「スタートアップシティ福岡」のこれまでとこれからをスカイディスクCEOに聞く
高島宗一郎市長を中心に、2012年よりスタートアップシティを標榜してきた福岡。その勢いは日本にとどまらず、電子国家エストニアやフィンランドといった世界的に注目されているスタートアップシーンにも活動の範囲を伸ばしている。
今回は、福岡の中心地にある官民協働型スタートアップ支援施設「FUKUOKA growth next」に拠点を置き(2018年3月末。現在の本社所在地は福岡市中央区舞鶴)、ワンストップ IoT×AIソリューションを手がける株式会社スカイディスクのCEOである橋本 司氏にインタビューを行った。
橋本さんの経歴と起業のきっかけを教えてください。
元々は大学卒業後、理系の学生としては妥当と思われる会社に就職し、27歳のときにシステム業界に入りました。その時にはじめてプログラミングを体験したのですが、遅く始めたことから劣等感を感じていて「周りを抜くためには普通にやっていてはいけない」と思っていました。
はじめて会社を作ったのは29歳のときでした。当時、会社を作ったきっかけは法整備だったんですね。元々はフリーランスだったのですが、仕事を続けていく上で法人が必要となったので立ち上げたという感じです。もう清算してしまっていますが、その後いくつか会社を立ち上げて、スカイディスクは6社目になります。それまではその時々のニーズに合わせて会社を作っていました。
その後は「クラウドを作る人から使う人にならないといけない」という考えから、2010年に九州大学の博士課程に入って分析の知識などアカデミックの分野を通して知識を得ました。ビッグデータのブームがきた時にデータ解析の会社を立ち上げたのを経て、2013年の10月にスカイディスクを立ち上げました。少し経歴がごちゃごちゃしていますが、ざっとこんな感じです。
なぜ今の業種を選んだのか教えてください。
今までは流れのままで会社を作ってきたところがあったのですが、「会社を作ろう」と思って作った会社がスカイディスクなのです。理由としては「自分が学んだことでできる」ことと「そのニーズがマッチした」ことですね。かつての企業もIoTかと聞かれるのですが、全く違います。1社目は受託開発、2社目はデータ分析コンサルティング、3社目はクラウドファンディングのプロジェクト代行、4社目はシステム開発、5社目は画像解析、全てやってきた内容は異なっています。
東京など他の地域での起業を考えたことはありますか?
「特に東京で起業するメリットはない」と思っていたので、意識はしていませんでした。要は「福岡にいたから福岡で起業した」ということですね。
いつ頃から「福岡のスタートアップシーンが盛んだ」と感じられていましたか?
本当にここ数年ですね。高島市長の熱い活動で種を蒔いたことがファーストフェーズで、その種が成長して我々のようなベンチャー企業が出始めてきたのがセカンドフェーズだと思います。福岡は食事が安くて美味しい上に、他のところより家賃も安いのでQOL(Quality Of Life)は良いのですが、逆にいうと居心地が良すぎてちょっとぬるま湯に浸かっている感じになるかなとも思ってます。
現状スタートアップはたくさんあるのですが、「福岡の企業といえば〇〇!」と言われるような会社はまだ出てきていないところがあります。もちろん我々はそのロールモデルになることを目標に進めているのですが。スカイディスクのサービスと製品について(競合他社との差別化ポイント、勝っていると思うところ)を教えてください。
ビジネス自体はIoTとAIを使って生活を豊かにすることで、工場系のIoT化やAI化に力を入れています。またそれだけでなく、1人当たりの生産性を高くすることで工場の生産性を上げるという働き方や人材についてのソリューションも提供しています。具体的には、商品の検品をAIに置き換えたり、AIを使ってラインの歩留まりをチェックしたりすることなどですね。
競合他社として、特に意識している企業は特にありません。と言うのも、日本には我々のようなワンストップソリューションを提供している会社があまりないからです。我々の強みとして改めて感じていることは、お客様に言われて気づいたことですが、創業以来続けているワンストップソリューションの中にノウハウがうまく蓄積されており、「他社ではできないことをスカイディスクはできる」ことがすごく助かっているとのお声をいただいています。
起業で苦労したこと(サービス・製品開発と金銭面)はありますか?
起業で一番難易度が高かったのは、2016年に一度資金調達をしたことですね。金銭面ですごく苦労しました。ありがたいことに創業メンバー3人が強固な絆を持っていたからこそ乗り越えられたのですが、起業の3大要素は「チーム」「機会」「資金」です。その資金調達がうまくいったことは次へ進むための大きなステップになりましたね。創業メンバーはみんなエンジニアでビジネス面が弱かったので、この資金調達を境にビジネスメンバーを強化しました。こうしたことがビジネスが拡大するターニングポイントになりました。
3名の強固な絆がある中、新メンバーを加入することに抵抗はありましたか?
多少抵抗はありましたが、選定基準は「この人と友達になれるかどうか」でした。一緒に飲みに行ったり、時には喧嘩したりできるかで採用を考えていたので。喧嘩というより「ちゃんと意見してくれるかどうか」ということですね。私自身はトップダウンというわけではないですが、嘘や誤魔化しがきらいといった性格や、何か問題や課題があればあればみんなで議論したいというスタンスをもって今のメンバーになっています。
将来に向けた展望と課題(会社と製品・サービスの両面から)を教えてください。
ビジネスとしては拡大フェーズで順調に成長していますが、課題としては変わらずエンジニア層の枯渇があります。AIを活用していますが、その人材が足りていないのが現状です。現在エンジニアは30人いますが、半年か1年で倍にする予定なので、もっと多くの人に会っていきたいと思っています。
また、今のターゲットは国内の工場ですが、海外進出もしっかり考えていきたいと思っています。日本の工場と海外の工場の大枠は一緒ですが、日本は人が足りないのでオートメーション化しますが、海外では人は足りているためマンパワーのほうが安いといったこともありえます。そういったところでヒューマンリソーステックが活きてくるので、海外の方がニーズは顕在化しています。日本の場合はニーズと予算をもろもろ計算して行った上でではありますが、海外はニーズと予算が顕在化しているのでスピードは早いと感じています。
27歳でプログラミングをはじめた橋本さんから遅咲きのプログラマ志望者に何か一言をいただけますか?
遅く始めるのも一長一短ですね。ずっと子供からやっている人と比べるとコードを書くスピードが圧倒的に遅いし、言語に対する理解と幅がなくハンデになってしまいます。ただ、メリットもあります。私がプログラミングをはじめた当時はちょうど携わっていたプロジェクトが過渡期だったので、PMとプログラマの働きを同時にしていました。その両方の視点を踏まえて経営者の自分を見てみると、技術力を持っているからこそ経営ができているので、もし営業出身だったとしたらうまくいかなかったなと思っています。
起業を考えている人たちにアドバイスをいただけますか?
学生起業家であれば、とにかく何か持ってなくても起業するのが良いのではと思います。逆に「ちゃんとビジネスをしたい」「こういうことを成し得たい」という方が起業するのであれば、チームと機会が重要になってきます。自分の持っている技術やノウハウと市場がマッチするか、また必ずお金が必要なタイミングは来るので、お金周りについても自己資金か銀行かファンドかで資金調達を計画しておきましょう。「チャンスがあれば起業する」というのは、自分にとって負の要素にはならないので。失敗しないほうが良いのは当たり前ですけどね。私の場合はメンターに恵まれていました。外野の声は「うるさい」と思っていましたが、一旦それを咀嚼して落とし込んだら新しい知見になるので、メンターを探すことも重要だと思います。
あとは、1人でやるより仲間とやるほうがだんぜん良いですね。自分1人で悩んでいたら、それだけで落ちてしまいますから。仲間がいる状態の方がやりやすいし、できれば2人以上仲間がいれば良いと思います。
* * *
市場のトレンドに合わせた起業から独自の強みを活かした起業まで、あらゆるビジネスを手がけてきた橋本氏からは、点を1つずつ生み出し、その点を線として繋げられたという印象を強く感じられた。結局のところ、起業も勉強も「いつやるのか」ではなく「やるかやらないか」だ。スタートアップのみならず、新しいことを始めようと考えている人たちにも必要なマインドではないだろうか。
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