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  インタビュー

重視するのは個々の技術力より、何かを作り、変えようというモチベーション。「入社してから伸びる人」を採用したい

2021年6月11日(金)
工藤 淳

刻々と変化する市場やテクノロジーに対応するため、「即戦力」を求める企業が多いと言われるIT業界で、「大切なのは自分で何かを創ろうという意欲。業務の知識や能力は、入社後に学んで成長してくれれば良い」という独自の人材観を掲げるfreee株式会社。クラウド会計ソフト「会計freee」は、現在、有料課金ユーザー28万事業所を擁し、その数は年々着実に増えている。成長著しい同社が求めるエンジニア像やその働き方について、開発部門のリーダーである若原祥正氏に伺った。

freeeが欲しいエンジニアは
「プログラミングを楽しいと思える人」

「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションとして掲げ、個人事業主から中規模法人までの事務処理を自動化・効率化しようと考えるfreee株式会社。現在はクラウド会計ソフト「freee」を筆頭に、人事労務、法人税申告、プロジェクト管理、福利厚生などなど、あらゆるバックオフィス業務を支えるクラウドサービスを提供している。

金融系ソリューションでありながら、スモールビジネスがメインユーザーというユニークな立ち位置から、大規模エンタープライズ系とはひと味違う、コンシューマー向けサービスにも近い感覚が求められるのがfreeeの開発の特徴だ。同社で開発責任者を務める、プロダクト開発本部長 若原祥正氏は、最近のエンジニアの求人動向について「ものすごく裾野が拡がっている印象があります」と明かす。

freee株式会社 プロダクト開発本部長 若原祥正氏

同社では人材採用に複数の大手人材スカウトサイトを利用しているが、そこに登録されている求職者の数が急速に増え、過去2年間で倍くらいになっている印象があると若原氏は言う。

「ただ、数は増えているけれど、経験豊富な人材は変わらず、未経験もしくは業務経験が非常に薄い層=裾野が増えています。優れた人材を求める企業としては、決して数が増えたからといって楽観はできず、膨大な応募数から本当に来て欲しい1人を探すのが大変で、むしろ人材獲得にかける時間は増えています」。

では、同社が欲しい人材とはどんなエンジニアだろうか。若原氏は、最も重要なポイントとして、「プログラミングが楽しいと思って仕事をしている人」を挙げる。

「やはり楽しいと思えない人は、この先の伸びがなかなか見えないことが多いのです。特に中途採用の人材の場合、自分から仕事や技術に興味を持って勉強している人は、アウトプットした成果物をGitHubなどに挙げているので、それを見て声をかけることが多いですね」。

これは求職者にとって重要なヒントだ。いくら開発という仕事に意欲があっても、自ら情報発信をしなくては採用企業の目に触れることはない。「我こそは」と思う人は開発の腕前を磨くだけでなく、GitHubや自分のブログなどを使って、積極的にスキルや成果物をアピールするように心がけることも必要だろう。

「入社後に成長できる人物」かどうかを
見極めるのが採用の重要ポイント

freeeが求める人材像を、もう少し詳しく聞いてみよう。若原氏によれば同社は「社内での成長を重視する会社」なのだという。入社してすぐに必要な業務がこなせる「即戦力」を求める企業が多い中で、このユニークなスタンスはどういう意味があるのだろう。

「成長も成果も評価すべきものですが、当社ではそれをあえて分けて考えています。というのも、成果はタスクや環境に依存する部分が大きく、偶然の要素に左右される可能性がある。むしろその人の本質的な能力や考え方は、成長を追っていく過程で見えてくるものです」。

だからこそ、採用時点で天井に達している人よりも、採用後に成長できる人物かどうかを重視していると若原氏は語る。それも単なるプログラミングのスキルだけでなく、ビジネス全般にわたって成長できる部分があるかを見極めることが大切だ。

同社がもう1つ重視するのが、自分の技術を使って何かを改善する、今までできなかったことにチャレンジするといったモチベーションの有無だ。と言うのも、ゲームやエンタメ系と違い、同社のサービスは会計や人事・労務など、いわゆる「カタい」仕事が主流だが、若手で最初からこういう分野を志す人は多くないのが実情だ。だからこそ、最初から「××系サービスをやりたい」というよりは、ムダなことを自動化したいといった改善や創意工夫のモチベーションがある人が望ましいのだ。

とは言え、やはりfreeeのサービスを開発するからには、ある程度の金融や経理といった知識は付けておいた方が有利ではないだろうか。だが、採用時点では、まったくそれは気にしていないという。

「むしろWebアプリケーションエンジニアとして優れた人を採用するのが、基本のポリシーです。特に中途採用では、入社後1か月くらいかけて、当社の開発に慣れるためのオンボーディングプロセスが用意されています。また配属された先の業務知識は、実際に仕事をしながらOJT的に覚えていけば良い。それよりも当社のサービスはどれもかなり大規模なので、大規模開発に慣れてもらう方が重要な課題になります」。

スペシャリストよりも「必要なものは何でも作る」
オールラウンダーを目指せ

求職中のエンジニアにとって大きな関心事の1つが、入社後のスキルアップのための環境だ。特に財務や経理、関係法令などの高度な知識は、独習ではかなり厳しい。教育制度や学習の支援制度などはどのようになっているのだろうか。

「必要な知識に関する勉強会は、エンジニアチームの中で日常的に開かれています。あとは会計freeeや人事労務freeeなどのサービスを自分たちで使う、いわゆる『ドッグフーディング』を行っているので、そこに業務留学をしたりとか。一番勉強になるのは、ユーザーサポートの手伝いです。エンジニアはふだん話したことのないユーザーさんとコミュニケーションできるので、みんな楽しみながらスキルを身につけていますね」。

そもそも会社としては、特定の技術やスキルに絞った学習は、あえて推奨していないという。採用も同じで、具体的な技術領域やプロダクトで採用すると、その分野がなくなると同時に退職してしまうからだ。あくまで採用ポリシーの基本は「freeeという会社が提供している“何か”に参加しても良いと思える人を採る」ことだという。

「当社にはエンジニアに望む文化基準のようなものがあって、その項目の1つに『何でもやる、何でもやれる』というものがあります。これは、スペシャリストよりもオールラウンダーを目指してほしいということ。最初から特定のアプリケーションやサービスと決めず、ユーザーの課題解決に必要なものは全部作るという志を持ったエンジニアに育ってほしい。また、それを楽しめる人を採用したいと、いつも思っています」。

そのためにエンジニアの自主性を尊重して、何か業務を指示する際には同時に必要な裁量も与え、担当を任せる形をとっている。開発責任者である若原氏は年度計画のような大枠の方針は決めるが、個々の現場についてはあえて口出しをせず、「自分たちで考えてほしい」と預けるようにしている。

「業務単位で4~5人くらいの小規模チームに分かれる編成をとっているので、具体的な仕事の進め方や問題解決はその中で話し合って解決してもらう方針です。もちろん、どうしても難しい場合はサポートに入りますが、逆に自分から『こうすれば良いのでは』と提案してくる人には、任せるからチームの中でどんどん進めるように言っています」。

以前、マネージャとして細かくフォローした方が良いのではといろいろ口を挟んでいたら、「マイクロマネジメントはやめてくださいと言われた」と笑う若原氏。仕事を面白いと感じて創意工夫する、“自走型”人材を集めたfreeeならではのエピソードだ。

より良い転職を目指すなら
「今の仕事に本気で取り組んで成果を出すこと」

freeeのような開発型企業にとって魅力ある人材になるためには、これからどのようなスキルを磨いたら良いだろうか。この質問に、若原氏は「転職志望者なら、まずは現在の職場の仕事を本気でやることです」と示唆する。転職の動機は、今の仕事や会社への不満があることが多いが、そうであっても今自分がやるべきことに向き合い、結果を出し、さらに良くするにはどうしたら良いかを考える。すなわち今現在の本気度が、次のステップアップにつながるというのだ。

「転職するために新しい技術や知識を仕込んでおこうという人もよくいますが、短期間では身につかないし、こちらも見ればわかります。それよりも今自分が知識や経験の蓄積があるところで仕事をしているのだから、そこでの成果を面接できちんと説明できる方が、その人の魅力を伝えることにつながります」。

技術的なスキル以外では、ドキュメンテーション=文章を書くスキルを若原氏は挙げる。それも日常的に書いている仕様書などではなく、今自分が作っている機能やその背景、目的、ユーザーにもたらすメリットなどをきちんと説明する文章だ。それを見て営業担当者が顧客に勧めてくれることを考えると、自分が作っているものの価値を文章で説明できるのは、かなり重要なスキルだといえよう。

ここまで聞いて、気になるのは同社のワークスタイルだ。同社もコロナ禍が始まってからは全員リモートワークが続いているが、それで生産性が落ちたということはまったくないという。もともと開発チームではSlackなどでコミュニケーションをとったり、少人数の議論ならオンラインミーティングでもリアルと変わらないのだそうだ。

「コロナの感染が終熄した後も、リアルで出社するのとリモートワークのハイブリットを検討中です。どちらでも生産性が変わらないということは、どちらでも良いということなので、両方の良いとこ取りができるように工夫していきたいと思っています」。

もう1つユニークなのは、育児休暇の取得率がほぼ100%という点だ。数年前にCEOの佐々木大輔氏に子どもが生まれたとき、育児休暇を3か月取った。それ以降、育児休暇を取る人が爆発的に増えたという。まさにトップダウンのワークライフバランス推進が実現しているのだ。

※ ※ ※

「当社はコロナ禍にもかかわらず、一定の割合で業績を伸ばしている珍しい会社だと自負しています。そういう会社で一緒に苦労してみたいとか、さらに伸ばすために新しいものを作りたいという方には、ぜひ来ていただきたいですね」と語る若原氏。freeeは通年で人材を採用中だという。我こそはと思う人は、さっそく応募してみてはどうだろうか。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。

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