OpenStackからの移行を明確に宣言したRed Hat OpenShift Virtualization
Red Hatが毎年開催している年次イベント「Red Hat Summit」、コロナウイルスの影響でリアルイベントの開催が困難となっている今年は、オンラインイベントとして開催された。メディア向けのブリーフィングもオンライン会議の形式で行われた。
今回は、その中からOpenShiftに関する情報を解説したい。OpenShiftはRed Hatが手がけるコンテナプラットフォームで、Kubernetesの商用ディストリビューションとしては最も成功していると言えるだろう。2018年にIBMに買収されたRed Hatだが、CEOであったJim Whitehurst氏がIBMのPresidentとして昇格したことに伴い、ベテランのPaul Cormier氏が新CEOに任命されたことが大きなニュースとなった。Cormier氏はこれまで製品やテクノロジー、買収などの多くの重大な判断に関わってきており、2001年にRed Hatに入社した際の社員番号は100番台だったというほどの生え抜きのベテランである。これまでのRed Hatの成長を支えてきたハードコアな技術サイドの人物と言えるだろう。
今回のWeb会議によるメディア向けブリーフィングは合計で4時間以上もあるもので、多くの内容を含んでいる。その中から、OpenShiftに関する発表とコロナウイルスによる社会事情の変化に素早く対応したものをピックアップして紹介したい。
新型コロナウイルスとどう対峙するか
OpenShiftの詳細に触れる前に、Hicks氏は2つの発表を行った。1つ目は新型コロナウイルスの影響で雇用が大きく揺らいでいるという状況に対して、Red Hatとして新しい施策を行うこと。そして2つ目がこれまで同様に最新の製品情報の提供だ。最新の製品情報の大部分はOpenShiftに関するものであったことからも、Red HatがOpenShiftに寄せる期待の大きさが見てとれる。
このスライドにも書かれているように、新型コロナウイルスの影響で倒産や失業がリアルな危機として表層しており、Red Hatとしてこの状況に素早く対応するという意思表明だ。
特にRed Hatが顧客向けに提供するサービス(これはTechnical Account Managerというコンサルタントによる技術サービス)のコストを、新規ユーザーに対して半額にディスカウント、Red Hat製品のEnd of Life(サポート終了)の延長、休業者及び失業者に対してRed Hat製品のトレーニング(Red Hat Certified System Administrator)を無償で提供、オンラインのトレーニングをすべての受講者に対して無償提供、という内容だ。
メディア向けブリーフィングの最初にこの話題を持ってくるというのは、Red Hatがいかに社会の状況を注視しているのかを示しており、特にアメリカが本当に非常事態と言える状態であることをひしひしと感じさせられた。
製品情報のアップデート
Hicks氏はその次に製品情報のアップデートに移り、ここからOpenShift関連の最新情報を解説するフェーズとなった。
最初に言及したのはOpenShift Virtualizationだ。これは非常に簡単に言えば、KubeVirtをOpenShiftに取り込んで、コンテナイメージのオーケストレーションに加えて仮想マシンベースのワークロードもKubernetesから管理することを実現するものだ。詳細は以下のブログ記事を参照されたい。
参考:OpenShift virtualization: What's new with virtualization from Red Hat
これはKubernetesだけに注目しているとそれほど大きな影響を持たないように思えるが、これまでOpenStackでインフラストラクチャーを構築してきた通信事業者などにとっては、衝撃的なメッセージだろう。たとえば日本では、楽天モバイルがCiscoとNokiaから提供されたOpenStackベースのインフラストラクチャーでモバイルネットワークを実装している。
参考:Open Infrastructure Summit上海、楽天モバイルのフル仮想化ネットワークに注目
CNCFを擁するThe Linux FoundationのネットワークグループのトップであるArpit Joshipura氏は、2018年に筆者が行ったインタビューにおいて「テレコム事業者はOpenStack、それ以外のエンタープライズはKubernetesを優先するべき」という発言をしているので、その流れを知る人には驚きは少ないのかもしれないが、エンタープライズ企業を顧客として抱えるRed Hatが、OpenStackからのマイグレーション先としてOpenShiftを明らかにした意味は大きい。
参考:LFネットワークグループのGM、Arpit Joshipuraが語るエンタープライズの向かう先
ただ、Red Hatも「すぐに移行する必要はない」と言及しているように、エンタープライズに対してはVMwareからの移行を優先したいという気持ちが強いと思われる。その背景には、VMwareが発表したVMware Cloud FoundationおよびTanzuの影響があるのだろう。
しかしブリーフィングのQ&Aにおいて、OpenShiftの責任者であるAshesh Badani氏は明快に「100%Upstreamでオープンなソフトウェアで構成されているOpenShiftと、プロプライエタリなVMwareのソリューションの違いは明確だ。ユーザーは100%の透明性とオープンソースソフトウェアによるコラボレーションを望んでいる」として、OpenShiftのアドバンテージを強く訴えた。
OpenShift 4.4の新機能
OpenShiftそのものについては最新バージョンである4.4の新機能が紹介された。細かなトピックとしては、「IngressにHAProxy2.0が採用されたこと」「ServerlessにKnativeが採用されたこと」などが挙げられるだろう。Windows ServerコンテナがAzure Kubernetes Service上でGAになったことも踏まえて、これまでWindows Serverで稼働していたエンタープライズアプリケーションは、OpenStackをスキップしてKubernetesでオーケストレーションする実装が加速するだろう。MicrosoftとRed Hatが共同で開発したとされるMicrosoft Azure OpenShiftも踏まえて、親会社のIBMよりもMicrosoftとのコラボレーションが上手く進んでいることを印象づけたブリーフィングとなった。
このブリーフィングでは、エンタープライズの選択肢としてのOpenShiftがさらに強化されたという点が強調された。その他にもRed HatはTektonとAnsibleによるCI/CD、API gatewayは3Scale、開発環境(WebIDE)はCodeReady Workspaces、コンテナリポジトリーはQuayと着実に空いているスペースに製品を配置して、ポートフォリオを充実させている。イメージビルドの機能(OpenShift Build)もDeveloper Previewという形で公開された。
まだ製品ポートフォリオ的に足りないのは、Observability(ログ、メトリックス、トレーシング)とセキュリティぐらいだろう。そのうちコンテナのイメージスキャンについては、すでにClairという製品が揃っているが、それ以外はエコシステムとして外部のオープンソースソフトウェアで提供可能であることを考えれば、順調に拡大しているOpenShiftの進化を感じさせたブリーフィングとなった。
OpenShift 4.4の概要:OpenShift 4.4 continues the evolution of the Kubernetes platform
Windows Server ContainerのGAに関しては以下のブログを参照されたい。
参考:Azure Kubernetes Service Support for Windows Server Containers Now Commercially Available
またAzure上のOpenShiftサービス「Microsoft Azure Red Hat OpenShift」に関しては以下のブログを参照されたい。
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