AI CRUNCH 9

焦りは禁物?「特化」の前に「汎用」を。エクサウィザーズが語る東海製造業における生成AI成功の秘訣

AI CRUNCHでは生成AIを活用している人が注目している「生成AIのすごい企業」を調査し、その「すごさ」の秘密を分かりやすく発信して行きます!

田中 悠介

6:30

本連載「AI CRUNCH」は「生成AIを活用している専門家が注目する『すごい企業』を調査し、その秘密を分かりやすく発信する」をコンセプトに掲げています。

今回、私たちが強い関心を持ってスポットライトを当てるのが「東海エリアの製造業」です。この地域は日本のモノづくりを牽引する絶対的な中心地であり、自動車産業を筆頭に強固で緻密なサプライチェーンを築き上げています。この独自のネットワークを持つ東海エリアでAI活用が「面」として定着すれば、日本の産業全体の競争力を劇的に底上げする起爆剤になります。

今回は、そんな東海エリアの製造業を中心にAI活用の強力な支援を行う株式会社エクサウィザーズの原田氏と鵜飼氏にインタビューを実施。現場のリアルな声と、成功するためのセオリーについて伺いました。

明暗を分ける「2つのアプローチ」:成功企業と停滞企業の違い

製造業での生成AI導入において、企業はどのような課題に直面しているのでしょうか。この点について伺うと、鵜飼氏からは「多くの企業が『自社の独自データを使った高度な特化型AIを作りたい』『すぐに劇的な業務削減のインパクトを出したい』と焦ってしまっている」という実態が語られました。

日本のモノづくりは投資に対してシビアにROI(費用対効果)を求めるため、その結果として「意欲のある一部の人や専門部署だけにアカウントを渡す」という限定的な配備が起きがちだと言います。これに対し原田氏も、「そのアプローチだと使う人と使わない人の分断を生み、組織全体でのインパクトがどうしても小さくなってしまう」と警鐘を鳴らします。

早く成果を出そうとする焦りが、逆に活用を停滞させてしまう。お2人のお話から見えてきた、「うまく進んでいる企業」と「進んでいない企業」の決定的な違いを比較してみましょう。

比較項目AI活用が進んでいない企業(停滞)AI活用がうまく進んでいる企業(成功)
導入の目的すぐに劇的な業務削減・コストカットを実現したいまずは組織全体でAIを使いこなす「土台(リテラシー)」を作りたい
対象者意欲のある一部の社員や、特定の専門部署に「限定配備」全社員がアクセスできる環境を整え、汎用業務から触れさせる
時間軸短期的なROI(費用対効果)をシビアに求める「最初の1年」はユースケースの検証期間と割り切る
アプローチいきなり自社固有の高度な「業務特化型AI」を目指すまずは図面検索など、AIが得意な領域から着実に成功体験を積む
知見の扱い自社内、あるいは特定の部署内だけでノウハウを抱え込むユーザー会やグループ企業間で、失敗も含めてオープンに情報共有する

人とAIの役割は「0か100か」ではなくグラデーション

では、限定配備ではなくどう進めるべきなのか。この疑問に対し、両氏は「全社員が汎用的な業務をAIに任せるというベースライン(リテラシー)を築くこと」の重要性を強調します。

鵜飼氏によれば、AIが完全に人間の代わりになる業務は全体の約1.9%程度しかないとのこと。

「AIか人間か」の0か100かではなく、「ここはAIに任せられる」「ここは人間が判断する」という業務のグラデーションを見極めることが重要なのです。各部署が日常的にAIをアシスタントとして使いこなせるようになれば、その小さな効率化が全社規模で合わさり、計り知れないインパクトを生み出します。

豊田合成に学ぶ、「検証」に1年を費やす勇気

実際にAI活用がうまく進んでいる先進企業のアプローチについて質問すると、成功事例として豊田合成株式会社をはじめとするトヨタ関係の企業群が挙げられました。

彼らは導入初期に「どれだけの時間を削減できたか」を前のめりに追い求めず、代わりに「今年1年は、組織で活用できるユースケースを作る期間」として明確に割り切ったと言います。

たとえば、「過去の膨大な図面データから必要な情報を探し出す」といったAIが得意な領域(RAG:検索拡張生成)から検証し、確実な成功体験を積んでいく。エクサウィザーズのお2人は、この「急がば回れ」の姿勢こそが、後々の爆発的な活用の広がりを生み出していると分析しています。

経営層と現場の両輪を回す「黄金のステップ」

さらに、現場での検証を進める上で組織づくりにおける重要なポイントを伺うと、原田氏から「まずは現場に広くツールを普及させてユースケースの創出を目指しつつ、それを組織全体で支える育成の仕組みを並行して整えること」の重要性が示されました。

エクサウィザーズは、単にツールを提供して終わりにするのではなく、人材育成や階層別研修を通じて組織への定着をトータルでサポートできる点が、生成AI導入のパートナーとして選ばれる大きな強みです。成功組織に共通するステップとして、以下のような支援を行っています。

  1. 現場でのユースケース創出:現場の社員が実際にツールに触れ、主体的にアイデアを出す環境をまずは作る。
  2. 部長層への研修:ミドル層が、現場から上がってきたトライ&エラーを適切に後押しする体制を整える。
  3. 役員研修の実施:経営層がAIの限界と可能性を理解し、短期的なROIだけで現場の挑戦を潰さない土壌を作る。

まず現場が動くための土台を作りながら、その挑戦を経営層やミドル層が正しく評価・支援できるよう研修でバックアップしていく。この「現場の普及」と「組織の育成」を両輪で伴走するステップこそが、活用の黄金律となっているとのことです。

共創でリテラシーを高める「東海エリア」の巨大な可能性

これらのお話は、冒頭で触れた「東海エリアの可能性」とも深く繋がってきます。エクサウィザーズが支援する中で特に可能性を感じているのが、東海エリア特有の「繋がり」です。単独の企業が孤軍奮闘するのではなく、豊田合成のような先進企業が1年かけて得た成功事例やノウハウが、ユーザー会やグループ間ネットワークを通じてエリア内の関連企業へ一気に波及していく素地があります。

トップランナーの知見が共有されることで、サプライチェーン全体で面としてAIリテラシーを底上げできる力を持っている。この「共創の文化」こそが、東海エリアの最大の強みであると両氏は語ります。

まとめ:AI導入は「点」ではなく「面」で進める

今回のインタビューを通じて見えてきたのは、製造業におけるAI活用は「一部の専門家による魔法のツール(点)」ではなく、「全社員が基礎的な業務を任せるためのインフラ(面)」として定着させるプロセスが不可欠だということです。

「早く成果を出したい」という気持ちをグッとこらえ、まずは汎用的な活用で全社のリテラシーの土壌を作る。前回の名鉄グループの事例とも深く通じますが、AIをどう使うか以前に、「どう組織に根付かせるか」という地道なステップを踏むことこそが最短ルートと言えるでしょう。

ビジョン:エクサウィザーズが見据える「人とAIの協働」がもたらす真のインパクト

最後に、エクサウィザーズが見据えるこれからのビジョンについて伺いました。鵜飼氏が語ったのは、「AIに任せられる領域を全社で見極めきった先にある、圧倒的な生産性向上」です。全社員が業務のグラデーションを把握し、日常的にAIをアシスタントとして使いこなすことで、その小さな効率化が掛け算となって組織全体に波及します。

さらに原田氏は、この変革が1つの企業内に留まらないことを示唆します。情報共有の文化が根付く東海エリアのサプライチェーン全体へと広がっていけば、日本のモノづくりの現場において、熟練者の知見とAIの力がシームレスに融合します。「焦らず、まずは全社でAIに任せる土台を作る」。両氏が提唱するそのステップの先には、次世代の強固な産業競争力を生み出す新しい製造業の未来が広がっていると確信させられました。

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