OTRSのサービス資産・構成管理

2012年2月8日(水)
櫻井 耕造

OTRSのサービス資産&構成管理

今回は、OTRSで可能なサービス資産・構成管理について説明します。ITILv3のサービス資産&構成管理プロセスは、サービス資産管理と構成管理で構成されます。前者は購入価格や減価償却などの財務的な情報や保守ベンダーの連絡先、契約情報などを管理するプロセスのことで、後者はITサービスを構成する構成アイテムを管理するプロセスのことです。

ITILでは、提供するサービスを構成するインフラストラクチャのコンポーネントを一意に識別・定義して、構成情報を常に正確に維持できるようにコントロールすることが目的として定められています。しかし、どの構成アイテムを対象に、どのように管理するかは明確ではなく、個々の企業の方針に委ねられています。OTRSでは、次の5つの構成アイテムがデフォルトで設定されており、他の構成アイテムの管理が必要な時は追加設定が必要になります。

  • コンピュータ(Computer)
  • ハードウェア(Hardware)
  • ロケーション(Location)
  • ネットワーク(Network)
  • ソフトウェア(Software)

図1:CMDBにて管理する構成アイテム例(クリックで拡大)

新規構成アイテムの追加方法

「管理」の「一般的なカタログ」をクリックすると、図2のようなカタログクラスの一覧画面が表示されます。ここでは、構成アイテムだけでなく、ITSMに関連する他の管理プロセスのリストボックスなどの設定情報も見ることができます。デフォルトでは、設定情報が英語表記になっているため、日本語に修正したい場合は、この設定画面から構成アイテムの情報を修正します。

図2:一般カタログ管理の一覧

なお、構成管理に関する項目は以下の部分です。

  ITSM::ConfigItem::Class
  ITSM::ConfigItem::Computer::Type
  ITSM::ConfigItem::DeploymentState
  ITSM::ConfigItem::Hardware::Type
  ITSM::ConfigItem::Location::Type
  ITSM::ConfigItem::Network::Type
  ITSM::ConfigItem::Software::LicenceType
  ITSM::ConfigItem::Software::Type
  ITSM::ConfigItem::YesNo

図2の画面で「ITSM::ConfigItem::Class」をクリックし、「カタログ項目の追加」をクリックすることで、追加したい構成アイテムを作成できます。

項目 説明
カタログ・クラス * 自動的に表示されます。ここでは、「ITSM::ConfigItem::Class」が表示されます。
名前 * カタログ名を入力します。ここでは、構成アイテム名を入力します。
権限 * カタログクラスを設定、参照できるグループを指定します。
※構成アイテムを作成するときは、「itsm-configitem」を指定します。
有効 (有効)※不要になったカテゴリは無効にします。
コメント コメントで入力
* 必須入力
表1:カタログ項目の作成

構成アイテムの内容を作成

1ページ目では、構成アイテムの名前を登録しました。構成アイテムの内容を定義するためには、「管理」の「構成アイテム」をクリックし、1ページ目に追加した構成アイテム名をクリックします。操作欄にあるリストボックスに先ほど作成した名前を選択して、「クラス定義を変更」をクリックします。図3は、「クラウド環境」という構成アイテムを作成したときの画面例です。

図3:構成アイテムの定義1

図4の画面で、構成アイテムの内容を設定できます。この定義文の記述方法の説明は、ここでは割愛しますが、他の定義文を参考に作成してみて下さい。

図4:構成アイテムの定義修正画面(クリックで拡大)

以上の設定で、構成アイテムの作成は完了です。

CMDB利用者の権限の付与

最後にCMDBを利用する担当者に権限を付与します。「第3回 OTRSの基本設定」の「担当者とグループの権限設定」を参考に「itsm-configitem」グループを設定します。itsm-configitemは「ITSMConfigurationManagement」パッケージをインストールすると作成されるグループで、このグループにアクセスできる権限を付与されたユーザーは、CMDBの修正や入力ができるようになります。

CMDBに構成アイテムを入力

「CMDB」の「新規」をクリックすると、標準で用意されているCIクラスが表示されます。作成したいCIクラスをクリックすると、標準で用意されている登録画面が表示されます。図5は、「Hardware」を選択した例になります。

図5:新規構成アイテムを登録する画面例(クリックで拡大)

構成アイテムのバージョン管理

OTRSの構成管理の機能として、現在保存している構成アイテムのデータをバージョン管理して保存されています(図6の「バージョンナンバー」の部分を参照)。また、「履歴」ボタンより、構成アイテムの更新情報を閲覧することもできます。

図6:バージョン管理(クリックで拡大)

構成アイテムの連結方法

サービス資産・構成管理プロセスでは、複数の構成アイテムを連結して管理することが推奨されています。構成アイテムを連結することで、例えば、ある構成アイテムが故障した際の影響範囲を把握したり、変更作業のインパクトを把握したりできるようになります。

それでは、設定方法を説明します。「CMDB」の「一覧」をクリックして、該当する構成アイテムをクリックすると、構成アイテムの詳細が表示されます。その詳細の画面にある「連結」ボタンをクリックすると、どのように連結するのかを選ぶリストボックスが表示されます。選択できる連結は以下の通りです。

  • FAQ
  • 構成アイテム
  • 作業依頼書
  • サービス
  • チケット

図7は、WebサーバがWebサービスと連結した設定例です。

図7:連結設定した後の構成アイテム表示(クリックで拡大)

アドオン機能の提供方法

OTRSでは、以下のアドオン機能をサブスクリプションとして提供します。Tritisサービスのベーシック・サブスクリプション保守サポート契約をすることで、アドオン機能パッケージを入手することができます。

1. 顧客-CI割り当て
顧客と構成アイテムを連結するための機能です。
2. CI添付サポート
構成アイテムにファイルを添付することが可能になります。デフォルトでは、ファイルを添付することはできません。

※OTRSのアドオン機能の詳細説明は、以下のURLを参照して下さい。
→参照:Tritisサービス(OTRS)

クラウド環境における構成管理

クラウド環境のように多様な機器やツールが入り組んだ環境では、1つの構成アイテムの障害が、どのサービス、どの顧客に影響を及ぼすのかを把握するのが難しくなります。例えば、あるサーバのディスク障害が発生したとき、どの顧客に影響するのか把握することは、クラウド環境では非常に困難です。

筆者は、クラウド環境こそ、OTRSのようなITIL準拠した運用管理ツールなどで管理する必要があると考えています。OTRSではインシデント管理だけでなく、サービスに影響する構成アイテムの障害がどの構成アイテムに影響するのか、どのサービスに影響するのかといった関連性を管理し、影響範囲を特定するツールとしても利用できるからです。

次回は「OTRSの変更管理(前編)」について説明します。

<編集部より>3ページ目の一部表記ミスを修正しました。(2012.02.14)

TIS株式会社 IT基盤サービス本部 DCアウトソーシング第1部 主任

システム運用、システムインテグレーションなどを経験後、TISの先端技術センターにてOTRSのR&Dを実施。OSS保守サービス「Tritis」の事業を企画し、事業の中核であるOTRSを2011年8月にOTRS AG(ドイツ)による国内初のOTRS認定技術者となる。

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