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スケジュールとコストに関する指標が一目瞭然にわかるEVM
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第5回:プロジェクト遅延を取り戻す方法
著者:プライド   三好 克典   2006/5/9
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EVM指標値に対応するメッセージ発信

   仮に自分が受注者側のプロジェクトマネージャーだとしたら、EVM指標値を見て関係者にどのように報告するか(させるか)考えて欲しい。今回はEVMがアラームをあげる場合に加え、自分の直感としてOKなのかNGなのかを含めて論じることとする。

   表1はEVM指標値と自分の直感および報告対象(受ける側も含めて)をパターン化したものである。なおここではスコープ定義に曖昧な部分があり、発注者側はスコープを拡大(仕様追加)したいと考えているケースを想定した(スコープの拡大があること自体が問題であるが、実際の現場では見受けられるので、あえて想定を組み込んだ)。
表1:EVM指標値とメッセージ
表1:EVM指標値とメッセージ
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   EVM指標値と自分の直感がともに「OK」の場合(A、B)、ともに「NG」の場合(H、I)のメッセージ内容については異論の余地はないだろう。あえて補足事項を加えるならば、ともに「NG」の場合、可能であれば発注者側にスコープの見直し(縮小)を依頼することが検討材料であることだろう。

   よく考えなくてはならない時は、EVM指標値と自分の直感が異なる場合である。それではEVM指標値が「OK」であるのに対して、自分の直感が「NG」である場合はどのようなケースが考えられるだろうか。

   例えばクリティカル・パス(注1)上の根幹となる作業が遅れているにも関わらず、枝葉に当たる部分が予定以上に進んでいる場合がそのケースとして考えられる。全部を足し算すると指標値としてEVM指標値が「OK」になるのだが、根幹作業が遅れていることは問題であるし、枝葉の部分が根幹の影響を受けて手戻りになる可能性がある。この場合は直感的に危険だと感じれるのだろう。

※注1:クリティカル・パス
「アクティビティに順序を設定してスケジュールが具体化される」と前回記述したが、通常は並行して複数のアクティビティを実施するようにスケジュール化する。アクティビティはそれぞれ関係を持つので、複数の経路ができ上がることになる。その経路の中でも工期に直接影響を与える(余裕のない)経路のことをクリティカル・パスと呼ぶ。

   このように、直感とはいえ「NG」と考えることには何らかの根拠があるはずであり、問題となっている部分を明確にする必要がある。このケースでは全体を合計した(丸められた)グラフだけではなく、問題となっている部分を理解してもらうため、チーム別に集計した指標を併用するなどの工夫が必要である。

   逆にEVM指標値が「NG」であるのに対し、自分の直感が「OK」である場合はどのようなケースが考えられるだろうか。

   第3回「導出データの推移からつかめる傾向」で解説したパターンのように、SPI(スケジュール指標)、CPI(コスト指標)ともに1.0に達していなかったとしても十分挽回できる見込みがあるケースがあげられる。また出来高計上方法が0%−100%のように極端であれば、集計タイミングによってはEVM指標値が悪く表現されることも十分あり得る。

   この場合、まずは問題がないこと(自分の直感が正しいこと)を明確にすることが必要である。外注からの報告(EVM指標値)が「NG」の場合は、「NG」である理由を報告させ、理由が集計のタイミングなどであり問題はないことを確認する。自分の直感が正しいことが確認できたら、社内的には上司に承認してもらえばよいだろう。では、発注者側への報告はどうすべきだろうか。

   想定した状況を考えると、EVM指標値を材料に「これ以上のスコープ拡大は困難である」と牽制しておきたくなるのが心情ではないだろうか。ただし、「発注者側に過度の不安材料を与えるとプロジェクトの運営が難しくなる」ということは覚えておきたい。不安になった発注者側は詳細な報告を要求するので、資料作成などに必要以上の時間を費やすこともあり得る。そのため「これ以上のスコープ拡大は困難である」と牽制しつつ、今後の見通しとして指標の回復は可能であることを詳しく説明しておいた方がよいだろう。

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株式会社プライド 三好 克典
著者プロフィール
株式会社プライド   三好 克典
前職にてプロジェクト管理や標準化が非常に重要であると考え、技術習得及び実践の場を求めてプライドに入社。現在、システム開発方法論「プライド」を軸に、プロジェクト管理、標準化、情報資源管理の支援に携わっている。

INDEX
第5回:プロジェクト遅延を取り戻す方法
EVM指標値に対応するメッセージ発信
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