テレワークや分散型の暮らしは「人」と「場」をつなぐ架け橋となる― 「SHARE SUMMIT 2020 ~Co-Society~」レポート
11月16日(月)、日本最大のシェアリングエコノミーの祭典「SHARE SUMMIT 2020 ~Co-Society~」がオンラインで開催された。チケット販売数は3,000枚以上にのぼり、コロナ禍における持続可能な社会創りに人々の関心がより深まっていると推測する。
今世紀最大とも言えるパンデミックで始まった2020年。ポストコロナやテレワーク、シェアリングエコノミー、SDGsなどをテーマに、多種多様なトークセッションが繰り広げられた。
デジタルは人と人をつなぐ担い手
センションの冒頭では、情報通信技術(IT)政策の平井卓也デジタル改革担当大臣による挨拶があった。
これからどのようなニューノーマルな社会を作っていくか、何のためにデジタル化を進めるかが重要であり、台湾のオードリー・タンデジタル担当大臣の言う「ITは機械と機械をつなぐが、デジタルは人と人をつなぐ」とは、まさにシェアリングエコノミーそのもの。アフターコロナの時代、デジタル体制の強い社会を作って行かなくてはならず、適正な分散と集中が、社会全体として問われる時代となった。
「デジタルというつながる技術により、時間と距離が格段に新しい創造的なものに変えられるとき、人々が求めるものは潤いのある人間関係と質の高い生活。「デジタル庁では、北海道から沖縄、どこに住んでいても勤務可能な体制を率先して採用したいと思っている。これまでの霞ヶ関からの組織文化とは一線を画す新しい存在として、デジタル社会を引っ張っていくシンボリックな存在に、デジタル庁をしたい。ぜひ、我こそはと思う方は、デジタル庁に参加し、それぞれの人生に花を咲かせて欲しい」と平井氏は熱く語った。
地方のカギとなるのは
移住者を受け入れるコミュニティ
ここからは、数多く行われたセッションの中から、2つを紹介していく。1つ目は「テレワーク時代のオフィス ~withコロナのオフィス改革~」をテーマにしたセッションだ。
株式会社スペースマーケット 代表取締役社長の重松大輔氏をモデレーターに、サイボウズ株式会社 代表取締役社長の青野慶久氏、WeWork Japan合同会社 最高戦略責任者の高橋正巳氏、東日本電信電話株式会社ビジネスイノベーション本部 地方創生推進部 担当部長の畑中直子氏の3名が登壇した。
以降では、セッションの内容の一部を箇条書きにて紹介する。
オープンで安全と感じる場がリアルでも在宅でも重要
- 畑中:これまでも在宅勤務の制度はあったが、利活用していなかった社員も今回初めて在宅勤務を経験し「会社に行かなくても成果が出せた」と在宅勤務を継続している社員もいる。
- 青野:大抵の会議はリモートで良いが、みんなで集まってアイデアを出す発散型の集中会議では改めてリアルオフィスの重要性に気づくこともあった。人や在宅環境により在宅勤務だからパフォーマンスを出せるとは限らなかった。
- 高橋:スペースの管理側として、消毒やソーシャルディスタンスの確保のため椅子を間引くなど、常に安全面と衛生面に気をつけた。デスクの数を以前の25%に削減し、新たなコラボゾーンを作るなど、オフィスの形も変えている。
- 畑中:コミュニケーションをどうやって取っていくかが一番の課題。テレワークでは雰囲気で察することが難しくなり、些細なことでも言葉にしたり、情報を発信・共有することを心懸け、あえて全員に情報開示するなど、伝達方法も変わったように感じる。
- 青野:社内の取締役会や戦略会議などを誰でも視聴可能可能にしたところ、テーマによっては70~80人になった。今では、全部署の情報をオープンにし始めていて、他部署や経営側のオンライン録画はもちろん、経費も見える化している。SNSは誹謗中傷が良くない。リアルでもバーチャルでも、攻撃されない「オープンで安全」な場ををいかに感じるかが大切。
地方に追い風。移住者を受け入れられるコミュニティが重要
続いてのテーマは、「オフィスは今後どう変わっていくか」だ。
- 畑中:都心にオフィスを構えていた大企業がオフィスを手放したり、社員の自宅近くにサテライトオフィスを設けるなど、今回のウイルス感染もそうだが、BCP(災害時の事業継続計画)の観点でも拠点分散は広がっていくだろう。地方にとっては、企業のサテライトオフィスを誘致できたり新たな雇用を創出するなど、チャンスと捉えている企業の地方組織や自治体を推進していく流れを作っていきたい。
- 青野:11/16現在の出社率は17%。ビデオ会議をするために個室を増やしたり、配信スタジオを作り、営業用のビデオを録画するスタジオを作るなど、これまでとオフィスの使い方が変わってきている。また、都心からの逆流で移住者が増え、日本の歴史上、地方には千載一遇のチャンスが来ている。大事なのは大都市からの移住者を受け入れられるコミニティがあり、排他的に扱われないこと。軽井沢や徳島県神山町など、地域の移住者を受け入れられる能力が地方にも求められる。
- 重松:コロナにより数年かかると思われていたことが、早巻きで現実化したように思う。デジタルファーストにとっては、働き方や世の中の様々な慣習を変えられる大チャンス。家でも会社でもなく、ありとあらゆるサードプレイスで働く選択肢を提供し、今まで時間等に縛られていた子育て世代が、よりフレキシブルに働くことができ、そこから新たな価値が生まれるといい。
- 高橋:これまで共有していなかった情報をオープンにするのは勇気のいることだが、お互いのデスクの散らかり具合が見えるような関係性がオフィスの安全性にもつながっているように、双方向から見えることが重要。
地方の第一歩は
仕事環境の整備と人のコラボレーション
2つ目は「分散型の暮らし方 ~大都市部から地方分散へのパラダイムシフト~」をテーマにしたセッションだ。
株式会社アドレス 代表取締役社長の佐別当隆志氏をファシリテーターに、地方でコロナ以前から地方分散の仕組みを推進している、株式会社カヤック ちいき資本主義事業部 事業部長の中島みき氏、株式会社一平ホールディングス 代表取締役社長の村岡浩司氏、株式会社LIFULL 地方創生推進部 LivingAnywhere Commons事業責任者の小池克典氏の3名が登壇した。
ウェルカムと寛容さが地域活性のカギ
- 中島:弊社の関係人口スコアで1位2位を争っているのは、宮崎県の椎葉村と北海道の下川町。関係人口人気エリアの特徴は、それぞれのコミュニケーションチャンネルに合ったメッセージを発信していること、地域の複数人が関係人口になる相手とのコミュニケーションのハブをしていること。
- 小池:LivingAnywhereでは「ロケーション×ハード×ソフト」という因数分解をしている。ソフトもなく建物が古くても渋谷のど真ん中なら人が集まるように、ローカルな場所でも設備の整ったソフトや建物が魅力であれば人は集まると考えている。中でも「ソフト」が一番重要で、地域の人が主人公になっているところに人は集まる。地域のウェルカム感と寛容であるかが肝と言える。コロナで場所を問わずに働けるとなると、そこでしか得られないものを得られる場所は人気になっている。
- 村岡:九州の人口は1,300万人。ものづくりにおいて品種の多様性も大きく、掛け算やテストマーケティングがしやすい。九州の豊かさをひとつに凝縮した商品やサービスを楽しんでもらうターゲットに国内外の垣根はない。限られたリソースを奪い合うことは、もはや続かないと思っている。製造業も作れば売れる時代はもう終わっていて、利益を削りながらの経営はサステナブルではない。独自分野ともうひとつの分野・パーツを広域で組み、世界に通用する新しいマーケットに出るという、両軸で回していくのが大事だと思っている。
地域とのコラボに無限の可能性
続いてのテーマは、「地方のワークとコラボレーション」だ。
- 小池:緊急事態宣言の前から比べると5倍ほど利用人数が増え、法人の利用も増えている。労災や社内情報の流出等を危惧し、テレワークは自宅でという会社が多かったが、「多様な人に触れ、その価値を社内に還元する」とし、弊社も勤務地として認める政策へ変えた。会社のテレワークが解禁になり、利用者数は8割ほど個人から法人へ移行している。
- 村岡:ワーケーションという形で問い合わせがすごく増えているが、市や県のワーケーションの担当ブースはまだなく、今は担当者ベースで動いている。宮崎に来て1週間から1ヶ月の長期滞在となると仕事環境も必要になってくる。今、私がいる場所も自分で買った空き家をリノベーションし、サブスクリプションで使えるスペースとしてシェアするなど、仕事の環境整備に取り組んでいる。地方でもAとBをしっかりつなげるイノベーションが偶発的に起こりやすい出会いをデザインできるかが重要。
- 小池:ワーケーションよりも「ワーク+コラボレーション」。ツアー参加者同士や地域とコラボし、足を運ぶ先で一緒に作っていく流れになるとワーケーションは進化するだろう。下田のLivingAnywhereでは、20代の女性が起業し3法人が誕生した。こういうのが本来のワークコラボレーションであり、社員もそうさせたいとなれば企業が投資するメリットも出てくる。
- 左別当:どれだけ地域の人とのつながりを増やせるか、新プロジェクトが生まれたり関わりがあるかが、継続的なリピートに繋がるポイント。
今回は2セッションの内容について概要を紹介したが、行われた全セッションのアーカイブ動画はこちらから購入できる。今回紹介したセッションや、他のセッションについて詳しく知りたい方は、ぜひこちらをチェックしてほしい。
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未曾有のパンデミックとなった2020年。これまでの働き方や住まいがガラッと変わった方も多いのではないか。これからは、都市と地方という対局面でなく、生き方の自由さ・豊かさから住む場所を選ぶ方が、今後より加速していくのではないかと思う。
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