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| 決定的勝者の不在 | ||||||||||||||||
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実は技術面において、Ajaxの世界には特異的な状況が存在する。 それは、ユーザをプラットフォームに囲い込むことができないという宿命的な制約である。 従来の多くのライバル関係において、ユーザの獲得は囲い込みの同義語であった。上記の例でいえばPC-8001用のソフトウェアは、MZ-80Kでは使用できないし、Windows用のソフトウェアはMac OSでは使用できない。加えて、利用ノウハウやソフトウェア資産の蓄積がユーザ側で行われてしまえば、もはや乗り換えは容易なことではなくなる。 それゆえに「ともかくユーザを掴んでしまえば勝ち」という状況があり得たのだ。このため、より多くのユーザに振り向いてもらうために、ライバルが提供するサービスや機能と同等のものをすべて提供するという戦略は有効性を持つ。 例えば、どれほど実用性のないオモチャのような機能であっても、それに魅力を感じて製品選択の理由にするユーザがいる限り、それを提供する価値が存在する。 しかし、Ajaxの世界は決定的に違っている。 なぜなら、Ajaxとは「すでにユーザが使っているWebブラウザ」をプラットフォームにして動作する技術だからである。 例えばあるユーザがGoogle Mapsを愛用しているケースを考えてみよう。しかし、これはユーザをGoogle Mapsというサービスに囲い込んだことにはならない。同じWebブラウザを使って、即座にYahoo!地図情報やMicrosoftのVirtual Earthを利用することができるのである。そちらの方が便利だと思えば、そのまま乗り替えられてしまうかもしれない。 かといって、プラットフォームを制限することで囲い込むという戦略は、潜在的な顧客の数を制限することになるだけで、得策とはいえない。MicrosoftはInternet Explorerを開発提供しているが、それによってAjax戦略上有利な立場にあるとはいえないからだ。自社サービスにより多くのユーザを獲得したいと思うなら、他のWebブラウザにも対応しなければならない。 一方、Firefoxは実質的にGoogleのWebブラウザという側面を持つが、だからといってGoogleがFirefox専用のサービスを行うという話は聞こえない。より多くの利用者を獲得するには、常に主要なWebブラウザであるInterne Explorer、Firefox、Operaなどを対象としていなければならないのである。 このことは、技術的な意味で、ユーザが常にライバルサービスに乗り替えることを抑止できないことを意味する。つまり、Ajaxの世界には決定的勝者があり得ないことが宿命づけられているのだ。 これは決定的勝者があり得る他の分野とは大きく異なる。Windows対Mac OSの勝負であれば、片方が圧倒的なシェアを取った時点で決定的な勝敗が付いたといえる。シェアの多いOS向けに、より多くのソフトウェアがより安価に流れ込むからだ。特に他に要因がない限り、OS選択のこだわりのないユーザは、シェアの多いOSの方に流れ込む。これによって、シェアの差は拡大し続けることになる。 しかし、Ajaxの世界では、より優れたライバルサービスが出現した場合、ほとんどクリック1回の手間でそのサービスにユーザが移行する事態もあり得る。どれほど圧倒的な支持を得たサービスであっても、一瞬でユーザが去っていくリスクを持つのである。 その結果として現在進行しているのは、プラットフォームではなくユーザデータの囲い込みである。例えば、Googleの電子メールサービスである「GMail」は数GBに達する膨大な記憶領域を提供し、ユーザの電子メールをそこに保管させ、便利な検索機能を提供している。このような構造は、実はユーザを囲い込み、ライバルサービスに移行させないという効能を持つ。 ライバルサービスに乗り替えても、ライバルサーバには過去に受信した電子メールがないため、検索対象にできないからである。このような囲い込み戦略は、もはや技術の問題ではない。アイデア次第で、いくらでも囲い込みの方法が登場してくるだろう。 一方で、保存すべきユーザデータがほとんど無いようなサービスでは、囲い込みが難しいことが考えられる。単純により多くの予算を投入して完成度の高いサービスを提供した者が勝つ、つまり資金力勝負になるといったことも予想できる。 そういう意味では「Ajaxとは資金力の大きな大企業が有利であり、個人や中小企業が勝負を仕掛けるには向かない分野である」という側面を持っている可能性すらある。 |
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