世界的に普及している高機能CMS、Drupal - 国内コミュニティメンバーが次バージョンや最新情報を紹介 -

2013年10月31日(木)
Think IT編集部

オープンソースカンファレンス2013 Tokyo/Fall(OSC東京)の前日に開催された「Drupal Cafe 2013 vol.9 in TOKYO」。OSC東京への参加のため、京都から訪れていたDrupal Groupsの紀野氏と太田垣氏の呼びかけで開催された本イベントは24名の参加者を迎え、市ヶ谷にあるインプレスのセミナールームで2時間にわたって行われました。

"Cafe"という名の通り、当日は用意した飲み物と軽食をつまみながら、ゆるい雰囲気の中で進められました。セッションの途中でも気軽に質問が寄せられるなど、参加者のDrupalへの関心の高さが感じられました。

開発スタッフによるThink ITの裏側を紹介

当日は2つのセッションが行われ、最初に、Think ITなどインプレスビジネスメディア(以降、インプレス)内でメディア開発を担当する四方(しかた)部長より、同社での現在に至るまでの導入事例が紹介されました。

社内で最初にDrupalを導入したのは、「Web担当者フォーラム」で、国内でのDrupal導入事例としてはかなり早い2004年頃の話になります。2008年~2013年に開催されたイベント「INSTALL MANIAX」にもDrupalが採用されました。ネット上で行われた予選ではチーム編成やチーム内のコミュニケーションにSNS機能を使用したり、OSC会場で実施された決勝大会ではリアルタイムでのスコア集計、グラフ表示などを行ったりと、様々なシーンでDrupalが使用されています。その他、「IT Leaders」や「Find-IT」などのサイトでも、全面的にDrupalが採用されています。

Think ITはというと、2010年より自社開発のCMSからDrupalに移行しました。当初はOpenPublishというディストリビューションを使っていましたが、2013年夏のリニューアルでこれをやめ、同時にバージョン6から7にアップグレードしています。

外観のデザインにはTwitter Bootstrapを使用、検索にはApache Solr、会員管理には情報出力用のAPIをDrupal側で作って認証を行っています。Preferred Infrastructure社のリコメンデーションエンジンを使用していることなどもあわせて紹介されました。システム構成やインフラの説明では、同社グループから参加していた技術部のスタッフからも説明がありました。インプレスではアクセスの多いサイトで月間260万PV程度があり、2台のサーバーで処理を行っています。

Drupalの得意なこと、苦手なこと 

Drupalの良い点として、上記のようなメディアサイトからキャンペーンサイト、ドキュメント管理、グループウェアなど、様々な使用方法があること挙げられました。これらはインプレス社内の事例でも数多く導入されています。しかし「ビミョーな点」として、メジャーバージョンアップの際に変更がとても大きいことが挙げられました。乗り換えに失敗して使用をやめてしまうケースもあるようです。

また、サイトの表示スピードについても課題があります。対策としては、定番のAPC(Alternative PHP Cache)や、Drupal 4の頃から存在するBoost、また最近使用しているプロキシサーバーのVarnishが紹介されました。これらを駆使して、サイトのスピードアップを図っているとのことです。検索エンジンとして使用しているSolrで日本語が使えるのかという質問もありました。これは設定を工夫することで日本語も使用が可能ということです。

四方氏はThink ITの開発スタイルについても言及し、通常2~3名で行っていることや、バージョンアップに伴う開発スタイルの変化、さらに最近ではモジュールが揃ってきたことによる、開発体制の省リソース化などが紹介されました。具体的な使用しているモジュールも紹介され、前述したVarnishやAPC、自社開発のモジュールなどが一覧になったスライドは参加者が興味津々で撮影している様子が伺えました。

「DrupalCon Prague 2013」レポートとDrupalの今後について

日本のDrupalコミュニティのメンバーである紀野氏からは、9月にチェコ共和国のプラハで開催された「DrupalCon Prague 2013」の様子を中心に、新バージョンであるD8や、Drupalの現状について紹介されました。

DrupalCon Prague 2013は、9月23日~9月27日の開催期間中、約1800名が参加者しました。会場には200名規模のブースが8レーン設置され、約15のセッションを実施。さらに10名くらいの小さなブースでホワイトボードを使いながら濃い議論が交わされていたとのことです。

イベント終了後も、多くの参加者が現地でコードを書いたり開発をしたりと、10日間ほどDrupal漬けの人も多かったようです。一日の終わりにはパーティが開かれ、クイズ大会などで参加者たちが大いに盛り上がった様子。今回はアジア系の参加者も多かったとのことでした。

最大の話題は「D8」

今回のイベントで最も大きな話題は、バージョン6から7になった時以上に変化が大きいといわれている。来年リリース予定のDrupal 8(D8)についてでした。

D8では、重要なモジュールの内、ほとんどがコアに入るため、企業のティザーサイトレベルのサイト構築は8.0リリース直後から使い始められます。

目玉となるのはConfiguration Managementです。これまでViews、Panels、Taxonomyなどすべての管理画面の操作がデータベースに入っていたため、ローカルからのアップロード、デプロイするか困っていたユーザーは多かったのですが、コードに置換され、バージョニングが可能になるため、モジュール作成者だけでなく、管理画面を使ってサイト構築する人にも重宝する機能です。ファイルについては、現状Media moduleが必須ですが、これもコアに入るため、使いやすくなります。またViewsのような進化の早い機能もコアに入るため、安定性が重視され、バグが出にくくなるとのこと。

開発者の風潮として、新しい機能を次々に取り入れたいため、メジャーアップごとに大きく変化していきましたが、上記のことから8から9へのアップグレードも見通しが良くなります。

レスポンシブデザインについても、今でもいくつかのテーマは対応していますが、標準のテーマがモバイル対応するため、ユーザーは迷いなく使えるようになります。また、テーマエンジンがSymfony2由来のTwigに変更されるため、見た目にもきれいで今のテンプレートエンジンに慣れた人にも使いやすくなるようです。レイアウトシステムはPanels系のCtoolsという簡易的なメインツールがコアに入ります。

デベロッパー系の変化は大きく、戸惑いの声はあったものの、必要な変化ということでモダンなPHP開発ができるSymfony2に移行されることになりました。これから開発を考えているユーザーも参加しやすくなります。

Entityのオブジェクト指向への改良、Pluginなど新しい概念も取り込まれるとのことでした。Javaの世界では一般的なDependency Injectionは、機能追加などの際に作りこまなくてもアップできるよう、結合を疎にして入れ替えなどが楽にできるようになるとのことです。

Entityの改良については、コードがOOP(オブジェクト指向)に変更されます。Entity PIの提唱によってコアに入るようになるため、D7までのように、モジュールによってEntityが異なって混乱してしまうことが減ると予想されます。また、コアの部分にもSymfony2が(すべてではないものの)入る予定なので、Drupal 8にアップグレードしたすぐ後から、あまり迷うことなく使えるということでした。

先のセッションで四方氏が話したように、これまでサイトが遅いという課題については、コアメンテナーがかなり力を入れているという話があり、Symfony2が入ることで細かなキャッシュが有効になることが期待されています。

他に目立った話題として、DevOps系の話題が挙げられました、改修を行いながら継続して開発を行っていくテーマについては日本と海外であまり時間差なく注目されている様子です。

現在ではDrupalサイトの大型化が進んでいるようで、多くの自社開発している企業から事例を紹介する話が多かったのですが、一例として、Phizer製薬が全社のサイトをDrupalに変えようとしている話題が紹介されました。7を使っているので継続的な開発(CI)はしづらいものの、Feturesを含めた一切を自分たちで開発しているという話でした。

Drupalの様々な動作をシェルスクリプト上からできるようにするDrushというツールも人気で、Drushをつかったオリジナルコマンドを作ろうというセッションもあったようです。

紀野氏はその他ブースの賑やかさにも触れ、ディストリビューションを試すのに最適な無料のクラウドサービスや、アクィア(Acquia)社の話題も上がりました。レッドハットもブースを持ち、AWSのように簡単にDrupalの開発ができる環境を用意しているとのことでした。

D7からD8へのアップグレードに不安を感じているユーザーも多いことから、後方互換性を保つため、マイグレートモジュールをコアに入れることが会期中に決まりました。D6からD8へもコンテンツが移行できるようになり、より安心にDrupalを使用することが可能になります。

Drupalのフォーク、Backdrop

Backdropは、D7からD8への大きい変化を嫌った一部の開発者によってフォーク(分岐)したプロジェクトです。DrupalConの開催2週間前に発表され、IRC、ブログ界隈は騒然となりました。

大きな関心が寄せられた理由は、このプロジェクトを立ち上げたのがDrupalモジュールのスター作家だということでした。ユーザーが必ずといっていいほど使ったことのあるモジュールの開発メンバーがフォークするということで、影響力は大きく、賛否がはっきり別れることになりました。

ただし、これを機にDrupalプロジェクト本体が後方互換を意識し始めたこともあり、悪いことばかりではないようです。

Backdropプロジェクトは、D7をベースとして、その代替版として開発が進んでいます。D7をベースにD8の機能を追加していくため、直接の互換性はありませんが、モジュールの改変が楽だったりと、D8よりもマイグレーションが簡単になることを目指しているとのことでした。この話題は、今後もDrupal Cafeでフォローしていくとのことでした。

コアで活躍する人の中にも、このBackdropプロジェクトに賛同している人が多いものの、紀野氏はコミュニティの大きさや情報量はとても重要なので、簡単に移行してしまうと、開発経験のないユーザーほど困ってしまう事態になりかねないと述べました。

Drupalイベントに参加しよう!

この後は世界各地で行われるDrupalイベントを紹介。米国やペルー、ニュージーランド、ハンガリーなど、各国のDrupalイベントをひと通り紹介した後、Drupal Camp in Japanをぜひやりましょう!という呼びかけで紀野氏のセッションは幕を閉じました。

Patrick Kenny氏によるプレゼンテーション

紀野氏のセッションの後、飛び入りでプレゼンをしてもらったのは、2012年よりOH MY JAPANというSNSを運営するPatrick Kenny氏です。

OH MY JAPANは日本文化に興味を持つ外国人との出会いの広場として開設されたSNSで、使用言語などから、ローマ字を使用している人同士でマッチングすることなどもできます。

大学時代、バージョン4の後半くらいからDrupalを使っているというKenny氏は、D7の出始めに開発を始め、不具合の多かった当初は1年間で100回以上の不具合を報告するなど、プロジェクトへの積極的な参加について述べました。Drupalは開発スピードが速いため、D7でモジュールの開発を始めたものの、D8の開発をしたくなって放置してしまうといったことがあった。という開発担当者ならではの話もありました。

Kenny氏はDrupalの良い点として、コミュニティに親切な人が多いことを挙げています。Drupal AnswersというWebサイトでは、質問のルールをしっかり理解していれば、自分の望む答えを効率的に得ることができるため、情報収集にはもってこいとのことです。英語サイトではあるものの、無料なのでぜひ使ってもらいたいと紹介しました。

ブログにとどまらず、高度なWeb構築ができるグローバルスタンダードなCMSであるDrupal。CMS導入候補の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。

今後もDrupalのイベントは開催されるため、興味のある方はぜひチェックしてみてください。

【参考リンク】

(リンク先最終アクセス:2013.10)

“オープンソース技術の実践活用メディア” をスローガンに、インプレスグループが運営するエンジニアのための技術解説サイト。開発の現場で役立つノウハウ記事を毎日公開しています。

2004年の開設当初からOSS(オープンソースソフトウェア)に着目、近年は特にクラウドを取り巻く技術動向に注力し、ビジネスシーンでOSSを有効活用するための情報発信を続けています。クラウドネイティブ技術に特化したビジネスセミナー「CloudNative Days」や、Think ITと読者、著者の3者をつなぐコミュニティづくりのための勉強会「Think IT+α勉強会」、Web連載記事の書籍化など、Webサイトにとどまらない統合的なメディア展開に挑戦しています。

また、エンジニアの独立・起業、移住など多様化する「働き方」「学び方」「生き方」や「ITで社会課題を解決する」等をテーマに、世の中のさまざまな取り組みにも注目し、解説記事や取材記事も積極的に公開しています。

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