PMOが身に付けたい、本当に使える「パソコンスキル」とは

2024年8月27日(火)
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
今回は、知識編の第2回として、優秀なPMOに求められる「パソコンスキル」と、その磨き方について解説します。

はじめに

私はときどき「PMO(ピーエムオー:Project Management Office)として活動していきたいのですが、どのようななスキルを身に付けたら良いですか?」という質問を受けるのですが、その場合には「まず基礎的なパソコンスキルが必須です」とお伝えしています。

ここで言う「基礎的なパソコンスキル」とは、例えば

  • ミーティングやプロジェクトメンバとの会話をリアルタイムでメモするための、スピーディなタッチタイピングスキル
  • メモした文章を誰でも見やすく理解しやすいドキュメントにするための、文書作成ソフトの操作スキル
  • 大量あるいは複雑なデータを整理して分かりやすく示すための、表計算ソフトの操作スキル
  • 図やグラフを活用して相手に効果的なプレゼン資料を作成するための、プレゼンテーションソフトの操作スキル
などが挙げられます。大事なのは、こういったスキルが「使える」だけでなく「使いこなせる」レベルに達しているかどうか。今一度ご自身を振り返り、足りない部分はスキルアップを目指していきましょう。

さて、今回私がお伝えしたいのは、そこからさらに一段階上を行く「優秀なPMO」「選ばれるPMO」に求められるパソコンスキルについてです。どのようなスキルなのか、またどのようにすれば身に付けられるのかを解説していきます。

ツールも多様性の時代
「パワポしか使えなくて……」はNG!

突然ですが、取引先から「プレゼン資料は、すべてGoogle Slideで作成していただきたいのです」と言われたら、あなたは何と答えますか。

A:「承知しました! Google Slideで作成しますね」
B:「そうですか。あいにく私はPowerPointしか使えなくて……」

もしBを選択した場合、残念ながらあなたはまだ、本当のパソコンスキルを身に付けているとは言えません。「特定のツールしか使えない」というのは、相手にとってみれば「あなたの仕事はできません」と言っているようなものだからです。

「いやいや、パワポが使いこなせれば問題ないのでは?」という方もいらっしゃると思います。確かに、ひと昔前までビジネスで使うソフトと言えばMicrosoftの「Word」「Excel」「PowerPoint」が主流でした。つまり、それらさえ操作できれば、どの企業と取引しようとさして問題はなかったのです。

しかし、今やプレゼンソフトひとつとってもAppleの「Keynote」、Googleの「Google Slide」、Canva社の「Canva」などさまざまな種類があります。さらには無料で使えるアプリなども続々出てきています。何を使うのかは企業によってそれぞれ。「どのツールを使っても良いですよ」というところもあれば、「このツールで統一しています」という企業も一定数あるのです。

いずれにしても、そこで「私はパワポしかできないので……」と限定してしまうのは、企業側に「この人には依頼しづらい」「だったら他の人にお願いしよう」と思われる可能性があり、仕事の幅を狭めることにもつながります。

どのようなツールでも問題なく使いこなし、相手のニーズに合わせたドキュメントや資料を作成できる。それこそが、さまざまな企業からオファーが絶えない「優秀なPMO」が身に付けるべき「本当のパソコンスキル」だと私は思っています。

「パワポしか使えない……」
と思ってしまう理由

ここまで読んで、「そうは言っても、世の中にあるツールの使い方を全部覚えるなんて不可能だろう」と思った方に、シェアしたい話があります。私が、企業のSEとして働いていた頃、お客様からこんなことを言われたのです。

「エンジニアさんって、毎年新しいプログラミング言語を覚えなくてはならないから大変な仕事ですよね。僕は覚えるのが苦手なので、別の職業を選んだんです」

私は「えっ!?」と驚きました。新しいプログラミング言語の習得を「大変」と思ったことがなかったからです。

なぜ「大変」だと思わなかったのか。私の場合、学生時代にある程度の時間をかけて「そもそもプログラミング言語とはこういうものである」という本質をしっかり理解していました。そのため、私にとってそれが「プログラミング言語」である以上、たとえ新しい言語でも「まったく分からない得体の知れないもの」ではありません。

すると、すぐに「これはこう考えれば多分書けるな」といった見当がつきます。また「ゼロから習得」ではなく「知識を積み上げる」感覚なので、習得にさほど手間や時間もかからないのです。

では逆に、なぜお客様は「大変」だと思ったのでしょうか。それから何年か経って、いろいろな人のプログラム言語の習得方法を見る中で、その理由が分かりました。おそらく、その方は何かを覚えるときに「○○言語は、こういう書き方である」のように、ひと通りすべてを暗記していくタイプだったのです。確かに、それでは新しい言語が出るたびにゼロから暗記のし直しで大変でしょう。

「新しいツールを覚えるのは大変」あるいは「パワポしか使えない」という方も、このお客様のように「新しいものはゼロから学ぶもの」だと思い込んでいるのではないでしょうか。それゆえ、新しいツールの習得に負担を感じたり、抵抗感を抱いたりしてしまうのだと思います。

「本当のパソコンスキル」を身に付けるには?

それでは、そんな思い込みから抜け出すにはどうしたら良いか。まず、以下のような覚え方をやめましょう。

「資料に図形を入れたいときは「○○メニュー」→「画像」→「ファイルから画像を選択」……

こうした手順の丸暗記はそのツールでしか通用せず、ツールが変わるたびにこの手順をゼロから作り直さないといけなくなるからです。さらには、ソフトウェアのアップデートによって、メニューの表現や配置場所すら変わってしまうことがあるので、同じツールでも使いこなせなくなってしまいます。

例えば「図形を挿入する機能」なら、メニュー名などは違えど、大半のツールに搭載されているはずです。そのため、初めて使うツールでも手順を1つ1つ覚える必要はありません。「このメニューにおそらくあるだろう」と見当をつけながら使ってみるスタンスで十分なのです。

もし機能がない場合、そのツールがまだ発展途上なだけです。プレゼン資料を作るために多くの人が必要とする機能なら、間違いなく今後追加されていくでしょう。現に、少し前までは機能の不足が感じられたCanvaも、今ではPowerPointと近い感覚で使えるほどアップデートされています。

これは、前述したプログラミング言語の話と同じです。ツールの本質を理解していれば、たとえツールが変わっても「このツールは、こう操作すれば良い」と応用するだけなので、そこまで悩まずにできるのです。

「その本質を理解するのが、また大変そう……」と思われるかもしれません。もちろん、最初は理解するためにまとまった時間を使って学ぶ必要があるでしょう。しかし、そこで「大変」「難しい」と匙を投げる前に思い出してほしいポイントがあります。

それは、プログラミング言語もツールも、もっと言えばWindowsもMacも生成AIもすべて「人間が作ったもの」だということ。つまり、どのツールも突然生まれてきたよく分からないものではなく、それを開発したときの発想、ベースとなった考え方があるはずなのです。

例えば、プログラミング言語を考えてみましょう。

「機械に電子信号を送るにあたり、人間が理解できるよう間に挟んだ言語」がプログラミング言語ですね。その「人間」とは英語を話す人間を指し、「英語」とは会話調などではなく、一定のルールに基づいた英語です。さらに、その言語をいきなり発信しても機械は理解できないので「今から始めます」「これで終わります」と機械に伝えてあげる。これが、プログラミングの大原則であり本質と言えるでしょう。

この部分をしっかり理解できれば、新しい言語が出てきても動じません。「○○言語では100行で書くことを、▲▲言語では1行で書くのか。また覚えなくては……」ではなく、「確かに100行書くのは大変だった。だから▲▲言語では1行で全部できるようになっているのか。すごいな!」といった受け止め方になると思います。

「自分と同じ人間が作ったものなのだから、自分にも理解できる!」
「どんなものにも、成り立ちまでのストーリーがある」

ぜひ、そのような意識を持って新しいものと向き合ってみてください。そうすれば、新しいものへの抵抗感や恐怖感は軽減し、プレゼンソフトのように「この機能はこういうメニューの中にあるものだ」といった法則性を見つけられることもあるでしょう。

ただ、中には「覚えるしかない」場合もあります。余談になりますが、かつて私がパソコンのキーボードを初めて触ったとき「なぜこんな支離滅裂な配置なんだ……ここにもきっと法則があるはず」と調べたことがありました。しかし、諸説あるものの法則性はないことが分かり、「これは、体に叩き込むしかない」という結論にたどり着きました(笑)。そうした判断も、前述した2つの意識があったからできたと思っています。

実はみんなできていない
本当のパソコンスキルを自分の強みに!

そもそも「パソコンスキルを身に付ける」とは、ただ「技術を詰め込む」という意味ではないと私は思っています。プロジェクトメンバとの会話を間違いなく記録するには話しながらスピーディーにタッチタイピングできるスキルが必要ですし、多様なメンバが等しく内容を理解するには誰でも分かりやすい資料を作るスキルが求められます。

つまり、まず自分が実行したいことがあり、それに対して必要なスキルや知識を磨くイメージです。そのため、いろいろな企業から選ばれて仕事が途切れないPMOになりたければ、当然、いろいろなツールを使えた方が良いわけです。とてもシンプルですよね。

とは言え、これまでの自分の考え方、新しいものへの意識を変えるのは決して簡単ではないと思います。それなら「私が使えるツールを貴社も使ってください」と相手を変える方がよっぽど楽かもしれません。

ですが、私の実体験としてお伝えしたいことがあります。それは、ツールの話に限らず、こうしたみんなが「大変」「やりたくない」と思うことは、実行するだけで周りから頭ひとつ飛び出ることができるということ。私自身もそうでしたし、他にもそういう人をたくさん見てきました。上位数%の「優秀なPMO」になるのは、難しそうに見えて実は意外と簡単なのです。

最初の1歩は気合いが必要かもしれませんが、ぜひ「どのようなツールでも使いこなせる」スキルを、ご自身の強みとして身に付けましょう。きっと、これからの仕事、取引相手や働く環境、収入などさまざまなことが良い方向へ変わっていくと思います。

今回で紹介した新しいものとの向き合い方は、スマートフォンやスマートウォッチなど、デバイスが変わっても応用できます。「分からないからやらない」という発想は捨て、新しいものには積極的に関わって、必要な情報や技術を得ていく姿勢が大切です。

おわりに

知識編第2回の今回は、以下のような内容を解説しました。

  • 「優秀なPMO」に求められるパソコンスキルとは、基礎的な技術に加えて「どんなツールでも使いこなせる」スキルである
  • 新しいツールも「人間が作った」もの。本質を理解すれば、誰でも使いこなせる!
  • このスキルを身に付けるだけで、「選ばれるPMO」になれる!

ちなみに、パソコンスキルを磨くために、特に「勉強の時間」を設ける必要はありません。おすすめは、日々の業務の中にちょっとしたトライを入れ込む「ちょこ練」。

  • この機能を使う手順をショートカットキーでやってみよう
  • いつも表で作成している報告書をグラフで作ってみよう
  • SNSで見かけた資料の色使いを試してみよう
  • 取引先の分かりやすい資料を真似してみよう

もちろん、業務に支障のない範囲で行ってみてください。「覚えたことをすぐ実行する」のが、新しいことでもスムーズに身に付けられるポイントです。ぜひ今日から「ちょこ練」をスタートしてみましょう!

次回は、PMOにとって重要な「ファシリテーション力」について解説します。どうぞお楽しみに!

著者
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
株式会社office Root (オフィスルート) 代表取締役社長
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動すると多数プロジェクトを成功へ導き、企業との協業も増加。2020年法人化し企業課題と向き合う。【著書】『DX時代の最強PMOになる方法』(‎ビジネス教育出版社)
URL: https://www.office-root.com/become-excellent-pmo/

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