OTRSの変更管理(後編)
作業依頼書の作成
前回は、変更の作成まで説明しました。今回から変更のサブタスクに当たる作業依頼書の作成について解説を進めます。「第7回 OTRSの変更管理(前篇)」の図6の画面から「作業依頼書の追加」をクリックして、以下の項目を入力します。
項目 | 説明 |
---|---|
タイトル * | 作業依頼書名を入力します。 |
説明 * | 作業依頼書の内容を入力します。 |
作業依頼書のタイプ | 作業依頼書のタイプを選択します。 |
予定開始時刻 | 作業依頼書の予定開始時刻を選択します。 |
予定終了時刻 | 作業依頼書の終了開始時刻を選択します。 |
計画的な取り組み | 作業依頼書に費やされる時間を入力します。継続的サービス改善のために実際の作業時間と検証するために使用されます。 |
添付ファイル | 添付ファイルがあれば、添付します。 |
* 必須入力 | |
表1:作業依頼書の追加項目 |
ワークフローの定義
変更や作業依頼書の属性を基準に条件とアクションを定義付けすることで、変更のワークフローを作成できます。「第7回 OTRSの変更管理(前篇)」の図6の画面から「条件の追加」をクリックして、以下の項目を入力します。
表現や操作で追加があるときは、「新しい表現を追加」「新しい操作を追加」に条件を追加します。
【条件】 | 説明 |
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名前 * | 条件名を記入します。 |
一致させる * | 「どちらかの表現」か「全ての表現」かにチェックします。 |
有効 | (有効)※不要になったカテゴリは無効にします。 |
コメント | コメントで入力 |
【表現】 | 説明 |
対象 | トリガーとなる対象が「変更」か「作業依頼書」を選択します。 |
選抜 | トリガーとなる対象の識別子を選択します。 |
属性 | トリガーとなる対象の識別子の属性を選択します。 |
操作 | トリガーとなる属性の条件式を選択します。 |
値 | トリガーとなる属性の条件式の値を選択します。 |
【操作】 | 説明 |
対象 | イベント実行させたい対象が「変更」か「作業依頼書」を選択します。 |
選抜 | イベント実行させたい対象の識別子を選択します。 |
属性 | イベント実行させたい対象の識別子の属性を選択します。 |
操作 | イベント実行させたい属性の条件式を選択します。 |
値 | イベント実行させたい属性の条件式の値を選択します。 |
* 必須入力 | |
表2:条件の定義内容 |
「条件」の設定では、作業依頼書から次の作業依頼書への状態遷移を定義することで、変更のワークフローとして動作させることができます。図1は、1つの状態遷移を定義したときの例です。
図1:ワークフローの定義例(クリックで拡大) |
以上で、変更の事前作業は完了です。
変更のテンプレート保存
作成した変更をテンプレートとして保存しておくと、変更を起案する際に利用することができます。「変更」の「一覧」より、作成した変更をクリックします。「第7回 OTRSの変更管理(前篇)」の図6の画面から「テンプレート」をクリックして、以下の項目を入力します。
項目 | 説明 |
---|---|
テンプレート名 | テンプレート名を入力します。 |
コメント | ※任意で入力 |
状態のリセット | 作成した変更の状態を引き継ぎたいときは、チェックを入れてはいけません。通常はチェックを入れて、状態をリセットします。 |
有効 | 有効か無効を選択します。 |
表3:作業依頼書の追加項目 |
変更をテンプレートから起案
2回目以降の変更(RFC)の起案は、「変更」の「新規」の「変更テンプレートを選択」から実行することが可能です。
項目 | 説明 |
---|---|
テンプレート * | テンプレートを指定する。 |
設定日時のタイプ | 「予定開始時刻」か「予定終了時刻」を指定します。 |
新規の日時 | 時刻を指定します。 |
* 必須入力 | |
表4:変更のテンプレートから起案 |
変更の状態
作業依頼書を登録すると、変更のタイムチャートが表示されます(図2)。このタイムチャートでは、左側の欄のアイコンの色が作業依頼書の状態、チャートの色が作業依頼書の種別を表しています。
図2:作業依頼書のタイムチャート表示(クリックで拡大) |
【作業依頼書の状態】
グレー:作業依頼書は「作成済み」の状態です。
黄色:作業依頼書は「承認の保留」の状態です。
緑色:作業依頼書は「完了」の状態です。
赤色:作業指示書は「キャンセル」の状態です。
【作業依頼書の種別】
緑色:作業依頼書
赤色;承認
作業依頼書のレポート
起案した変更は、その起案に対する「レビュー」「承認」「実施」「事後レビュー」などのステップを経て完了します。このワークフローの状態を変更するには、図2のタイムチャート上の該当する作業依頼書をクリックし、「レポート」を表示させます。
図3:作業依頼書の状態変更(クリックで拡大) |
そして、レポートに表5の項目を記入していきます。この状態の変更は、事前に設定したステートマシーンに従って変更されています。
項目 | 説明 |
---|---|
レポート | レポート内容を入力します。 |
状態 | 状態を選択します。ここでは、ステートマシーンに登録されている状態遷移に従って、現在と次の状態のみ表示されます。 |
会計対象時間 | かかった作業時間を入力します。 |
* 必須入力 | |
表5:作業依頼書のレポート |
変更の確認ビュー
OTRSでは、変更の起案や変更の状態を確認するための操作として、7パターンを用意しています。「変更」をクリックして、次の7項目から選択していきます。
顧客による変更の内容確認
システム運用をアウトソーシングしている企業などでは、運用担当者が変更を計画して、その変更に対して顧客が変更諮問委員会となるケースがあります。OTRSでは、顧客がWebインタフェースで承認、確認を行うことが可能です。
顧客に対して変更を公開するには、まず「管理」の「システムコンフィグ」をクリックして、操作欄で「ITMS Change Management」を選択します。次に、サブグループ内の「Frontend::Customer::ModuleRegistration」をクリックし、「CustomerITSMChangeSchedule」をチェックします。
図5:顧客向けWeb画面に変更を表示(クリックで拡大) |
終わりに
全8回に渡って連載してきた「OTRS入門-クラウド時代の運用管理をITILで最適化する-」はいかがだったでしょうか。
連載で示したように、OTRSによるシステム管理の設定は、約93%がWebインタフェースで実行でき、コマンドによる管理は7%にとどまっています。しかし、OTRSの設定項目は3,000個を超えるため、本連載では基本的な機能に絞って解説を進めました。OTRSを試用すれば、その機能の多様性・実用性を実感してもらえると思います。
OTRSはプロジェクトがスタートしてから10年あまり経過し、海外では多数の大手企業が積極的に採用しています。そうした実績があるにも関わらず、日本ではまだ知名度が低いのが実情です。その最大の理由は、ツールとマニュアルのローカライズが進んでいなかったことだと、筆者は考えています。現状でも、細かい設定部分には未翻訳の箇所があるので、今後もローカライズを進めていく予定です。
本連載の終了と同時の今月14日にOTRS 3.1の新バージョンがリリースされました。新バージョンの機能は、TIS技術ブログ(Tech-Sketch)で紹介しているので、参考にしてください。
→参考:OTRS 3.1ヘルプデスクの新機能について
最後に、OTRS AGによるこの先2年間ほどのロードマップを少し紹介します。ITILv3の機能拡張に関しては、ナレッジ管理の機能拡張、リリース管理および展開管理の機能追加、キャパシティ管理の機能追加などが計画されています(計画変更はあるかもしれません、あくまで予定です)。今後も、OTRSの動向に注目してください。
- (1)一覧
- すべての変更が一覧画面に表示され、カラムごとに昇順または降順で並べ替えることが可能です(図4)。
図4:変更の一覧表示(クリックで拡大) - (2)新規
- 変更を新規で起案するときに選択します。
- (3)スケジュール
- 「承認済み」状態の全変更、つまり変更待ちのものが表示されます。
- (4)サービスの予想可用性(PSA)
- サービスの予想可用性について承認済みの全変更が表示されます。
- (5)導入後のレビュー(PIR)
- 「導入後のレビュー」タイプの作業依頼書が表示されます。管理者が変更作業を実施した後に確認するのに利用できます。
- (6)テンプレート
- OTRS内で定義された全テンプレートが表示されます。
- (7)検索
- 特定の検索基準に合致する変更または作業依頼書を探す際に利用します。