Gen AI Times 67

【AIエージェント時代】日本企業とエンジニアのこれから

本記事は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属するメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介&深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来に皆さんをご案内します。

瀧口 真人

5:00

はじめに

本連載では、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」に所属する各分野の専門家が、それぞれの視点から最新のAIトレンドとビジネスへの示唆を発信しています。本記事を通じて、皆さまが"半歩先の未来"に思いを馳せ、異なる価値観や視座に触れていただければ幸いです。

前回の記事「【AIエージェント時代】SaaSは消えるのか? SaaS終焉論とソフトウェアの未来」では、2026年初頭に起きたSaaSショックの全体像、終焉論の賛否、SaaSの未来を見ていきました。

今回はその続編として、前半では、日本企業がAIエージェント時代に直面する固有の課題と、その中にあっても動き始めた事例をご紹介します。

後半では、ソフトウェアの主な使い手が人間からAIエージェントへ移ることでエンジニアの役割がどう変わるのかを、EMConf JP 2026における藤倉成太氏の議論と、グローバルなアナリストレポートの双方から考えます。

日本企業にとってのAIエージェント

SaaSショックと終焉論はグローバルな議論ですが、日本企業にとっても他人事ではありません。日本には固有の課題があり、だからこそ手つかずの可能性も残っています。

経済産業省は2025年5月、約4,000社を対象にしたアンケート調査の結果を公表しました。レガシーシステムを保有している企業は全体の61%。大企業に限ると74%に達します*2

AIエージェントが自律的に業務をこなすには、API経由でデータにアクセスできることが前提になりますが、レガシーシステムの多くはそもそもそうした接続を想定していません。APIが整備されていないこと、データがサイロ化していること、これがAIエージェント導入における最大の壁です。

*2:「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート:DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」(経済産業省 2025/05/28)
【引用】「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート:DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて」(経済産業省 2025/05/28)

成果面の課題もあります。IPAが2025年に公表したDX動向2025によると、日本企業のDX取組率は米国・ドイツとほぼ同水準です。ところが、中身は大きく異なっています。日本企業のDX効果はコスト削減や業務効率化に偏っています。

一方、米国・ドイツ企業は売上向上や新規事業の創出で成果を出しています*3。AIエージェントの導入効果を引き出すには業務の自動化だけでは足りず、事業モデルそのものを変える必要がありますが、いまの日本企業のDXはまだその手前にとどまっています。

*3: 「DX動向2025」(IPA 独立行政法人情報処理推進機構2026/06/26)
【引用】「DX動向2025(データ集)」(IPA 独立行政法人情報処理推進機構 2026/06/26)

こうした構造的な課題を抱えながらも、AIエージェントの全社導入にすでに踏み切った企業は複数あります。

動き始めた日本企業

三菱UFJ銀行は2026年3月25日、Salesforceの金融業界向け自律型AIエージェント「Agentforce 360 for Financial Services」の本稼働を開始しました。2025年8月に日本で初めて同ソリューションを選定し、約6か月の構築期間を経ての展開です。

Salesforce上に分散していた顧客属性、提案履歴、取引履歴などの情報確認作業をAIエージェントが横断的に集約し、営業担当行員の面談準備や提案活動を支援します。金融領域で顧客接点をエージェント化した国内先行例です*4

*4:「三菱UFJ銀行、Salesforceの金融業界向けAIエージェント『Agentforce 360 for Financial Services』を本稼働」(Salesforce Japan 2026/03/25)

大阪市と日立製作所は、2025年9月から2026年3月にかけて、大阪市総務局の年間約1万件におよぶ通勤届の処理業務を対象に、AIエージェントを活用した共同検証を実施しました。申請内容のナビゲート、チェックサポート、認定可否の判定サポート、払戻計算サポートの4つのユースケースを検証した結果、業務時間を将来的に最大約40%短縮できる可能性が確認されています。自治体の定型業務にAIエージェントを適用した事例として注目されます*5

*5:「大阪市と日立製作所、AIエージェントを活用した通勤届業務の実証実験結果を公表」(日立製作所 2026/03/26)
【引用】「大阪市と日立製作所、AIエージェントを活用した通勤届業務の実証実験結果を公表」(日立製作所 2026/03/26)

DeNAは2025年7月にCognition AIと戦略的パートナーシップを締結し、自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin」のエンタープライズ版(Devin Enterprise)の社内導入を進めてきました。約半年の段階的導入プロセスを経て、2026年3月時点で約2,000名の全社員が利用可能な基盤を構築しています。

具体的な成果として、社内の資産管理APIにおけるPerlからGoへのコードマイグレーションでは、従来半年を要すると想定されていた作業をわずか1か月弱で完遂し、作業効率を約6倍に高めました。また、没入型体験施設「ワンダリア横浜」のスマートフォンアプリ開発では、マルチリポジトリ対応の活用により開発速度を約2倍に引き上げています。

さらに、非エンジニアがエンジニアを介さず仕様を確認できる環境の構築を進めており、仕様管理の自動化を通じて部署単位で月間約2,000時間相当のコミュニケーションコスト改善を目標としています*6

*6:「DeNAが自律型AI『Devin』を全社員2000人超に導入」(DeNA 2026/03/04)

SOMPOホールディングスは2025年12月26日、国内グループ会社の社員約30,000名を対象にAIエージェントツール「SOMPO AIエージェント」を導入すると発表しました。本格導入に向けた実証実験の第一弾として、2026年1月よりGoogle Cloudの企業向けAIエージェントプラットフォーム「Gemini Enterprise」をメインツールに採用し、社内文書の検索・要約、議事録作成支援、データ分析補助といった汎用的な業務サポートに加え、保険事業の知見や業務プロセスに特化・カスタマイズされた機能を検証しています。

国内損保事業で目標とする事業費率30%の早期達成を後押しする狙いもあります。あわせて、既存の生成AI研修を「SOMPO AIエージェントリーダーシップ研修」として再編成し、管理職以上の受講を必須とすると発表しました*7

*7:「国内グループ社員約3万人にAIエージェントツール導入」(SOMPOホールディングス 2025/12/26)
【引用】「国内グループ社員約3万人にAIエージェントツール導入」(SOMPOホールディングス 2025/12/26)

楽天グループは2026年1月5日、インターネット・ショッピングモール「楽天市場」のスマートフォンアプリに、エージェント型AIツール「Rakuten AI」を搭載しました。AIコンシェルジュがユーザーとの対話を通じてニーズを理解し、約5億点の商品群から条件や目的に合った商品を提案します。商品情報や価格比較に加え、気候や流行、社会情勢などのトレンドもウェブの自然検索結果から反映し、包括的な情報提供を行います*8

*8:「エージェント型AIツール『Rakuten AI』を『楽天市場』のスマートフォンアプリに搭載」(楽天グループ 2026/01/05)

このほかにも動きは広がっています。ソフトバンクは2025年6月に全社プロジェクトを始動し、社員一人あたり100体のAIエージェント作成を課した結果、約2か月半で作成されたAIエージェントの累計数が250万を超えたと報告しています*9

NTTデータは2025年12月9日、自然言語で業務特化型AIエージェントを開発できる基盤「LITRON Builder」を2026年4月から提供開始すると発表しました*10

伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)とトヨタ車体は、マルチモーダルAIエージェントを活用した品質管理の高度化に関する共同研究を2025年10月から2026年3月の期間で実施しています*11

DATAFLUCTは菓子卸大手の山星屋に営業支援AIエージェント「Airlake BI Agent」を実装し、自然言語での売上データ検索・グラフ自動生成や顧客分析の自動化による実証実験を開始しました*12。ベルフェイスはAIエージェント事業「bellSalesAI」の拡大に向けて総額7.5億円の資金調達を実施し、AIエージェントカンパニーとして再始動しています*13

*9:「わずか2カ月半で250万超のAIエージェントを作成。ソフトバンクのAI活用」(ソフトバンク 2025/12/04)
*10:「企業が自ら業務特化型AIを開発可能にする基盤『LITRON Builder』の提供を開始」(NTTデータグループ 2025/12/09)
*11:「CTC、トヨタ車体とマルチモーダルAIエージェントを活用した品質管理の共同研究を開始」(日経BP 2025/12/02)
*12:「DATAFLUCT、菓子卸大手の山星屋へ営業支援AIエージェントを実装。営業担当者の暗黙知をデータ化し提案力を向上。」(DATAFLUCT 2026/03/09)
*13:「ベルフェイス株式会社、AIエージェントカンパニーとして再始動」(ベルフェイス株式会社 2026/01/19)

これらの事例を並べてみると、AIエージェントの用途は開発の現場にとどまらず、顧客対応、行政事務、購買支援と幅広い領域に及んでいることがわかります。そしてエージェントが業務の実行を担う範囲が広がるほど、それを設計し、統合し、品質を担保する側、つまりエンジニアの仕事の中身も変わらざるを得ません。では、具体的に何がどう変わるのでしょうか。

エンジニアの価値はどこへ向かうか

2026年3月、EMConf JP 2026のクロージングセッションで、元Sansan CTOで現キャディVPoEの藤倉成太氏は、エンジニアの価値を藤倉氏自身のキャリアから以下のように述べています*14

*14:「AIエージェントがコードを書く時代、EMに残される仕事とは?藤倉成太氏が描くエンジニア組織の変容(藤倉成太氏 基調講演)」(CodeZine 2026/03/26)
時期エンジニアの価値
インターネット普及初期専門知識をどれだけ持っているか
インターネット発達後「持つこと」の価値は消えたものの、経験による知識に価値が残った
(「こういう場面ではこうするべき」「このエラーは見たことがある」など)
現在(AIエージェント時代)経験値すらAIに代替されうるため、意思決定と責任が残された
(何を作るべきかを考え、作るかどうかを判断し、どの技術を使うかを判断して、結果に責任を持つこと)

また、「SaaS is dead」ではなく、AIを前提とした法律や組織の考え方、PL(損益計算)の構造が変わっていく中で、その変化に対応するソフトウェアが生まれていく。つまり、AIがどれだけ精度を上げても、すぐに使える業界と工夫が必要な業界のグラデーションは必ず存在し、そのグラデーションの間を埋めていくのがソフトウェアであり、エンジニアの仕事だということです。

こうした見方は日本だけのものではありません。同じ時期、海外でも「判断と責任」の中身を具体化する議論が進んでいます。

エンジニアが取り組むべき具体的課題

開発者生産性調査を行うDX社の最新データによれば、開発者の92%が月1回以上AIコーディングツールを使っており、週あたり平均約4時間を節約していると自己申告しています*15。CIO誌は2026年2月の記事で、先進的なエンジニアリングチームがたどり着きつつあるシンプルなオペレーティングモデルとして"delegate, review and own"を示しました。

*15:「The Future of Software Engineering with AI: Six Predictions」(The Pragmatic Engineer 2026/02/25)

AIエージェントに実行を委任し(delegate)、エンジニアが正確さ・リスク・整合性の観点でレビューし(review)、アーキテクチャ・トレードオフ・成果のオーナーシップは人間が持つ(own)、というものです*16。AIを使うかどうかはもう論点ではなく、AIが当たり前にある世界でエンジニアの仕事をどう組み立て直すかが問われています。ここでは3つの課題を取り上げます。

*16:「 "How Agentic AI Will Reshape Engineering Workflows in 2026" 」(CIO Magazine 2026/02/20)

1つ目は、エージェントが接続するAPIとデータモデルの設計です。エージェントAIの台頭により、ソフトウェアの制御が変わりつつあります。Bain & Companyは2025年のレポート "The Great Debate: Will Agentic AI Kill SaaS? — Technology Report 2025"で、エージェントAIが制御を三つの層で再定義しつつあると分析しました。最下層は業務データの保管・アクセス管理・ルール適用を担うシステム・オブ・レコード、中間層はタスクの計画・文脈の記憶・ツールの呼び出しを行うエージェントOS、最上層は自然言語の要求をエージェントのアクションに変換し結果を返すアウトカム・インターフェースです*1

この三層構造のなかでエージェントはAPIを介してデータやツールにアクセスするため、エンジニアにとってはAPIの設計品質がシステム全体の振る舞いを左右することになります。加えて、The New Stackは2026年2月、MCPなどAI向けプロトコルが既存のガバナンス・セキュリティ・アクセス制御を迂回するリスクを指摘しました*17。新しいプロトコルを採用する際に、既存の統制とどう整合させるかは、エンジニアが設計段階で判断を求められる問題です。

*1:「The Great Debate: Will Agentic AI Kill SaaS? — Technology Report 2025」(Bain & Company 2025/09/23)
*17:「Your AI Strategy Is Built on Layers of API Sediment」(The New Stack 2026/02/17)

2つ目は、セマンティック層の構築です。エージェントがAPIを通じてデータを読めるだけでは足りません。データの意味を解釈できなければ自律的な判断にはつながりません。

ビジネスロジックやドメイン知識をAPIの応答に埋め込むセマンティック層の設計がエンジニアに求められています。通信プロトコルの面では、Anthropicが2024年11月に公開したModel Context Protocol(MCP)*18と、Googleが2025年4月のCloud Nextで発表したAgent-to-Agent(A2A)*19が標準化を進めています。

ただしBainが指摘するように、MCPやA2Aはツール呼び出し、セキュリティトークン、結果のやりとりを標準化するものの、invoice(請求書)、policy(方針・規定)、work order(作業指示)といったビジネス概念の共有語彙は提供していません*1。プロトコルが整っても、その上で流れるデータの意味定義は個々のエンジニアとドメインエキスパートの協働に委ねられています。

*18:「Introducing the Model Context Protocol」(Anthropic 2024/11/25)
*19:「Announcing the Agent2Agent Protocol (A2A)」(Google Developers Blog 2025/04/09)

3つ目は、エージェントの振る舞いに対するセキュリティ設計です。自律エージェントが引き起こすのは、人間のうっかりミスとは質の異なるリスクです。ある判断の誤りが連鎖的に波及したり、設計時に想定していなかった振る舞いが自律的に生じたりします。

エンジニアが設計時に参照できる指針は整いつつあります。OWASPは2025年12月にTop 10 for Agentic Applicationsを公開し、エージェントの目標乗っ取り(Agent Goal Hijack)やツールの悪用(Tool Misuse and Exploitation)など、実際のインシデントに基づくリスク分類を行いました*20

Forresterは2025年8月のAEGISフレームワークで、GRC、IAM、データセキュリティとプライバシー、アプリケーションセキュリティ、脅威管理、ゼロトラストアーキテクチャの6ドメインにわたるセキュリティの枠組みを示しています*21。NISTも2026年2月にAI Agent Standards Initiativeを立ち上げました*22。これらの指針を踏まえ、監査証跡の設計やエージェントの権限管理をシステムに組み込むことが、エンジニアの実装上の責務に加わりつつあります。

*20:「Top 10 for Agentic AI Applications (2025–2026)」(OWASP 2025/12/09)
*21:「Introducing Forrester's AEGIS Framework: Agentic AI Enterprise Guardrails for Information Security」(Forrester 2025/08/04)
*22:「AI Agent Standards Initiative (CAISI)」(NIST)

おわりに

「2025年の崖」という言葉を覚えているでしょうか。経済産業省が2018年に公表したDXレポートで示された警鐘です。

レガシーシステムを放置すれば、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じるというものです。あれから7年余りが経ち、2025年が来て、そして過ぎました。

崖から落ちた実感のある企業は、おそらく多くありません。ミスリードがあったという事情もありますが、しかし、刷新に踏み切った企業がプロジェクトの炎上に見舞われる一方で、大多数は様子見を続け、レガシーの保有率は依然61%のまま残りました。成功したのは少数で、大多数は、動いても動かなくても、崖に囚われてしまった。それがこの7年間の実態です。

AIエージェントの波にも、見覚えのある空気が漂っています。ツールの導入が目的になり、「人間は何に責任を持つのか」が問われないまま進んでしまう危険をはらんでいます。

これまで見てきたように動き始めた企業がある一方で、多くの企業にとってはまだ「様子を見ていい話」に映っているかもしれません。でも、それはかつて私たちが崖に対して取った態度と同じです。

ただ、ひとつだけ7年前と違うことがあります。AIは、自分たちで作る力を与えてくれる道具です。外注と仕様書に頼るしかなかった構造の中では動かせなかった岩を、今度は自分たちの手で動かせるかもしれません。

AIが作業を代替した先に人間が担うのは、何を作るか判断し、結果に責任を持つことです。私にとって、この問いはエンジニアに限った話ではなく、すべての企業に向けられているように感じています。

次の崖を、また「なんとなく」迎えるのか。それとも、今度は違う迎え方をするのか。その判断もまた、私たち自身の責任です。

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