【未来はここから始まる】大阪万博で体感する「生成AI×ビジネス」最前線

- 1 はじめに
- 2 世界が注目、「生成AI」のリアルが大阪に集結
- 3 未来をデザインする生成AI: NTT「Dynamic Infinity」の挑戦
- 3.1 【ビジネス応用のヒント】
- 4 AIが駅に立つ時代: 大阪メトロ「ugo」の案内革命
- 4.1 【ビジネス応用のヒント】
- 5 生成AIとの共創: 住友グループ「ミライのタネ」プロジェクト
- 5.1 【ビジネス応用のヒント】
- 6 AIが健康をマネジメント: PHRと連動する“未来の医療”
- 6.1 【ビジネス応用のヒント】
- 7 広告もモデルもAIで創る: 「AIモデル」の可能性
- 7.1 【ビジネス応用のヒント】
- 8 生成AIは、私たちの“あたりまえ”になる
はじめに
本連載では、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属する各分野の専門家が、それぞれの視点から最新のAIトレンドとビジネスへの示唆を発信しています。本記事を通じて、皆さまが“半歩先の未来”に思いを馳せ、異なる価値観や視座に触れていただければ幸いです。
世界が注目、「生成AI」のリアルが大阪に集結
2025年4月13日、大阪・関西万博が大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)でついに開幕しました。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。10月13日までの184日間、世界158の国と地域が集結し、医療、科学、環境、文化など多彩な分野にわたる最先端技術や取り組みが披露されます。参加国数は国内の万博史上最多であり、国際的な注目度の高さがうかがえます。
【参照】「大阪・関西万博スタート 「いのち」テーマに半年間―158カ国・地域が参加」(時事ドットコムニュース 2025年4月13日)
世界の分断や不安が深まる今だからこそ、万博は「協調と共創」の象徴的な舞台に。その中でも、近年急速に進化し続けている生成AIは、未来社会を形づくるカギとして各所で活用され、大きな存在感を放っています。
本稿では、万博の現場で展開されている生成AIの最先端事例を紹介しながら、ビジネスにどう応用できるのか、そして生成AIがこの先どう進化するのかを、わかりやすく・具体的に読み解いていきます。
未来をデザインする生成AI: NTT「Dynamic Infinity」の挑戦
【参照】「NTTグループの大阪・関西万博向けグローバルプロモーションの舞台裏 ~生成AIを活用したグローバルなCXデザイン事例~」(NTT DATA 2025年2月27日)
NTTが提供するウェブコンテンツ「Dynamic Infinity」は、来場者参加型のAI体験。この展示は、ユーザーが選んだ21種類の未来社会シナリオから1つを選択し、その選択に応じて生成AIが一人ひとり異なる未来のビジョンを3D画像で描き出すというもの。生成される未来像は、都市のあり方、働き方、ライフスタイル、自然との共生といったテーマに沿って構成されており、個々人の想像力と生成AIの演算が融合していくユニークな体験が可能です。
例えば「ウェルビーイングな未来」というシナリオを選ぶと、健康や幸福を中心に据えた都市設計やライフスタイルが、鮮やかな3Dビジョンで可視化されます。また、ユーザー同士のビジョンを組み合わせることで「共創された未来」も自動生成され、複数の視点からの未来社会像を体験できます。
この仕組みを支えているのが、NTTのR&D部門が開発した最先端の生成AIエンジンです。ユーザーの選択を自然言語として理解し、意味を解析したうえで、ビジュアルコンテンツに即座に変換。視覚的なシミュレーションを通じて、未来社会に対する気づきや議論のきっかけを与えています。
展示はオンラインでも体験可能で、NTTがデザインコンサルティングを行うTangityが中心となり、イタリアと日本のクリエイター・エンジニアチームが共同で開発しました。生成AIの活用によって、"ただ見る万博"ではなく"ともに創る万博"という新しい体験価値を提供しています。

【出典】「2025年大阪・関西万博 NTTオリジナルコンテンツ『Dynamic Infinity』公開のお知らせ」(NTT 2025年1月23日)
【ビジネス応用のヒント】
①パーソナライズド・シナリオ設計による商品・サービス開発
ユーザーが選んだ未来シナリオに基づき、生成AIが個別にビジョンを描き出します。
- 住宅、不動産、旅行など「ライフスタイル提案型ビジネス」において、選択肢提示ではなく“個別の未来像”を創出する新しいマーケティング
②共創型ブレスト支援ツールとしての生成AI活用
複数のユーザーが創出した未来ビジョンを掛け合わせることで、まったく新しい未来像が生成されます。この「組み合わせによる発想」は、企業のチームブレストやアイデア創出に大いに応用可能です。
- 異なる部署や職種間でのアイデア共創に、生成AIを使って“視覚化”と“発展”を促進
③ビジュアル・ストーリーテリングによる新規事業提案の強化
言語だけでなくビジュアルで未来を提示するスタイルは、社内外へのプレゼンテーションのあり方を根本から変える可能性があります。
- 新規事業や商品開発の際、ビジョンを3Dモデルやビジュアルで提示する生成AIツールを活用し、投資家や経営層への訴求力を強化
AIが駅に立つ時代: 大阪メトロ「ugo」の案内革命
【参照】「生成AI活用の「案内ロボット」、万博最寄り・夢洲駅に 4言語で応対可能」(ITmedia NEWS 2025年4月2日)
大阪メトロが夢洲駅に設置した案内ロボット「ugo(ユーゴー)」は、2025年の万博に訪れる世界中の来場者を迎える“スマート接客の象徴”です。このロボットには、NTTが開発した国産の大規模言語モデル「tsuzumi」を含む複数の生成AIが組み込まれています。
特徴:- 日本語・英語・中国語・韓国語の4カ国語に対応
- 利用者の話しかけに応答するだけでなく、自発的に声をかけて案内を促す能動型設計
- 会話内容に応じた自然なジェスチャーや案内表示
- 約6,000件の応対実績(2024年初頭の梅田駅での実証実験より)
今回の万博会場(夢洲駅)では、2025年10月末までの長期間にわたり社会実験として設置されており、利用データをもとにさらなる改善と実用化が進められます。
これは、ただの“受付ロボット”ではありません。生成AIを活用した「リアルタイム多言語理解+自然対話」機能により、人間のように臨機応変な案内・誘導が可能となりました。
【ビジネス応用のヒント】
①多言語接客の自動化による“インバウンド対応力”の強化
訪日外国人観光客の増加が進む中、「誰にでもわかりやすく、ミスなく伝える」ことは業界問わず大きな課題です。ugoのような生成AIを使った多言語対応は、その解決策となります。
- 接客の一部(定型対応・初期案内)の自動化による人件費削減
②「声をかけるAI」による“新しい接客導線”の創出
ugoのユニークな点は、単なる受動的なロボットではなく、「人に話しかける」能動性を備えていることです。これは、AIによるプロアクティブな接客の可能性を示しています。
- エレベーター、待合室など“会話の少ない空間”での新たな情報提供導線
③対話データの収集・分析によるCX(顧客体験)改善ツールとしての活用
ugoは対話ログを蓄積し、利用状況を分析することで、案内内容の改善やユーザーの関心傾向の可視化にも貢献しています。これは「対話データ=マーケティング資産」として活用できることを意味します。
- 新商品やサービスへの関心度を測定し、店舗運営や広告にフィードバック
生成AIとの共創: 住友グループ「ミライのタネ」プロジェクト
【参照】「AIで生成した事業アイデア700を万博「住友館」で披露、ユーザー参加型の特設サイトも」(日経xTECH 2025年4月11日)
住友グループは、大阪・関西万博で展開する「住友館」において、生成AIを活用した共創型プロジェクト「ミライのタネ」を披露しています。約700件の先端技術をもとに生成AIが1件あたり約50の事業アイデアを提案し、そこから選ばれた約500件を展示しています。来場者は立方体の2面に配置された「技術」と「未来アイデア」を比較して見ることができ、QRコードから詳細情報にもアクセス可能です。
例えば、CO₂排出量90%削減技術からは「クレーンコロニー」構想が生まれ、技術の新たな活用像を提案しています。生成AIを発想のパートナーとするこの展示は、技術の“見える化”と未来志向のブランディングを両立する新しいビジネス共創モデルといえます。
【ビジネス応用のヒント】
①研究開発・技術資産から事業アイデアを“爆速で量産”するAI共創ツールの活用
住友グループの取り組みでは、既存技術に対して生成AIが約50通りの事業アイデアを提案しました。これは、AIが「発想補助ツール」から「共創パートナー」へと進化していることを示します。
- 特許データベースをAIに学習させ、新規用途開拓のアイデア創出
②展示・商談・営業資料における“発想のビジュアル化”と“対話型提案”の強化
「技術+アイデア+画像」の展示構成は、技術が抽象的になりがちな企業にとって、ビジネスの“伝え方”に革新をもたらします。さらに、QRコードによる拡張情報への導線も、営業・販促に活用可能です。
- 社内プレゼンや外部パートナー提案の訴求力強化
③企業ブランディングとしての“未来思考発信”と共創型キャンペーン
「ミライのタネ」は、生成AIの活用により“未来志向”のブランドイメージを自然に訴求しています。これは、BtoB企業にとってもブランディング戦略として有効なアプローチです。
- 自社ビジョン発信に生成AIを組み込み、ステークホルダーとの対話ツールに
AIが健康をマネジメント: PHRと連動する“未来の医療”
【参照】「大阪万博、AIがお薦めの食事提案 健康データから算出」(日本経済新聞 2025年4月7日)
経済産業省が主導する「PHR(パーソナルヘルスレコード)」と生成AIを組み合わせた次世代型健康支援の展示が注目を集めています。これは、来場者が自身の健康データ──血圧、血糖値、歩数など──をシステムに登録すると、生成AIがその人に最適な食事や運動を提案してくれる体験型サービスです。
会場内には3Dボディスキャン装置も設置されており、体型や姿勢の情報をもとに、生成AIがリアルタイムで個別のアドバイスを提示します。例えば「糖質を抑えた昼食がよい」「午後に10分の軽運動を」など、パーソナルな提案がその場で受けられるのです。
この展示は、医療や健康管理の枠を超え、AIが個人のライフスタイルに寄り添う“自律型ウェルネス支援”の新しい形を提示しています。PHRと生成AIの連携は、従来の画一的な健康施策を超えた、双方向で継続的な健康支援の実現に向けた重要なステップと言えるでしょう。
【ビジネス応用のヒント】
①ヘルスケア事業における“個別最適化サービス”の創出と収益化
万博会場で展開されているPHR体験は、生成AIがユーザーの健康データに基づき、食事や運動をその場でパーソナライズして提案する点に特徴があります。これは、従来の記録型・一律型サービスを、“個人の状態に応じたリアルタイム提案型”に進化させる大きなヒントです。
- フィットネスジムやウェルネスアプリでのAIによる個別指導プログラム
②企業の健康経営施策における“継続可能な支援AI”としての活用
個人に最適化されたアドバイスを日常的に提供できる仕組みは、企業の従業員支援にも応用が可能です。生成AIとPHRを組み合わせれば、社員一人ひとりのライフスタイルや体調に寄り添う“AI産業医”のような支援モデルも現実味を帯びてきます。
- 健康データをもとに、AIが日々のケアやリスク通知を自動で実行
③ボディデータと連動した“AI×体験型マーケティング”の展開
会場内で活用されている3Dボディスキャンとの連動により、AIは見た目や姿勢に関するデータをリアルタイムに処理し、フィードバックを提供しています。この仕組みは、アパレルやスポーツ、ライフスタイル領域における体験型マーケティングにも応用可能です。
- バーチャル試着やカスタム商品の提案を、リアル店舗やアプリで実現
広告もモデルもAIで創る: 「AIモデル」の可能性
【参照】「大阪ヘルスケアパビリオンにAIモデルを導入、万博で新たな未来を提案」(Osaka Days 2025年4月14日)
AI model株式会社は、大阪・関西万博の「大阪ヘルスケアパビリオン」にて、自社開発によるAI生成のファッションモデルやタレントを起用した展示を行っています。展示では、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」や、パビリオンのテーマ「REBORN」に沿った専属のAIモデルを生成し、リーフレットや広報バナー、紹介映像など各種プロモーションツールに展開。現場のデジタルサイネージなどでも、実際にAIモデルがナビゲーター役として登場し、来場者に未来の社会像を案内します。
このAIモデルは、撮影や出演契約を必要とせず、用途やコンセプトに合わせて完全オーダーメイドで生成されます。顔立ちや雰囲気だけでなく、ポージングや衣装、シチュエーションまで指定可能で、広告のキービジュアルや商品カタログ、ECサイト、SNS用素材にいたるまで幅広く活用されています。制作スピードとコストの両面で従来のプロセスを大きく変革するこの取り組みは、映像・広告業界だけでなく、DXや販路拡大を模索する幅広い分野に波及する可能性を秘めています。
【ビジネス応用のヒント】
①広告・販促素材の“制作プロセス革新”とコスト最適化
AIモデルは、従来必要だったスタジオ撮影やタレント契約を不要にし、広告ビジュアルの制作工程を大幅に効率化します。カスタム可能なキャラクターを即座に生成できることで、ブランドの世界観にフィットした表現を、短期間・低コストで展開することが可能です。
- ポスター、CM、パンフレットのキービジュアルを一貫してAIで統一化
②ブランド専属“AIアンバサダー”による顧客との新たな接点づくり
企業は、自社ブランドのアイデンティティに基づいたAIタレントを専属的に持つことができ、これを“バーチャル広報担当”として活用することで、消費者との継続的な対話・発信が可能になります。Z世代やミレニアル世代に向けたSNS展開とも親和性が高く、ブランドの顔として活躍する存在となります。
- オンラインストアで商品紹介を行うAIバーチャル店員の導入
③モデル業界・芸能業界との“共創型DX”による新たな収益モデル
AI model社は、芸能プロダクションやモデル事務所と協業し、実在の人物と生成AIモデルを併用したハイブリッドなプロモーションも展開しています。これは業界の枠を超えた新たなビジネス創出の形であり、既存の人材リソースとの共創によって、新しい収益源やコンテンツ価値の最大化を実現しています。
- 実在モデル+AIモデルのクロスオーバーキャンペーン企画
生成AIは、私たちの“あたりまえ”になる
1970年の大阪万博では、回転寿司や缶コーヒー、動く歩道、ワイヤレステレホン、ブルガリアヨーグルト、ファストフードといった当時の最先端技術や製品が紹介され、万博をきっかけに広く一般の生活に浸透していったと言われています。今回の大阪・関西万博2025も、同様に未来の社会を先取りし、それを現実のものとして感じられる場になっています。
中でも、生成AIはその中心にある存在です。文章、画像、対話 ーこれまで人間にしかできなかったことが、いまや現実のサービスやビジネスで稼働し始めています。技術としての成熟もさることながら、それをどう活かすか、どう社会に根付かせるかが問われています。
未来は、ただ訪れるものではなく、選び、創るものです。生成AIは、その選択と創造を支える強力なパートナーです。今回の万博を機に、私たちの生活の「あたりまえ」がまたひとつ、書き換えられていくのかもしれません。
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