どうなる教育の未来。テクノロジーや人工知能により学校と社会はどうなっていくのか― 第10回 EDIXレポート
6月19日(水)~21日(金)の3日間、東京ビックサイト会議棟と青海展示棟にて、第10回 学校・教育 総合展(EDIX)が開催された。その模様を2部構成でお送りする。今回は「ICTが今後の教育にどのように関わってゆくのか」というテーマで、3講演の内容をレポートしたい。
いま、未来への架け橋の時
まず、日本教育情報化振興会会長で東京工業大学名誉教授の赤堀侃司氏による「これからの子ども達への教育~学校と社会をいかにつなげるか、 ICT はなぜ必要か~」だ。
2007年頃より、「日本の子ども達は学校で習ったこと以外はできない」と言われ続けてきた。学校の成績はあくまでも個人の成績だが、世の中は組織単位で動いているため知恵を出し合っていかなくては社会問題を解決できない。これからの21世紀は積み重ね学習でなく、社会と同じように「協働学習」にしていかなくてはならない、という挨拶から始まった。
ICTは現実の社会と学校を結ぶ橋
赤堀氏は、ICTの授業への取り組み事例として家庭科のボタンホールの縫い方を紹介。予習として、生徒は先生が縫い方を録画した約5分の映像を自宅で見る。その映像を学校で授業中にもう一度見てから、実際に縫ってみるというものだ。クラスメートがいると自分とは違う方法・考え方があると知る機会になる。先生はファシリテーターやアドバイザーの立ち位置で、社会の仕組みを理解する道具としてICTを取り入れてほしい、と赤堀氏は語った。
人間には「文脈を読んだり、関連づけたりする力」がある
こんなデータがある。「夏に外でテニスをした。テニスが終わった後のビールは美味しかった」という文章で、「なぜビールが美味しいのか」という理由がAIにはわからなかったそうだ。人間は単語を繋ぎ合わせた属性を認識しており、曖昧な表現でもその意味を理解し、共感して物事の因果関係を予測しながら生きてきた。この「なぜ?」の部分を理解できることがAIと人間の大きな違いなのだ。
「深い学び」とは、色々な知識を関連づけて感じられること
また、あるデータでは、文章を読んで感動したところに線を引くグループ、大事だと思うところに線を引くグループ、何も線引きをしないグループの3グループで読解力調査を行った結果、感動したところに線を引いたグループの学力が一番良かったそうだ。人間の脳は感動したことをしっかりと記憶するようになっている。これからは、自分で気づき、面白いと思ったものを繋げて行く力が求められるだろうと、赤堀氏は締めくくった。
人工知能は人間をより深く知る相棒
続いて、公立はこだて未来大学の副理事長・元人口知能学会会長の松原 仁氏による「人工知能は教育をどう変えるか」だ。
人間の持つ知能とは
人工知能の研究は「人間の知能・こころ・感情とは何なのか。人間とは何かを知ること」に繋がっているという松原氏。人工知能の目標の1つは「人間のような知性を持った人工物(コンピュータ、ロボット)を作ること」として、スマートフォンでの音声対話や自動車の運転支援、入出国やコンサートの顔認証、囲碁や将棋の勝率アップなど、現在の人工知能の成功例を挙げた。
AIが創造性を獲得か
これまで、人間の持つ「創造性」をAIにも持たせることは難しいと言われてきたが、ここ最近は人間の感覚に近づきつつあるようだ。数十万句もの膨大な俳句データをコンピュータに覚えさせ、そのデータから俳句を作る「AI一茶」。人間と「最後の2文字から次の俳句を始める」というしりとり俳句の勝負をしたところ、3勝2敗で人間の辛勝だったという。
AI一茶では、ひらがなが使われた俳句データから「かなしみ・ひらいて」などひらがなを引用した俳句も作られた。また花蜜柑は花の名前だが、AI一茶は「花蜜柑」を花の名前だと認識できなかったのか、次の俳句で「花蜜柑剥く」と詠んでしまっていた(上から2行目)が、徐々に人間の感性に近づいてきていることは明らかだ。このように、コンピュータに創造性を持たせる研究の一貫として、小説を書かせてみたり、川柳を学習させたりもしているという。
これからの教育の在り方
松原氏は「この時代、子ども達に何を教えたら良いか、明確な答えはまだ出ていない」と明かす。入試問題を作る側の立場として、子どもに英語の綴りや漢字の書き取りなどを教えることが本当にふさわしいのか問われる時だ。自宅で人工知能+IT(VRやARなど)を利用した学習が可能になれば、学校と人間の先生は人工知能との役割分担を考える必要がある。人工知能が人間の仕事を奪うことはないが、仕事の内容は変化していくだろう、と語った。
また、人工知能の専門家を育てるためではなく、「教養として」の人工知能の教育は今後必要になってくる、と指摘。文系理系関係なく「線形代数」を理解していれば機械学習や統計で使えるようになる。デジタル教科書に人工知能を紐づけることができれば、生徒がどのページを何分見たかで教え方も変わってくる。まさにいまが変革期だ。アメリカや中国に比べて日本は遅れていると言われているが、日本の教育水準は高いので少しずつでも進めていきましょう、と締めくくった。
EdTechで学びはワクワクに
最後はデジタルハリウッド大学大学院教授、佐藤昌宏氏による「Edtechが変える教育の未来」だ。
EdTechはデジタルテクノロジーを活用した
教育のイノベーション・変革
佐藤氏は「学びの個別最適化」において、学習者はひとりひとりスキルや知識・特性も違う上に学びのペースも違うため、これまでの教育では限界があるとした上で、EdTechは重要な領域だと指摘。EdTechは学習者の学びに関するデータをすべてログ(スタディーログ。医療でいうカルテのようなもの)として蓄積し、パソコンがあればどこでもインプット・探求が可能な「学習者中心の学び」であると説明した。
スタディーログは救世主となりうるか
スタディーログを蓄積する理由は、学習者のリクレクション(振り返り・気づき)のためだ。ログをクラウドに置き、いつでもどこでも学んだことをシェアできれば、例えば塾と繋げて学校で教わる内容をロスなく学べたり、不登校の子でも学習できたりするようになる。
スタディーログは「常時観測」をするもので、テストは「定点観測」をするもの。そうなればテストという概念もなくなってくるのでは、と佐藤氏は考察する。実際、東京都千代田区の麹町中学校では宿題もテストもない。大切なのは何のためにスタディーログを蓄積するのかだけ。技術の標準化や国民への理解など課題もあるが、動けるところから動いて行こうと呼びかけた。
オンラインと場を融合したこれからの教育
教育の未来について、午前中はチームビルディングを学ぶ時間、午後は個々でアクティブラーニングする時間にすれば良いのでは、と提案する佐藤氏。入学条件に「自分はなぜ学ぶのかを理解し、自分の時間割を作る事のできる人」というN高は入学希望者が増加している。オンラインの先生として、教育者は今後ますます必要になってくるだろう。
いま不登校の生徒は全生徒数の12%おり、その教育面は放置状態だという。今後の教育に通信制やオンラインを取り入れ、場(学校)を繋げる「ハイブリッド型教育」が新しい学びの場ではないか、と参加者に問いかけた。
今後もデジタルテクノロジーの進化はとまらない。デジタルテクノロジーは教育を科学し、人間の価値を再定義してくれるものだ。全てのリソースにテクノロジーを活用し、質の担保された教育をここ5年で作り上げていきたい、と佐藤氏は締めくくった。
* * *
学びとは本来、知りたい・楽しいという好奇心のもとに構築されていくもの。私は最近になって、苦手だった歴史を知ることで新たな視点が得られることを実感している。人生100年時代、ICTの活用により自分で学んでいく楽しさを、1人でも多くの子どもが感じられる社会は、大人にとっても良い環境であると言える。この変革期を、私も楽しんでいきたい。
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