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SLAによるITマネジメントのあり方
第6回:SLMの目指すべき姿
著者:
アイ・ティ・アール 金谷 敏尊
2007/5/11
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進化するSLM
本連載の最終回では、今一度ユーザ視点に立ち返ってSLMへの考察を加えたい。今回は、SLA/SLMは今後どのように進化するのか、またIT部門はそれに対してどのような準備をすれば良いのかといった点を解説しよう。近未来の話であるため、現実解というよりは理想論に感じられるかも知れないが、今後のSLMの方向性を見定めるうえでの一助となれば幸いである。
管理体制が成熟するにつれSLMもまた進化する。それまでハードウェアの可用性管理のみを実施していたものを
アプリケーションごとの可用性やレスポンスタイムも測定するように改善すること
は、1つの例といえるだろう。
また提供するITサービスのサービスレベルの良し悪しは、原則として投下コストに依存する。サービスレベルの維持に必要な費用を回収するために公平性のある課金体系を整備することも、SLMの成熟とともに求められる要件となる。
SLM全体の進化は大きく3つの段階で捉えることができる(図1)。
図1:SLMの進化
出典:ITR
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)
第1段階はITの運用効率に焦点を当てたもので、安定的なITサービスの提供のためにIT部門内部で管理すべき項目が多く含まれる。次の段階として、ITと業務のバランスに焦点を置き、ユーザ満足度の向上を目指すものへと進化させていくことが求められる。最終的には収益貢献や業務コストの圧縮、最終顧客の満足度向上など業績への貢献を約束する内容へと進化させることが望まれる。
業務やビジネスを代替するIT
これまでのITサービスの枠にとらわれず、業務やビジネスを見据えたSLMのスコープの拡張が求められていることは、感覚的にも理解できると思う。ITはこれまでビジネスプロセスの一部を効率的に代替する手段の1つであった。マーケティング部門を例にとれば、商圏分析や売れ筋商品の検索を行うのに膨大なデータを眺めて手動でやることは非効率な作業であり、機械に任せた方がミスも少ないはずだ。
このようにして、急速にビジネスプロセスがITに置き換えられた結果、今では
ビジネスプロセスそのものをIT化する
事業領域も多く存在する。
例えばネット証券のWebサイトで株式の注文受付は、オンライン処理で自動化されている。このように人手の介在がなければ、情報処理そのものがビジネスプロセスとなるため、業務レベルでのSLAを提供することが可能となる。
一例をあげると、国内のインターネット専業の証券会社であるカブドットコム証券ではこの種のSLAを利用者に提供しており、ディスクロージャ方針に基づいてシステム性能評価など様々な有益な情報を公開している。
目指すべきBSM
米国では、すでにビジネス視点でのITサービスマネジメントが不可欠であるという認識が急速に高まってきている。これを表現するのに「BSM(Business Service Management)」という新出のキーワードが用いられる。BSMは国内ではまだ聞き慣れない言葉だが、米国ではすでにバズワード(明確な定義のない流行語)の域を脱したといわれる。
BSMの意味合いとしては「エンドツーエンドの管理を行うためにビジネスプロセスとそれをサポートするITの構成要素を紐付ける仕組み」を指す。つまりビジネスサービスの品質を評価・管理する運用基盤のことだ。しかし、このBSMを確立するためには、様々な環境整備が必要であり、道のりが険しいことは多くの読者が想像される通りだ。
BSMを実行する目的には、事業部門のユーザにとってITが業務に貢献していると判断する際の評価基準は何かを把握することと、その評価基準や関連するビジネスサービスをITサービスの構成要素と紐付けることの2点があげられる。
端的にいえば、BSMではSLMに見られる「可用性」「問題解決率」「レスポンスタイム」などの評価項目だけではなく、「業務プロセスのリードタイム」「業務トランザクションの量」「サービスの提供状態」などのビジネスサービスの品質について評価・報告することが求められる。このためには、当然のことながら、関係するITインフラを事前に整理・把握しておかなければならない。
BSMを実現するには、ソフトウェアによる運用自動化はもちろんのこと、業務プロセスの方針や意図を的確に具現化するためのシステム改善や、時にはIT部門の再編までもが必要となろう。BSMを目指す企業は自社の現状を把握したうえで、段階的にITインフラを整備することが求められる。
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著者プロフィール
株式会社アイ・ティ・アール
金谷 敏尊
シニア・アナリスト
青山学院大学を卒業後、マーケティング会社の統括マネージャとして調査プロジェクトを多数企画・運営。同時にオペレーションセンターの顧客管理システム、CTIなどの設計・開発・運用に従事する。1999年にアイ・ティ・アールに入社、アナリストとしてシステム・マネジメント、データセンター、アウトソーシング、セキュリティ分野の分析を担当する。著書「IT内部統制実践構築法」ソフトリサーチセンター刊。
INDEX
第6回:SLMの目指すべき姿
進化するSLM
BSMのロードマップ
管理ツールの将来像