Association for the Advancement of Artificial Intelligence(AAAI)-26レポート 4

AAAI-26からサイエンスコミュニケーションの重要さを学生たちに諭すキーノートセッションを紹介

AAAI-26からサイエンスコミュニケーションの重要さを学生たちに諭すキーノートセッションを紹介する。

松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

6:01

人工知能の国際会議、AAAI-26の2日目に行われたInvited Talk、「Fundamental physics and science communication」と題されたセッションを紹介する。プレゼンターはカリフォルニア大学アーバイン校のDaniel Whiteson教授だ。タイトルは「物理の原理とサイエンスコミュニケーション」という意味だが、実際には機械学習によって物理の原理を解明した事例を紹介した部分と、サイエンスコミュニケーションが必要なことを学生に訴える部分に分かれている。AAAI-26の参加者が機械学習については熟知していることを考えると、後半のサイエンスコミュニケーションが最も伝えたい内容だったのではないだろうか。

カリフォルニア大学アーバイン校の教授、Daniel Whiteson氏

カリフォルニア大学アーバイン校の教授、Daniel Whiteson氏

機械学習で物理の原理を見つけることが主題のように見えるが実際は…

機械学習で物理の原理を見つけることが主題のように見えるが実際は…

Whiteson氏は人間が持つ素朴な疑問を提示して、それがどのように解明されていくのか? を科学、物理の立場から説明した。

大きくて素朴な疑問を提示してそこから物理の原理が求められている経緯を説明

大きくて素朴な疑問を提示してそこから物理の原理が求められている経緯を説明

こでは上から4つ目の疑問、「我々を含む宇宙は何でできているのか?」を例にして解説を進めた。宇宙は何でできているのか? についてはまず目の前の物が何でできているのか? を見つけるところから始まると説明。そのためには壊すことが必要だとして使ったイラストが次の写真だ。

原始人が石を砕くイラストを使って「これが素粒子衝突器の始まり」と説明

原始人が石を砕くイラストを使って「これが素粒子衝突器の始まり」と説明

原始人のイラストで描かれた「石を砕く」動作を素粒子物理学的な用語(Particle Collider)を用いて表現し、ここからCERNの大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider)に始まる物理の原理究明に繋がるエピソードを解説した。

「宇宙は何でできてるのか?」について約70%は解明されていないと説明

「宇宙は何でできてるのか?」について約70%は解明されていないと説明

このスライドでは宇宙の5%は解明されており、27%はダークマターと称される物質であるとわかっているが、残りの68%はそれが何であるのか? 想像がついていないと説明した。

象の尻尾だけを触って「それが尻尾であることがわかった段階」でしかない

象の尻尾だけを触って「それが尻尾であることがわかった段階」でしかない

宇宙は何でできているのか? を解明するためにはいろいろな物質を解いてみることが必要だと説明。

「宇宙のほとんどの部分が何でできているのか?」がわかっていない

「宇宙のほとんどの部分が何でできているのか?」がわかっていない

その例として挙げたのがCERNの大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider)だ。ジュネーブ郊外に建設された大型の素粒子物理のための実験装置である。

CERNの大型ハドロン衝突型加速器を使って「宇宙が何でできているのか?」を知る

CERNの大型ハドロン衝突型加速器を使って「宇宙が何でできているのか?」を知る

そして素粒子物理学において機械学習が必要な理由を、ここからかなりの時間を使って解説した。

ユニコーンを発見することと同じぐらいに稀にしか起こらないことを見つけるための機械学習

ユニコーンを発見することと同じぐらいに稀にしか起こらないことを見つけるための機械学習

新しい素粒子や原理を見つけるために機械学習を使い、取得されたデータから予測するという方法でのみ見付けられると説明した。

「データから似ているものを解明できるなら機械学習は不要だ」と逆説的に解説

「データから似ているものを解明できるなら機械学習は不要だ」と逆説的に解説

コンピュータ資源を無限に利用して無限のシミュレーションを実行し、統計的にすべての現象を説明できるのであれば機械学習は不要という逆説を使って「だからこそ機械学習は必要」であることを説明した。

機械学習の必要性を訴求

機械学習の必要性を訴求

しかし現実の実験の場において資源は無限ではなく、すべてのデータを相関させることもできない、だからこそデータを追跡してモデル化する機械学習、そしてニューラルネットワークが必要だと説明。

ユニコーンを見付けるためのデータは存在すると想定できるが、誰も見付けられていない

ユニコーンを見付けるためのデータは存在すると想定できるが、誰も見付けられていない

そこでデータを追跡する手法としてグラフニューラルネットワークを使ったExa TrkXを紹介。これは高エネルギー物理学の実験としてアメリカのエネルギー省が推進しているLHCで観測される素粒子が飛行する軌跡の解析にグラフニューラルネットワークを使った研究である。

●参考:https://exatrkx.github.io/

機械学習を使った素粒子の軌跡を解明するExa TrkXを紹介

機械学習を使った素粒子の軌跡を解明するExa TrkXを紹介

ここでExa TrkXを簡単に紹介。

Exa TrkXの学習プロセスを紹介

Exa TrkXの学習プロセスを紹介

さまざまな粒子の飛行軌跡を紹介し、それを理論化する苦労などを解説したうえで前半のまとめとして機械学習による軌跡解析は柔軟であり、新しい発見を行うことが可能となったと説明した。

「宇宙は何でできているのか?」という疑問には機械学習によるアプローチが有効

「宇宙は何でできているのか?」という疑問には機械学習によるアプローチが有効

そしてWhiteson氏が最も伝えたかったと思わしき「サイエンスコミュニケーション」についての内容に移った。

どうしてサイエンスコミュニケーションが重要なのか?

どうしてサイエンスコミュニケーションが重要なのか?

ここではリンカーン大統領の像を背景にして民主主義の原則を説いたゲティスバーグ宣言の一文、「Government of the people, by the people, for the people」を使って、サイエンスはすべての人のために行われるべきであることを説明。

科学を伝える努力についてはさまざまなアプローチが行われてきたと説明し、ここではCERNの大型ハドロン衝突型加速器のFAQのマンガを紹介。このFAQでは中核的なことは何も伝えられておらず、ある意味説明を放棄した例として使われていた。

CERNのLHCに関するFAQをマンガで表現したものを紹介

CERNのLHCに関するFAQをマンガで表現したものを紹介

また自身が共著した科学の解説本、「僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない この世で一番おもしろい宇宙入門」からヒッグス粒子のページのイラストの一部を引用して紹介。

ヒッグス粒子の解説イラストを紹介

ヒッグス粒子の解説イラストを紹介

またサイエンスや数学、歴史に関係するトピックを、ジョークを交えてイラストで表現するxkcdも紹介。Whiteson氏の中ではxkcdもサイエンスコミュニケーションの実装例であるということだろう。

イラストにジョークを交えてさまざまなトピックを紹介するサイト、xkcdを紹介

イラストにジョークを交えてさまざまなトピックを紹介するサイト、xkcdを紹介

オープンソース関連のコミュニティやカンファレンスに参加しているエンジニアであれば、一度は以下のイラストを眼にしたことがあるだろう。

依存関係を解説するイラスト。一番脆弱な部分が無名のエンジニアによって維持されている

依存関係を解説するイラスト。一番脆弱な部分が無名のエンジニアによって維持されている

●参考:Dependency

そして「どうしてサイエンスコミュニケーションが必要なのか?」というこのパートの疑問について解説を始めた。

どうしてサイエンスコミュニケーションが必要なのか?

どうしてサイエンスコミュニケーションが必要なのか?

それを示すためにWhiteson氏のPodcastを毎日聴いていた12歳の少女が書いたメールを紹介。その少女は「教授のPodcastで興味を持った素粒子物理学についてどの大学を選べばいいのか?」と質問するメールを書いた5年後に、Whiteson氏が教授を務めるカリフォルニア大学アーバイン校に入学することを知らせるメールが届いたことを見せて、科学に対する素朴な疑問に答えるというコミュニケーションが結果的に一人の研究者を育てることに繋がったからだと説明した。

2019年のメールと2024年のメールを紹介して科学の疑問に答え続けることの意味を紹介

2019年のメールと2024年のメールを紹介して科学の疑問に答え続けることの意味を紹介

参加者である多くの学生たちは自らが人工知能の研究をするに至った過去を振り返るとともに、後に続く未来の研究者のために疑問を持ち続けること、それを伝える努力を怠らないことを再認識したのではないか。

メールを書いた少女がカリフォルニア大学アーバイン校に入学したことを伝える写真を紹介

メールを書いた少女がカリフォルニア大学アーバイン校に入学したことを伝える写真を紹介

2通のメールを紹介したスライドと写真を使った最後のスライドのために、今までの説明があったのではないかと思わせるような感動的なセッションとなった。

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