「はやく作る」と「しっかり作る」のバランス
メタデータを再利用する
次に、視点を、開発する側に戻します。
アプリケーション開発者は、どちらかというと標準化とは反対の方向を向いていますから、「標準に合わせてください」というオーダーは、緊急対応のアプリケーション開発では、聞かなかったことにしたいことがらです。
彼らが、急ぎの仕事とのバランスを取って、率先して標準に合わせるように仕向けるには、何らかの仕掛けが必要です。
ここで、もう一度、短期開発を可能にするポイントを振り返ってみましょう。手になじんだツール、ライブラリ化などによる再利用、データ相互利用といったポイントを挙げましたね。
ポイントを挙げたときには、再利用といっても、ライブラリやフレームワークといったプログラム・コードに着目していましたが、実は、データの相互利用のための「再利用」という着眼点もあります。
アプリケーションでデータを利用するときにまず必要となるのは、データの定義です。そのデータがどのような名称で、どのようなデータ型であり、どのような制約があるかといった、いわゆるメタデータが、データの扱い方を規定します。そして、データの標準化といった点では、このメタデータが大変重要です。
アプリケーションを構築するときに、あるいは、追加のデータ設計を行うときに、企業内で標準として利用しているメタデータを再利用できれば、開発する側の生産性、管理する側の標準化の要求の双方を満たすことができます。
先ほど紹介したER/Studioを例として挙げると、「ER/Studio Repository」という機能を使って、メタデータの共有環境を作ります。開発する側は、このRepositoryからメタデータを参照することで、新たに定義しなおす手間を軽減するとともに、結果的に、社内標準に合わせることができるのです。
システムをもう少し大きい視点で見る
最近のシステムは、すべてが大きなシステムとして完結しているのではなく、少しずつ増殖していくようなタイプが増えています。そうなると、しっかり作るものと素早く作るものが対として存在するのではなく、ある程度基盤を作ったら、その上に素早く作るものがいくつも出来上がって、常に進化するシステムとして成長を続けるようになります。
こうなると、「標準」というものも徐々に変化し、成長していくようになります。従って、一度決めた「標準」をしっかり堅持するのではなく、変更をうまく標準に適合させ、変わっていく標準をうまくシェアできるようにしなければなりません。
ツールからのアプローチでは、先ほどのER/Studio Repositoryとバージョン管理の統合が考えられます。
アプリケーション・コードのバージョン管理は一般的ですが、メタデータについては、あまり考慮されていません。しかし、メタデータを共有していく場合には、当然時間軸での変化を考えなければなりません。現在開発中のプロジェクトが、どのバージョンに属しているのか、また、どのように変化しつつあるのかを掌握することは重要です。
データ構造の変化ということでは、ER/Studioに面白い機能があります。「ビジュアルデータリネージ」という、データ移行プロセスのドキュメント化ツールです。旧システムから新システムへどのようにデータがマッピングされるのか、また、ERP(統合業務アプリケーション)などほかのシステムへのアウトプットとして、どのように既存のデータ構造がマッピングされるのか、といった情報を図化します。
システムを点でとらえるのではなく、変化する時間軸でとらえると、こうした機能の有効性が見えてきますね。
次回は、ツールの導入に着目し、ライセンスの管理やプロジェクトでの割り当てなどにかかわる問題と、その解決策について解説します。