日本での本格普及なるか? 大規模サイト向けCMS「Drupal」創始者が初来日
Acquiaが日本に進出
続いて第2の要素「Platform」として、Dries氏はDrupalとAcquiaを紹介した。現在の企業は、1社で数十から数百、企業によっては数千のサイトを立ち上げている。それによってさまざまなCMSやOS、言語、データベース、ホスティング先などが混在し、ジャングルのような状態になっている。
「数ヶ月前に、大手チョコレート会社でCMSの仕事をしました。この会社では、製品を発売するごとに、世界各地のマーケティング担当がそれぞれその地域の企業に発注してサイトを立ててきた結果、ばらばらの4,000サイトを抱えていました。これがおかしいということに、世界中のCIOが気付いて、標準化を進めています。それをDrupalが可能にします」(Dries氏)。
Dries氏によると、ジョンソン&ジョンソンではDrupalだけで3,000サイトを運営しているという。また、ファイザーは400サイトをDrupalに移行することで、コストを60%削減し、ローンチも迅速になったという。
ここで、Drupalをどう動かすかが問題となる。オンプレミスからIaaS、PaaS、SaaSと選択肢があるが、管理の手間と柔軟性でトレードオフがある。「このような、心配と柔軟性のトレードオフを解決するのがAcquiaのビジョンです」とDries氏は自社を紹介した。
AcquiaはAWS(アマゾンウェブサービス)の上で、企業向けのDrupalホスティングサービス「Acquia Cloud」を提供している。「Acquia Cloudは完璧に管理されてDrupalに最適化されている。インフラのサービスからプロフェッショナルサービスまで備え、8000以上のインスタンスと約300億ページが動いている」とDries氏はアピールした。
さらに、イベントのあった9月に、Acquia CloudがAWSの東京リージョンに対応し、日本市場に乗り出してきたことも紹介された。
第3の要素が「Open Source」だ。企業は、Webサイトがどんどん増え、Webがどんどん複雑になり、技術がどんどん進歩していくということに直面している。
「Drupalはオープンソースだからこれに対応できる。世界で何万人ものエンジニアによってイノベーションが起こり、スピードを持って進んでいる」とDries氏は論じた。
Dries氏は最後に、アイスホッケーで言われる「Skate to where the puck will be」(パックがあった場所ではなく、パックが行く先に向かえ)という言葉を引きあいに出し、「将来をみすえて動こう」と呼びかけて講演を終えた。
企業や用途ごとにディストリビューションが広がる
続いて、CI&T社のFelipe Rubim氏が、日本のシーアイアンドティー・パシフィック株式会社の上田善行氏とともに、Drupalの特徴や、企業での採用事例などについて解説した。Rubim氏はCI&TでDrupalグループディレクターを務めている。
CI&Tは日本を含む世界各国で活動するITサービス会社。2008年にDrupalを扱い始め、現在では300人以上のDrupalの開発者を抱える。Drupal Associationの公式プレミアムサポーティングパートナーであり、Acquiaのパートナーでもある。
オーストラリア在住のRubim氏はまず、イベントの前日である9月15日に、オーストラリア政府のCTOが「すべてのサイトをDrupalにする」と発表したことを報告した。Acquiaのプラットフォームを採用するという。
Rubim氏はDrupalについて「カスタマー向けのWebサイトだけでなく、業務アプリケーションまで、さまざまなWebサイトを1つのプラットフォームで構築できる」ことを特徴として説明した。上田氏も「WordPressのような小さいサイトだけでなく、大きく複雑なWebサイトに使える」と補足した。
Drupalは、下から「コンテンツ・設定」、「コアモジュール」「カスタムモジュール」「UI・テンプレート」の4つの層からなる。同じ「コアモジュール」「コンテンツ・設定」の上に、異なるモジュールやUIを組み合わせることで、異なるサイトになるとRubim氏は説明する。
こうしたモジュールやUIをセットにして独自のDrupalの「ディストリビューション」を作るということがよく行なわれており、重要とされているという。たとえば、企業が複数のDrupalのサイトを作るときに、その企業に最適化されたディストリビューションを作ることで、1つのベースから独自コンテンツのサイトを作れる。特にグローバル企業では、Drupalのディストリビューションによってサイトを世界中に展開できる。
さらに、特定分野向けのディストリビューションを開発して公開することも行なわれている。Rubim氏はそうした例として、aGov(政府向け)、Commerce Kickstart(EC向け)、Open Atrium、OpenPublish(ニュースサイト向け)、OpnePublic(公共機関向け)、OpenScholar(大学向け)などを紹介した。
続くDrupalの特徴として、ほかのシステムとのインテグレーションをRubim氏は挙げた。RDFやSOAP、OpenIDなどさまざまな規格に準拠。SalesforceやSharePoint、Alfresco、Magento、Marketoなどとのインテグレーションのためのモジュールもあるという。
セキュリティについてRubim氏は、Drupalは世界最大規模のCMS開発組織であり、専属のセキュリティチームもあると説明。ホワイトハウスやオーストラリア政府、ニューヨーク証券取引所などでも採用されていることをセキュリティ面の実績として挙げた。
スケーラビリティについては、インフラとして多くのミドルウェアをサポートしていることを紹介。たとえばリバースプロキシから、Webサーバーのスケールアウト、データベースのスケールアウト、CDNなども含めたフルのスケーラビリティまで対応している。実例としては、グラミー賞のサイトがDrupalを採用し、膨大な同時アクセスをさばいている例が紹介された。そのほか、ホスティングとしてAcquia Cloudが紹介された。
最後の特徴として、Rubim氏は「ベンダーロックインではなく多数のベンダーに広がることで、みなさんのアイデアやイノベーションを最も加速する」ことを挙げて、セッションを締めくくった。
業務アプリケーションを開発するためのDrupalの機能
ANNAI社CTOの紀野惠氏は、「Employee Application PlatformとしてのDrupal」と題して、社内の業務アプリケーションを開発するためのDrupalの機能を紹介した。
紀野氏は「Drupalを一言でいうと」と問いかけ、ブログでもありCMSでもありWebアプリケーションでもあるとして、「まだCMSとしての認知が高いが、業務アプリケーションとしても使える」と論じた。
そして、そのためのコア機能として、細かなユーザー権限の設定や、ブラウザーだけでできるデータベース設計、SQLを書かずにSQLの機能がすべて使えるSQL Builder、柔軟な検索API、クラウドとの相性のよさ、サブスクリプションライセンスが不要であること、政府機関も採用するセキュリティ、ベンダーロックインされないこと、ほかのサービスとのインテグレーションを挙げた。
こうした機能を使えば、顧客DBや製品DB、ナレッジベース、CRM、グループウェアなどの業務アプリケーションなどを開発できると紀野氏は説明して、「Drupalは業務アプリケーションのプラットフォームでもある」と主張した。
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