クラウドオーケストレーションツールでクラウド活用は次のフェーズへ
OSSコンソーシアム クラウド部会主催による、クラウドオーケストレーションセミナーが5月9日に開催された。
クラウドを導入するにはどうしたら良いか? 少し前まではそういった議論が盛んに交わされていた。しかし、クラウドが当たり前の世の中になってくると、次はどうやって効率化していくか、という議論になってくる。そこでここ数年注目されているのが、セミナーのテーマでもある「クラウドオーケストレーション」である。クラウドオーケストレーションは、クラウド環境における様々なリソースの設計・構築を自動化する取り組みで、具体的なサービス名をあげると、AWSのCloudFormation、OpenStackのHeatなどが該当する。
同セミナーでは、日立ソリューションズ、SCSK、TISの3社がそれぞれ開発しているクラウドオーケストレーションツール(クラウドオーケストレーター)を例に、課題と対応策を紹介していった。ツールの紹介に先駆けて行われた基調講演からレポートしていく。
クラウドとOSSを取り巻く業界動向
冒頭の基調講演には、電通国際情報サービス(以降、ISID)のクラウドエバンジェリストである渥美俊英氏が登壇。古くからコミュニティベースで活動してきた渥美氏は、AWSのSAPサポートで業務システムのクラウド化の可能性を強く感じたという。クラウドに大きくかじを切ったSIerの立場から、エンタープライズ向けのクラウド業界の最新動向を総括した。
ここ半年の動きをおさらいすると、マイクロソフトのAzureがIaaS領域でWindows以外のサポートを表明した(名称もWindows AzureからMicrosoft Azureに変更されている)。東西2つの日本リージョンのサービスが開始されたのも記憶に新しい。また、IBMがAWS対抗のSoftLayerを買収しグローバルで提供し始めたことも重要な動きであり、日本でも本格導入が予定されている。3月にはGoogle Compute Engineの大幅な値下げが発表され、AWSやAzureなどもそれに追従した。業界をリードしてきたAWSを追う構図ができはじめている。
ただし、AWSはさらに先をいき、中国参入を発表している。秋にはAWSサミット北京を開催予定。また金融市場も着々と狙っている。SCSK、ISID、NRIの3社共同で金融機関向けのAWS対応セキュリティリファレンスを発表するなど余念がない。「AWSは技術者を巻き込み良質なコミュニティを生む力に長けており、膨大な技術資料も無料で公開されている。こういった動きを積極的に取り込んでいかないとついていけなくなる」と警告する。
そんな中、Amazonを追うクラウドベンダーはこぞってOSSのクラウド構築ソフトを採用し始めた。CloudStackとOpenStackが有名どころだ。先に紹介したIBMもパブリッククラウドとしてのSoftLayerを打ち出しつつ、OpenStackへのコミットも宣言している。国内でも2月にOpenStack Days、3月にCloudStack Dayという大型イベントが開催されコミュニティが立ち上がり盛り上がりを見せている。
日立発、今秋のOSS化を目指す
株式会社日立ソリューションズの企画担当、赤木直樹氏と開発担当の黛千洋氏が登壇、開発中のクラウド運用プラットフォーム「Sennin.io」を紹介した。
開発の背景として、SI案件でもスピードを重視されるようになっていること、とはいえガバナンスの両方を重視したいというお客さんが多いことが挙げられた。オンプレミスは十分に枯れた世界だったが、そうしたニーズの変化により既存のシステムが対応しきれていない。「動的にインフラをコーディングする時代になってきた。運用機能のサービス化(API化)が進んでおり、インフラ担当のためのプラットフォームの必要性を強く感じた」と話す。
構成定義の運用部分まで含めたテンプレート化にニーズがあると考えて自社開発に乗り出したという。プラットフォームをオープンソースで提供し、サポートサービスや連携サービス、各種コンサルティングでビジネス化を考えている。
node.jsベースのシステムで、Job ServiceとRunbook(yamlのDSL定義ファイル)などで構成されている。tagはすべてのAPIに対応、ファイル操作などにも対応して100個ほどある。今後は各種ミドルウェア、SaaSウェアのAPIに対応していく予定で、AWSを対象にしたスクリプト実施によるディスクのバックアップと、キーワードマッチによるメール通知のデモを行った。
ChefやPuppetとの違いとして、静的な構成定義ではなく動的な運用管理のテンプレート化をターゲットとしている点を挙げた。JavaScript(Node.js)ベースのツールであるのも特徴の1つで、今秋にOSS化を目指している。
2009年から開発を続けたサービスをオープンソースへ
続いてSCSK株式会社の瀧澤与一氏が「PrimeCloud Controller」の解説を行った。PrimeCloud Controllerは、ブラウザ上から実行できる複数のクラウドの統一管理を可能にするサービス。サーバーの基本的な操作に加えて、プライベートとパブリックをまたいだいわゆるハイブリッドクラウドの運用に適している。
目的別から複数のクラウドサービスを選択可能で、VMWare、Eucalyptus、CloudStack、AWS、ニフティクラウド、IDCフロンティア、クラウド・エヌ、USiZE、Microsoft Azure、OpenStackなどに対応。まずはプライベートで構築し、足りない分はパブリックで補うといった運用も可能になる。PrimeCloud Controllerのコンソール側で個別のクラウドサービスの差異を吸収することで、環境に依存しない統一した操作を実現している。内部的にはPuppetやZabbixなどが動いている。
なお、これまでは商用サービスとして開発を続けてきたが方針を転換、取得した特許も無償許諾で提供しているという。「クラウド時代のビジネスモデルはOSSと親和性がある、サービス内部でも多くのOSSを使用しているのでコミュニティへ貢献したいと考えた。」と、瀧澤氏は語る。
OSS化への流れでは社内の理解を得るのに1年を要した。OSSの本質やビジネスモデルを経営陣に説明する必要があり、既存の契約者への対応やどのOSSライセンスを採用するかの選択にも時間をかけた。当初はApacheライセンスを考えていたがGPLに変更、自分たちのビジネスに照らし合わせてメリット・デメリットをよく考える必要がある。オープンソースにするために商用の製品(具体的にはコードの類似性を検出する「Black Duck Protex」)を購入する必要もあったという。
"パターン"をキーにしたより抽象度の高い運用へ
最後に登壇したのがTIS株式会社の松井暢之氏。同社が提供する「CloudConductor」の企画開発を担当している。CloudConductorは、システムのクラウド化に悩む担当者のために作られたソフトウェア。インフラストラクチャ・アーキテクチャの設計ノウハウを抽象化してパターンにし、各種クラウドで実現、自動化しようとしている。
2013年の経産省の産業技術実用化開発事業補助金に採択されたプロジェクトで、当社からOSSのApacheライセンスを想定して作られている。現状はα版を公開中。「クラウドのオーケストレーション市場が盛り上がっているが、その分ツールが混在している。ツール自体の競争が激しいのでより抽象的なパターンを提供していくことにカジをきった」と語る。
パターンを活用することでクラウド間の移行を柔軟に対応できるようにし、付加価値を高めていく。インフラの設計図を書くイメージで実際の構成を組み、それがパターン化される。
今回のセミナーで紹介された各社のツールは、ベンダーによらない複数のクラウド環境をサポートする点は共通だが、各社狙っている層は微妙に異なっている。イベントの最後に実施されたパネルディスカッションでは、3社は競合するのか?協業するのか?といった質問も繰り広げられた。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- TIS、クラウドオーケストレーション・ソフトウェア『CloudConductor』のα版をOSSとして公開
- TIS、クラウドオーケストレーションソフトウェア「CloudConductor」の最新版をOSSとして公開
- TISが「AWS監視テンプレート」の拡張開発サービスと保守サポートサービスを提供開始、ほか
- ミラクル・リナックス、OSS運用統合ソフト「Hatohol」を拡張開発し、他システムとの相互接続性向上を促進
- オープンソースの最新トピックと、ビジネス活用のポイント(OSPセミナーレポート前編)
- ISID、SAP ERPクラウドを短期・固定価格で導入するサービスを開始
- クラウド基盤OSS CloudStackの最新動向と、CloudStack Day Japan 2014の見どころ
- TISのCloudConductor新版がOSSで公開、LibreOfficeオンライン版開発スタート、ほか
- 米PivotalがHortonworksと提携、「Node.js Foundation」設立、注目を集めるベアメタル、ほか
- MySQLに重大な脆弱性、「Azure Service Fabric for Linux」プレビュー版提供開始、ほか