そのグラフや資料、本当に伝わってる?「資料作成スキル」を磨くための特訓法

2025年5月9日(金)
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
事例・実践編の第4回となる今回は、PMOとして身につけたい「資料作成スキル」の磨き方について解説します。

はじめに

エンジニアやPMOには、システム開発の受注獲得のための提案、開発システムで発生したトラブルの解決方法の説明など、資料やグラフを掲示しながらプレゼンを行う機会が多々あります。しかし、これらを一生懸命作成したにも関わらず、チームメンバーやクライアントから

「で、このグラフは何を表しているの?」
「すみません……少しわかりづらいので解説をお願いできますか?」

などと返されてヘコんでしまう。そんな経験が誰しも一度はあるのではないでしょうか。

今回は、そうした事態を避けられる「伝わる資料」づくりのポイントを紹介します。ただし、読み手に好まれる配色やデザイン、フォントといった、言うなれば“小手先のテクニック”の話はしません。そうした情報はインターネットで検索すれば山ほど存在するからです。

さらに言えば、そうしたテクニックを使ったからと言って必ず「伝わる資料」が作れるわけでもありません。そのため、ここでは資料において「何が必要なのか」「何を伝えるべきなのか」について解説していきます。

「伝わらない資料やグラフ」に“足りないもの”とは

「伝わる資料」と「伝わらない資料」の決定的な違い。それは、作り手に「伝えたいメッセージ」が明確にあるかどうかです。

私は以前、下図のようなグラフを見て衝撃を受けました。一見たくさんの情報が集約されていて「すごい!」と思うかもしれません。また「グラフとは一般的にこういうもの」「自分もいつもこんなグラフを作っている」という方も多いと思います。

たくさんの情報が集約されているグラフイメージ(office Rootにてイメージを作成)

ですが、あらためてこのグラフを初めて見る人の気持ちで眺めてみてください。

「あれ? ●●の数字もあれば、△△の数字もある。ここから一体何を読み取れば良いのだろう…」

そんな疑問が生まれてくるはずです。そのうち「いったいこのグラフは何を伝えたいのか分からない」と感じてしまうと思います。

お気づきのように、このグラフは読み手にクエスチョンマークを浮かべさせてしまいます。資料やグラフは本来、伝えたいことがより伝わるためのツールとして機能すべきものです。厳しい言い方になりますが、それが伝わらない資料やグラフは「作成の意味がない」と言っても過言ではないでしょう。

そのような資料やグラフを作ってしまう背景には、作成者がそもそもプレゼンの場で「相手にどのようなメッセージを伝えるべきか」を理解していないことがあります。大事なのは「資料の目的を明確にしたうえで作成に取り組むこと」です。

例えば「全体の売り上げは下がっているが、メイン事業の⚫︎⚫︎はきちんと成長を続けている」あるいは「前年と比べて、コストが格段に軽減されている」など、伝えたいメッセージがあると思います。

この場で何が最も伝われば良いのか、読み手はどんな情報を欲しがっているのかを理解していれば、下図のような非常にシンプルなグラフがあれば十分で、むしろ要点が伝わりやすくなります。

現状分析と対策メッセージを加えたグラフイメージ(office Rootにてイメージを作成)

「伝わらない資料やグラフ」が招く弊害

伝わらない資料やグラフを作ってしまうと、どのようなことが起こるのでしょうか。チームメンバーやクライアントが、本当にこの会議で知りたい情報を得られないのはいうまでもありませんが、考えられるのは「これってどういうことですか?」「この数値は何を意味しているのでしょうか?」といった質問が多発し、作成者と読み手の間でキャッチボールが増えることで「その先の議論」をする時間がなくなってしまうことです。

つまり、毎回の会議が「資料の確認作業だけで終わる」非効率なものとなってしまうのです。

実際に私は、このようなことを経験しました。PMOとしてあるプロジェクトに入ったところ、「定期的に進捗会議を実施してスケジュールを管理しているので私のチームは気にしなくて大丈夫です」と言っていたチームがありました。それにも関わらず、突然「甲州さん、大変です。納期に間に合わないかもしれません」と相談が来たのです。

「一体なぜだろう」と調査すると、意外なことが分かりました。進捗会議とは、各部門の進捗が示されたバーンダウンチャート(進行状況と残り時間を明確化したグラフのこと)を、ただ全員で確認するだけのものだったのです。

管理のみをしているバーンダウンチャートのイメージ(office Rootにてイメージを作成)

予定から遅れているタスクがあっても、担当者から「少し遅れていますが、間に合うように頑張ります!」的な報告があるだけ。「なぜこんなに遅延した?」「間に合わせるには、具体的に何をどうするの?」といった議論は全くできていなかったのです。

もし、バーンダウンチャートを作成した人が「進捗会議はプロジェクトを納期通りに進行するために、各部門の改善策を議論することが目的である。だから、このチャートによって現状が伝わらなければならない」と理解できていたらどうでしょう。

例えば、遅れている部門については、その部門が抱えているタスク一覧や進捗状況のグラフなども別途用意できたのではないでしょうか。そうした情報があれば「そうか、今週は割り込み業務が多かったから遅れてしまったんだね。それでは、来週はタスク消化スピードをあげるために増員を検討しよう」といった具体的な改善策を、会議の時間内で考えられたはずです。

「伝わる資料やグラフ」が作れることは、会議を効率的に、そして有意義なものにするためにも非常に重要なのです。

「資料作成がゴール」だと思っていませんか

ここまで読んで「そんなこと、とっくに分かっているよ」と思われる方は多いかもしれませんが、私はPMOとして数多くの会議やプレゼンに参加して、前述のような「伝わらない資料やグラフ」をしばしば目にしてきました。残念ながら、本人がその事実に気づいていないケースも多いのです。

これには、前述した「伝えたいメッセージ」が分かっていないことに加えて、相手の理解力も考えずに「この内容で分かるだろう」といった勘違いもあると思います。また「自分は資料を作ることが仕事である」「前任者から引き継いだ仕事は踏襲しなければならない」と考えている人も多いと感じています(中には、集計するだけ、資料を作るだけがPMOの仕事と考えている人もいます)。

プロジェクトにはさまざまな人が参画しています。その資料を初めて見る人でも、伝えたいことやそこから今日何を議論すべきかが分かる内容で作成することは「伝わる資料」づくりにおいてとても大切です。

そして「ただ資料を完成させること」がゴールではなく、「プロジェクトを円滑に進行するために必要な情報を皆に理解してもらうこと」が本当のゴールなのだと意識することも欠かせません。

ときには、たとえ前任者から引き継いだ資料でも「これは今後必要ない」といった取捨選択が必要な場合もあります。思考停止で「前任者が行っていたものだから」と踏襲し続けるのではなく、明確なメッセージを理解して正しいゴールを設定できるからこそ、効果的なブラッシュアップができるのです。

もちろん、前任者からの引き継ぎを全て疑えというわけではありません。私も新しいプロジェクトに入る際は、まず前任者の仕事を踏襲します。その上で実際に業務を進めながら、要不要を判断したり、補足情報を付け加えたりしてより良くしていくようにしています。

「伝わる資料やグラフ」が作れるメリットとは

パッと見ただけで「何を伝えたいのか」が読み手に伝わる。そんな資料やグラフが作れるようになると、有意義な会議でプロジェクトが円滑に進むだけでなく、仕事をする上で大きく2つのメリットがあります。

トークが苦手な人も自信がつく

分かりやすい資料は口頭での説明が最小限で完結するため、「人前で話すのが苦手」という人ほど資料づくりに注力した方が良いのです。理想は、極端ですが「ひと言も話さなくても理解してもらえる資料やグラフ」です。作成スキルを磨くほど、自信をもってプレゼンに臨めるようになるはずです。

キャリアアップの可能性が広がる

「甲州さんの資料が、とても分かりやすいと上層部にも好評でした。他のプロジェクトもぜひお願いします!」

私の作成物が、そんな風に新しい仕事のきっかけになったことがあります。「伝わる資料」は企業内のさまざまな場で共有されるものです。普段はアポイントを取らないと会えないトップ層の人に見てもらえることもありますし、自分の資料で企業の一大プロジェクトが始動することだってあります。つまり、資料1つで思ってもみない方向へキャリアが飛躍する可能性もあるのです。

スキルアップにおすすめの特訓方法

それでは、どうすれば「伝わる資料やグラフ」が作れるようになるのでしょうか。これには、2つの力をトレーニングして鍛えることが重要です。

「考える力」を鍛える

日頃から「たかが資料」と考えずに「どうすればもっと伝わるのか?」「もっと分かりやすくのか?」を考えながら作成に臨むのです。意識的にスキルを磨き続けていれば、どのようなジャンルでも分かりやすい資料が作れるようになります。業務やプロジェクト全体の理解度もより深まり、PMOとしてもさらに精度の高い仕事ができるようになるでしょう。

「見る力」を鍛える

作成側にいると、つい読み手の視点を忘れてしまいがちです。自分が資料やグラフを見る側になって「この資料があれば内容を理解しやすいな」「このグラフは分かりにくい」など、客観的に見る力を養うことも大切です。おすすめは、大手コンサルティング会社が作成する資料を見ることです。素晴らしく要点が押さえられていて圧倒的に分かりやすく、ストーリーの組み立て方なども非常に参考になります。

一緒に仕事をする機会があれば、ぜひ「資料作成側」の目線でも見ていただきたいです。そうした機会がなければ、官公庁のホームページにあるプロジェクト提案資料を見るのもおすすめです。例えば、経済産業省の委託調査報告書をまとめたページには、いろいろな企業が作成した報告書が公開されています。

見る際は「このページでは何を伝えたいのか」を理解した上で「自分ならどう構成するか?」など比較・分析しながら読み解いてみましょう。さまざまな気づきがあるはずです。

【参考】経済産業省 委託調査報告書
https://www.meti.go.jp/topic/data/e90622aj.html

おわりに

事例・実践編第4回目の今回は、以下のような内容を解説しました。

  • 資料やグラフの作成で最も大切なのは「伝えたいメッセージ」の明確化
  • 「伝わらない資料やグラフ」は会議の非効率化、プロジェクトの遅延を招くこともある
  • スキルを磨くには考える力と見る力を鍛える
  • 「伝わる資料やグラフ」はPMOのキャリアアップのチャンスになり得る

これまで述べてきたように、資料やグラフ作成のスキルが磨かれれば、会議やプロジェクトだけでなく、自分自身のキャリアも大きく前進できる可能性があります。

テクニックを身につけることも大切ですが、まずは「誰に」「どのようなメッセージを伝えれば良いの」かを考えることがキーポイントとなります。「資料を作る」のではなく「資料で伝える」を意識しながら、今回紹介した特訓法もぜひ試してみてください。

次回は、PMOとして現場の報告を受ける際の注意点を解説します。お楽しみに!

著者
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
株式会社office Root (オフィスルート) 代表取締役社長
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動すると多数プロジェクトを成功へ導き、企業との協業も増加。2020年法人化し企業課題と向き合う。【著書】『DX時代の最強PMOになる方法』(‎ビジネス教育出版社)
URL: https://www.office-root.com/become-excellent-pmo/

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