人工知能の国際会議、AAAI-26の2日目に行われたInvited Talk、「Fundamental physics and science communication」と題されたセッションを紹介する。プレゼンターはカリフォルニア大学アーバイン校のDaniel Whiteson教授だ。タイトルは「物理の原理とサイエンスコミュニケーション」という意味だが、実際には機械学習によって物理の原理を解明した事例を紹介した部分と、サイエンスコミュニケーションが必要なことを学生に訴える部分に分かれている。AAAI-26の参加者が機械学習については熟知していることを考えると、後半のサイエンスコミュニケーションが最も伝えたい内容だったのではないだろうか。
Whiteson氏は人間が持つ素朴な疑問を提示して、それがどのように解明されていくのか? を科学、物理の立場から説明した。
こでは上から4つ目の疑問、「我々を含む宇宙は何でできているのか?」を例にして解説を進めた。宇宙は何でできているのか? についてはまず目の前の物が何でできているのか? を見つけるところから始まると説明。そのためには壊すことが必要だとして使ったイラストが次の写真だ。
原始人のイラストで描かれた「石を砕く」動作を素粒子物理学的な用語(Particle Collider)を用いて表現し、ここからCERNの大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider)に始まる物理の原理究明に繋がるエピソードを解説した。
このスライドでは宇宙の5%は解明されており、27%はダークマターと称される物質であるとわかっているが、残りの68%はそれが何であるのか? 想像がついていないと説明した。
宇宙は何でできているのか? を解明するためにはいろいろな物質を解いてみることが必要だと説明。
その例として挙げたのがCERNの大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider)だ。ジュネーブ郊外に建設された大型の素粒子物理のための実験装置である。
そして素粒子物理学において機械学習が必要な理由を、ここからかなりの時間を使って解説した。
新しい素粒子や原理を見つけるために機械学習を使い、取得されたデータから予測するという方法でのみ見付けられると説明した。
コンピュータ資源を無限に利用して無限のシミュレーションを実行し、統計的にすべての現象を説明できるのであれば機械学習は不要という逆説を使って「だからこそ機械学習は必要」であることを説明した。
しかし現実の実験の場において資源は無限ではなく、すべてのデータを相関させることもできない、だからこそデータを追跡してモデル化する機械学習、そしてニューラルネットワークが必要だと説明。
そこでデータを追跡する手法としてグラフニューラルネットワークを使ったExa TrkXを紹介。これは高エネルギー物理学の実験としてアメリカのエネルギー省が推進しているLHCで観測される素粒子が飛行する軌跡の解析にグラフニューラルネットワークを使った研究である。
●参考:https://exatrkx.github.io/
ここでExa TrkXを簡単に紹介。
さまざまな粒子の飛行軌跡を紹介し、それを理論化する苦労などを解説したうえで前半のまとめとして機械学習による軌跡解析は柔軟であり、新しい発見を行うことが可能となったと説明した。
そしてWhiteson氏が最も伝えたかったと思わしき「サイエンスコミュニケーション」についての内容に移った。
ここではリンカーン大統領の像を背景にして民主主義の原則を説いたゲティスバーグ宣言の一文、「Government of the people, by the people, for the people」を使って、サイエンスはすべての人のために行われるべきであることを説明。
科学を伝える努力についてはさまざまなアプローチが行われてきたと説明し、ここではCERNの大型ハドロン衝突型加速器のFAQのマンガを紹介。このFAQでは中核的なことは何も伝えられておらず、ある意味説明を放棄した例として使われていた。
また自身が共著した科学の解説本、「僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない この世で一番おもしろい宇宙入門」からヒッグス粒子のページのイラストの一部を引用して紹介。
またサイエンスや数学、歴史に関係するトピックを、ジョークを交えてイラストで表現するxkcdも紹介。Whiteson氏の中ではxkcdもサイエンスコミュニケーションの実装例であるということだろう。
オープンソース関連のコミュニティやカンファレンスに参加しているエンジニアであれば、一度は以下のイラストを眼にしたことがあるだろう。
●参考:Dependency
そして「どうしてサイエンスコミュニケーションが必要なのか?」というこのパートの疑問について解説を始めた。
それを示すためにWhiteson氏のPodcastを毎日聴いていた12歳の少女が書いたメールを紹介。その少女は「教授のPodcastで興味を持った素粒子物理学についてどの大学を選べばいいのか?」と質問するメールを書いた5年後に、Whiteson氏が教授を務めるカリフォルニア大学アーバイン校に入学することを知らせるメールが届いたことを見せて、科学に対する素朴な疑問に答えるというコミュニケーションが結果的に一人の研究者を育てることに繋がったからだと説明した。
参加者である多くの学生たちは自らが人工知能の研究をするに至った過去を振り返るとともに、後に続く未来の研究者のために疑問を持ち続けること、それを伝える努力を怠らないことを再認識したのではないか。
2通のメールを紹介したスライドと写真を使った最後のスライドのために、今までの説明があったのではないかと思わせるような感動的なセッションとなった。

