TOPプロジェクト管理> 何をどこまで改革するか?
情報化による業務システム改善
情報化による業務システム改善

第2回:業務プロセスの改革方法とその効果
著者:みずほ情報総研   片田 保   2006/5/22
1   2  3  次のページ
何をどこまで改革するか?

   第1回でも紹介したように、BPRは「業務プロセス改革」の略である。その本意とは、当然のように日々実施している業務プロセスを対象として、抜本的に再設計することにある。

   しかしながら実際にBPRに着手してみると、業務プロセスを刷新するためには諸々の権限などを見直さなければならず、組織・機構や諸規定・制度も再設計する必要が生じてくる。したがって、「BPRには時間がかかる」「方々への調整が不可欠になる」といった大きな壁がチャレンジする人々の行く手を阻む。

   このように、BPRの実践においては業務プロセスだけでなく、その背景にある諸規定・制度や組織・機構についても手を着けなければならない。

   またBPRには、本連載の中心的なテーマであるITの活用が不可欠になる。ITを導入すればBPRも進むといわれるが、BPRを実践するために「手段」としてITを導入するというのが本来の姿である。前回も指摘したように、IT導入以前の問題として、BPRができているかどうかが投資対効果(ROI)を左右する。ITという手段に振り回されたり、過剰に期待しすぎたりしないためにも、この点は十分に留意しておく必要がある。

   第2回では、ITを活用したBPRによって業務プロセスの何が変わるのかを紹介し、第3回では、そのBPRの実効性を確保する組織・機構や諸規定・制度の変革について説明していく。

BPRの深度(どこまでBPRを実践するか)
図1:BPRの深度(どこまでBPRを実践するか)


業務改善か、業務プロセス改革(BPR)か

   IT活用を前提としているBPRを実践できているかと訊ねてみると、「業務改善」をしているから大丈夫だという声をよく聞く。日本では、「業務改善」を改善運動として経営管理にもちいてきたが、IT時代の幕開けとともに限界が生じているように見える。

   「業務改善」は、現場社員(職員)が改善可能な事項を発見・指摘し、代替案を作って、実践できることから、着実にかつ迅速に実行するという点で優れている。意識改革を促し、全員参加で一丸となって業務改善を推し進めることに「運動」たる意味があるといえよう。特に、コストや効率性の問題点が明らかになるので、業務の生産性を高める手法として導入されてきた。

   だが、課題もある。例えば、ある課で事務手続のムダを見つけ、業務改善を実施して手間のかからないやり方に変更する場合、現行の人員を前提に、しかも自身の所属する課(部署)の中だけで創意工夫をして取り組むことが多い。ある部署でうまくいっている事例を、別の部署でまねをすることもあるが、部署ごとの最善策として実施されやすい。ここに業務改善の限界がある。

   後にも触れるが、情報システムを導入するときには、既存の業務プロセスの「標準化」をはかる。組織全体として標準化されないと、個別の業務に適応する情報システムを独自に開発するか、パッケージソフトのカスタマイズを大幅に増やさなければならない。もちろん、こうした対応は高コスト化の原因になるため、昨今では好まれていない。

   情報システムを導入して部署間を超えた「標準化」を進める場合、個別最適(部分最適)になりがちな業務改善によって見直された業務プロセスが障壁となることがある。これまでの業務改善では、必ずしもIT活用が前提となっていなかったので、大きな問題とならずに済んでいたのだろう。しかし、経営においてITが重要な役割を担う現在では、そうはいってもいられない。

   また、「1人未満業務」と呼ばれる課題は部署内に閉じた業務改善での対応が難しい。例えば、ある申請書類を部署内で取りまとめて内容のチェックをした後、所管部署に回す庶務的な業務の場合、その作業に要する時間が1人に満たなくても1人を配置しなければならない。0.6人分の作業時間であっても、1人を切り分けることはできないからだ。業務改善でどれほど効率化をしても、最終的に作業量がゼロにならない限り、その部署においては1人残すか、別の人が負荷を増やして引き取るしかない。

   バブル崩壊後、多くの企業や行政機関などでは、業務改善に取り組むことで、コストやムダを削減して生産性の向上に努めてきた。しかし、業務改善による小さな効果の積み上げでは、これまで以上の効果を引き出せなくなっていると聞く。例えるならば、これまで暮らしてきた家をリフォームして住み続けるか、新たに建て直すかという検討と同様で、業務改善とBPRにはこれくらいの差がある。

   とはいえ、業務改善を否定するつもりはない。意識改革と着実な実効性という点では、生産性向上のための着実な手法として一定の評価はできよう。いっぽうのBPRは、抜本的な見直しとなるがゆえに、時間と労力がかかり、実効性を確保するためにはリスクを伴う。

   BPRの効果を短期間であげるには、相応の覚悟と強い意志、トップの不退転の実行力が求められる。経営改革の手段としてITを活用しうる今こそ、業務改善では乗り越えられなかった壁に、BPRの実践を通じて再チャレンジするべきではないだろうか。

1   2  3  次のページ


みずほ情報総研 片田 保
著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社  情報・コミュニケーション部
公共経営室長   片田 保

1991年、早稲田大学教育学部卒業、富士総合研究所(現みずほ情報総研)入社、2004年から現職。専門は、ITを活用した行政経営、地域経営。行政の経営改革に関するコンサルティング、自治体の政策アドバイザーなどの業務に携わる。世田谷区行政評価専門委員を務めるほか、大学・大学院非常勤講師、自治体セミナー講師、論文執筆多数。

INDEX
第2回:業務プロセスの改革方法とその効果
何をどこまで改革するか?
  業務プロセスを変革する
  集約・集中