AI CRUNCH 8

完璧なAIはいらない?「弱いロボット」の可能性と、名鉄グループが築いた生成AIの”土壌”

AI CRUNCHでは生成AIを活用している人が注目している「生成AIのすごい企業」を調査し、その「すごさ」の秘密を分かりやすく発信して行きます!

田中 悠介, 清水 亮輔

4月28日 6:30

本連載「AI CRUNCH」は「生成AIを活用している専門家が注目する『すごい企業』を調査し、その秘密を分かりやすく発信する」をコンセプトに掲げています。

今回は、「生成AI大賞2024」でグランプリを受賞した名古屋鉄道株式会社と、そこから生まれた実証実験「推しバース」を展開する株式会社名鉄生活創研を紹介します。

生成AIというと「いかに人間と同じように、完璧に振る舞うか」が追求されがちです。しかし、彼らが行き着いたのは「完璧な再現ではなく、あえて『 愛嬌のあるAI(弱いロボット)』として受け入れられることの価値」でした。この独自の境地に至るまでの裏側には、名鉄グループが全社で築き上げた「失敗を恐れずAIに触れられる土壌」がありました。

生成AIチャットボット「AIめっちゃん

「AIは完璧でなければならない」「難しいプロンプトを入力しなければならない」というプレッシャーを取り除き、親しみやすい存在としてAIをグループ内解放したこと。この「心理的安全性の高い土壌」があったからこそ、グループ会社である名鉄生活創研から、これまでにないAI活用のアイデアが芽吹くことになります。

「推しバース」の挑戦と、立ちはだかった技術の壁

このように、名鉄では「誰でも触れられる環境 → 活用の広がり → 現場の気づき」という流れが生まれており、その延長線上で新規事業が創出されています。名鉄生活創研の土橋氏は、社内の生成AIセミナーでの学びと、自身の「推し活」の熱量を結びつけ、実在するアイドルをAIアバター化して地域の魅力を発信するプロジェクト「推しバース」を立ち上げました。

インタビュー時の様子:画像左上が名古屋鉄道株式会社三田氏、画像左下が株式会社名鉄生活創研土橋氏

完璧な人間ではなく「弱いロボット」としての価値

技術的な壁に直面した土橋氏ですが、この実証実験を通じて、生成AIと人間のコミュニケーションにおける「ある重大な気づき」を得ました。

「ユーザーは、AIアバターを本人の完全なクローンだとは思っていません。本人の情報がインプットされた『弱いロボット』として認識し、そこに対して『庇護欲(守ってあげたい、育ててあげたいという感情)』のようなものを抱いて接していることに気がつきました」(土橋氏)

人間を完全に再現しようとすれば、少しの不自然さや不気味の谷がノイズになります。しかし、「推し(アイドル)の知識を一生懸命学習した、ちょっと不器用なAIロボット」という位置づけであれば、ユーザーの許容度は上がり、全く新しいエンゲージメント(愛着)が生まれるのです。結果、開催期間で28回も体験した熱狂的なファンを創出しました。

これは、社内普及の起爆剤となった「AIめっちゃん」が、少しとぼけたキャラクター性で社員に受け入れられた現象とも見事にリンクしています。名鉄グループは、社内でも社外でも「完璧ではないが、愛嬌のあるAI(弱いロボット)」の価値を実証したと言えます。

まとめ:AIは「目的」ではなく、組織と価値をつなぐ「手段」へ

今回の取材を通じて見えてきたのは、名鉄グループにおける生成AI活用が、単なるツール導入にとどまらず、「組織に根付く仕組み」として設計されている点です。

誰でも触れられる環境を整え、活用事例を見える化し、「自分ごと化」を促す。さらに、伴走型のガバナンスによって現場の挑戦を支える。こうした取り組みの積み重ねが、AI活用を一部の人のものではなく、組織全体の文化へと変えていきました。

その結果として生まれたのが、「推しバース」のような新規事業です。AIは目的ではなく、現場の気づきや個人の情熱と結びつくことで、はじめて価値を生み出す。そのプロセスが、今回の事例から明確に見て取れます。

また、「弱いロボット」という考え方は、生成AIとの向き合い方に新たな視点を与えます。完璧な再現を目指すのではなく、不完全さを受け入れることで、人とAIの間に新しい関係性が生まれる可能性があります。

AIをどう使うかではなく、どう根付かせるか。
そして、どのように価値へとつなげるか。

名鉄グループの取り組みは、生成AI活用に悩む企業にとって、その具体的なヒントを示していると言えるでしょう。

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