。

  説明
状態 現在の状態を定義する
次の状態 次に遷移する状態を定義する
表2:ITSM::ChangeManagement::Change::State

作業依頼書のステートマシーンの定義

OTRSでは、作業依頼書のステートマシーンは、デフォルトで図4のようになっています。

図4:作業依頼書のステートマシーン(BPMN 2.0で表記)

作業依頼書のステートマシーンの定義は、「管理」の「一般的なカタログ」をクリックしてカタログ・クラスにある「ITSM::ChangeManagement::WorkOrder::State」から行うことができます。

次に「管理」の「ステートマシーン」をクリックし、
「ITSM::ChangeManagement::WorkOrder::State」を選択すると、状態遷移の一覧が表示されます。先ほど作成した作業依頼書の状態をクリックして、現在の状態から遷移する次の状態を指定します(表3)。なお、使用するすべての状態に関して、同様に定義する必要があります。

  説明
状態 現在の状態を定義する
次の状態 次に遷移する状態を定義する
表3:ITSM::ChangeManagement::WorkOrder::State

変更の優先度付け

変更管理における優先度の定義を作成します。「管理」の「カテゴリ <-> 影響度 <-> 優先度」をクリックすると、図4が表示されます。ここにはデフォルト値が入っているので、そのままでも利用できます。

図5:「カテゴリ <-> 影響度 <-> 優先度」の設定画面(クリックで拡大)

変更のグループの権限設定

変更を利用するには、担当者に対して役割に応じた権限を付与する必要があります。デフォルトで用意されているグループは、表4のようになっています。設定方法は、「第3回 OTRSの基本設定」の「担当者とグループの権限設定」を参照してください。

グループ名 説明
itsm-change 変更の携わるメンバーすべての担当者グループ。
Itsm-change-builder 変更を作成する担当者のグループ
Itsm-change-manager 変更を承認するグループ
表4:変更のグループ定義

変更の通知設定

変更のRFCなどを作成し、ステートマシーンが変更の承認待ちに変化したとき、承認者に承認依頼のメールを通知したい場面があります。そのようなイベントの発生をメール通知するには、「管理」の「通知(ITSM変更管理)」から通知ルールを作成します。ここにはデフォルト値が入っているので、そのままでも利用可能です。

設定項目 説明
名前 通知名を記入します。
イベント 指定したイベントがあったら、以下の属性、ルール、受信者の項目に従い、メールで通知します。
属性 条件となる属性項目があれば指定します。
ルール 属性の値とマッチした時のみに通知します。
受信者 通知グループを指定します。
有効 有効か無効を選択
コメント ※任意で入力
* 必須入力
表5:変更の通知設定

変更の作成

ここから変更プロセスの作成に入ります。最初に汎用的なテンプレートを作成して、そのテンプレートを元に変更を起案することをお勧めします。「変更」の「新規」をクリックすると、変更を作成する画面に移ります。OTRSのインストール後は変更のテンプレートがないので、「変更テンプレートを選択」の欄は未記入となります。

項目 説明
タイトル * 変更の名前を入力します。
説明 * 変更に関する説明を入力します。
正当性 * 変更の背景にある理由の説明を入力します。
カテゴリ 変更のタイプを定義します。
影響度 変更が持つ影響度を定義します。
優先度 変更の優先度を定義します。
要求があった日時 顧客が望んだ実装日を入力します。
添付ファイル 関連するファイルやドキュメントを添付させます。
* 必須入力
表6:変更の作成の属性

変更の関係者の登録

「変更」の「一覧」をクリックして作成した変更を選択すると、図6が表示されます。ここで「関係者」をクリックします。

図6:関係者を選択

ここでは、変更に関係する変更マネージャー、変更実施者、変更諮問委員会(CAB)を登録します。入力が終わったら、「送信」をクリックします。

※2ページ目の「変更のグループへのアサイン」の設定を行わないと、変更マネージャー、変更諮問委員会(CAB)を登録できません。

項目 説明
変更マネージャー* 変更マネージャーを入力します。「**」を押下すると、登録されている変更マネージャーグループの候補者が表示されます。
関係実施者 * 変更実施者を入力します。「**」を押下すると、候補者が表示されます。
CABテンプレート * テンプレートがあれば、テンプレートからCABを登録できます。
CABに追加する。 CABに追加したい該当者を入力します。そのCABのメンバーをテンプレート化したいときは、「このCABをテンプレートとして保存する」をクリックします。「**」を押下すると、登録されている変更マネージャーグループの候補者が表示されます。
* 必須入力
表7:変更の関係者の登録

続きは、次回の「OTRSの変更管理(後編)」で解説します。

TIS株式会社 IT基盤サービス本部 DCアウトソーシング第1部 主任

システム運用、システムインテグレーションなどを経験後、TISの先端技術センターにてOTRSのR&Dを実施。OSS保守サービス「Tritis」の事業を企画し、事業の中核であるOTRSを2011年8月にOTRS AG(ドイツ)による国内初のOTRS認定技術者となる。

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