地方都市でITエンジニアコミュニティを始めたり続けていくためには、何が必要なのでしょうか。イベントの規模? 著名な登壇者? あるいは、SNSで話題になる企画力でしょうか。
2019年2月に「みやこでIT」を立ち上げ、7年間で約150回のイベントを開催し、540名以上の方々と接点を持ってきた中で見えてきたのは、少し違う答えでした。大切なのは、派手なイベントを断続的に打つことではありません。地域の中にITエンジニアが安心して戻ってこられる場を持ち続けることです。
みやこでITは京都を拠点に活動するITエンジニアコミュニティです。もくもく会や交流会、勉強会などを通じてWebアプリケーション、AI、ブロックチェーンをはじめとする幅広いテーマに関心を持つ人たちが集まり、学び、つながる場を作ってきました。
本記事ではみやこでITがどのように始まり、なぜ地方都市で継続できているのか、そして地方ITコミュニティ運営において何が本質なのか、考えたことを整理してお伝えします。京都でITコミュニティを探している方、地方でITエンジニアコミュニティを立ち上げたい方、地域に根ざした技術者ネットワークの作り方を知りたい方にとって、実務的な参考になる内容を目指します。
「みやこでIT」とは何か
始まりは「京都で継続的に集まれる」、ITエンジニアのコミュニティ
みやこでITは京都でITエンジニアや技術に関心のある人たちが、継続的に集まれる場をつくるために始めました。きっかけはとてもシンプルです。京都にはITエンジニアが気軽に参加し続けられる地域コミュニティが少なかったからです。
2019年当時(現在もですが)東京や大阪には勉強会、LT会、もくもく会など、ITエンジニア向けのイベントが数多くありました。業界の情報も人の流れも集中しており、少し行動すれば新しいつながりが生まれる環境があります。一方で、京都では単発イベントはあっても、継続的に参加できるITコミュニティの選択肢が豊富とは言えませんでした。大阪まで出ればイベントはありますが、平日夜や休日に継続して通うには負担が…これは距離の問題だけではありません。参加を習慣化できるかどうかの問題です。
この背景のもと、みやこでITは京都という地域に根ざし、ITエンジニアが自然に戻ってこられる場をつくることを目指してスタートしました。「なければ自分たちで作ってしまえ!」と見切り発車で実行したのです。
最初のもくもく会は参加者5名から始まりましたが、地方ITコミュニティでは初回の規模そのものが本質ではありません。重要なのは、そこから継続できるかどうかです。
つまり、みやこでITは最初から大規模コミュニティを目指して設計されたわけではありません。京都に継続的な接点を作るための、小さくても持続する場として始めました。この出発点が、その後の運営方針を決めています。
京都でITコミュニティを続ける難しさ
地方は「集客モデル」ではなく「定着モデル」で考える
みやこでITを運営してきて強く感じることは「地方のITコミュニティは東京や大阪と同じ前提で設計すると続かない」ということです。東京や大阪はITエンジニア人口も企業数も、そしてイベント数も多いため、新規参加者が継続的に流入します。多少運営が粗くても、新しい人がまた入ってくる構造があります。しかし京都のような地方都市では参加候補者の母数が限られています。そのため、毎回ゼロから人を集める運営は主催者の消耗戦になりやすいです。
これは地方ITコミュニティの運営で見落とされやすい点です。多くの人はコミュニティ運営を「どう集客するか」という視点で考えます。しかし、地方では集客だけで考えると疲弊しやすくなります。広告を打てば無限に新規参加者が来る市場ではないからです。
地方で重要なことは、新しい人を毎回大量に連れてくることではなく1度来た人が違和感なく2回目、3回目と参加できる状態をつくることです。みやこでITが意識してきたのも、まさにこの点です。参加費は基本的に無料から1,000円程度に抑え、1人参加を歓迎し、主催者が最初に声をかけ、途中参加・途中退出も許容し、スキルレベルで足切りしない。
こうした設計はメンバーが持つ親切心を前提にした(大事)、地方でコミュニティを存続させるための合理的な設計なのです。なぜ合理的なのか? それは、コミュニティ参加の最大の障壁が技術力不足ではなく、知らない場に1人で入る不安であることが多いからです。地方ではその不安を1つ1つ下げない限り、参加は継続しません。東京のように人が多い場所なら1度離脱した参加者がいても、またその次の方がどんどん入ってくる下地があります。しかし、地方では1人離脱する重みが大きい。だからこそみやこでITは初回参加者が入りやすい導線を丁寧に作り、再参加しやすい空気を設計してきました(再参加しやすい空気だけでなく「去る者追わず」な感じでもあります。どんな方でも気軽にふわっといれる場所、そんな設計です)。
みやこでIT"の価値は
イベント単体ではなく「反復」にあり
1回参加しておしまいではなく、何度も顔を合わせることで信頼が生まれる
コミュニティ運営では、参加人数やSNSでの盛り上がりが分かりやすい指標になります。しかし、みやこでITを続けてきた実感として本当に価値が生まれるのはイベント単体ではなく、反復の中で関係が育つことであると感じています。
実際にみやこでITの中で生まれてきた価値の多くは、イベントに複数回参加した人同士から生まれています。ハッカソンでのチーム結成や受賞、案件受注、転職相談、共同開発、イベント共催などは、初対面の名刺交換だけで成立したわけではありません。
複数回顔を合わせる中で「この人はどういう領域に強いのか」「この人はきちんとやる人なのか」「この人となら一緒に何か面白いことができそうか」が少しずつ見えてきて、その蓄積こそがコラボレーションにつながっていくのです。
この構造を理解していないと、コミュニティ運営は「毎回新しいネタを出し続ける競争」になってしまうと考えます。しかし地方ITコミュニティでは、そこを競っても消耗するだけです。むしろ、重要なのは同じ人たちが無理なく再び顔を合わせられる定番フォーマットを持つことです。
みやこでITにとって、もくもく会はその意味で非常に強い形式でした。派手な企画ではありませんが、各自が自分のテーマを持ち寄って参加でき、会話も強制されず、それでいて交流の余地もあります。参加者にとっても負荷が低く、主催者にとっても継続しやすい。地方では、この「継続できる形式」であることが非常に重要です。
「京都 ITエンジニア 交流」「京都 ITエンジニア コミュニティ」「京都 もくもく会」と検索する人が知りたいことは1度きりの面白いイベントではなく、継続して参加できる実在の場なのです。その検索意図に対して「みやこでITが何を提供しているのか」を、イベント概要の中ではっきり伝える必要があります。
みやこでITでは
会場を「箱」ではなく「体験設計」として捉える
お寺や町家はイベントの価値を支える設計要素
ここで、お寺や町家といった会場の話に触れます。みやこでITは一般的な貸会議室やカフェだけでなく、佛現寺のようなお寺や京町家でもイベントを開催してきました。これは「珍しいから」「京都っぽいから」といった表層的な理由だけで選んできたわけではありません。みやこでITというコミュニティの性質に合う会場を選んだ結果です(最初は「え、面白そう! やらせてください!」という表層的な理由だけで始めたのですが、継続利用させていただいている理由はちゃんとあります)。
会場はコミュニティにおいて単なる箱ではありません。会場の空気は参加者の行動を変えます。貸会議室は便利で機能的である一方、イベントが業務の延長線上に感じられやすく、また印象が均質になりがちであると感じます。カフェは入りやすい反面、周囲の会話や混雑、長居への遠慮が生まれやすく、深い集中や長時間滞在には向かないことがあります。
一方で、お寺や町家には静かでありながら緊張しすぎない空気があります。集中したい人は静かに作業でき、必要なら自然に会話もできます。さらに参加者の記憶に残りやすいため「また、あの場に行きたい」という再参加の理由になりやすい特徴があるのです。
そういう意味で、みやこでITは京都という地域の文脈に合う会場を選び、その結果としてコミュニティ体験を最適化してきました。
みやこでITが京都で続いてきた理由
続いたのは偶然ではなく、地方に合う運営を選んできたから
7年間続いたコミュニティ運営は、続くための設計を選び続けたことが要因だと考えています。みやこでITが京都で続いてきた理由を整理すると、次の5つにまとめられます。
第1に、京都に必要な役割を明確に持っていたことです。
みやこでITは、京都のITエンジニアが継続的に接点を持てる基盤をつくるという役割を持っていました。
第2に、新規集客よりも定着を優先してきたことです。
地方では毎回新しい人を大量に呼び込む戦いをしても疲弊します。1度来た人が戻ってこられる設計をつくる方が強い。この考え方は、みやこでITの参加費設計、歓迎の仕方、出入りの自由度などに反映されています。
第3に、会場を戦略項目として扱ってきたことです。
安くて入れる場所を探すだけではなく、コミュニティの空気や参加者体験をどう形づくるかを考えながら、京都らしい文脈を持つ会場にお世話になってきました。
第4に、反復可能な形式を中心に据えたことです。
毎回大きな企画を打つのではなく、もくもく会のような継続しやすい定番フォーマットを軸にすることで、参加者も主催者も無理なく続けられるようにしてきました。
第5に、主催者が燃え尽きない運営を選んできたことです。
地方コミュニティの本当の課題は、人が来ないことだけではありません。むしろ、主催者が疲弊して続かなくなることの方が大きなリスクです。みやこでITはこの現実を踏まえ、頑張りすぎない設計を選んできました。
自分が作った場に人がやってきて、喜んで帰ってくれる。これがなんとなく楽しくてのんびりと続けてきたことが現在につながっています。
みやこでITは
京都のITコミュニティから地域の接続点へ
継続する場は、やがて地域のハブになる
現在のみやこでITは京都のITエンジニアが集まる場であるだけでなく、企業、自治体、大学、海外コミュニティとの接続点にもなってきました。これは、単に活動領域が広がったという話ではありません。継続するコミュニティには、信頼が蓄積するということだと考えています。
イベントが1回だけ、1年だけだと「たまたま開かれた場」で終わります。しかし、何年も続いていると「ここに行けば誰かに会える」「この主催なら安心して参加できる」「ここなら雑に扱われない」という信用が積み上がります。その信用が企業との共催、自治体との接点、産学連携、国際交流などの起点になります。
この意味で、みやこでITは京都のITエンジニアコミュニティであると同時に、地域の中で技術人材とプロジェクト、人と人、地域と外部をつなぐインフラになりつつあります。地方において、こうした接続点は非常に重要です。地方は人が少ないからこそ、1つの信頼できる場が持つ影響が大きいからです。
こうして徐々に多様な拡がりや連携が生まれると、営業やプロモーション活動をせずとも、活動結果自体が呼び水となりさらなる連携へとつながります。
地方でITコミュニティを作りたい人が
みやこでITから読み取れること
再現可能な示唆がある
みやこでITの実践は、京都だけの特殊事例ではありません。重要なのは京都そのものではなく、その地域ならではの文脈をコミュニティ設計に組み込むことです。地方でITコミュニティを始めたい人にとって、参考になるであろう示唆は次の通りです。
まず、最初から大きく始めないことです。
少人数でも良いので、まず続けられる形を作ることの方が重要です。
次に、新規集客数ではなくリピート率を見ることです。
地方では1度来た参加者が戻ってくることの方が、その数字以上の価値を持ちます。コミュニティの厚みは延べ人数ではなく継続参加者によって作られるのです。
さらに、会場をコストで選ばないことです。
その地域らしい文脈を持つ場所があるなら、そちらとうまく連携することで記憶に残るコミュニティ体験を作れます。見た目の面白さも要素の1つですが、それよりも参加者の居心地が良く、また参加したくなる空気を作れるかどうかこそが大切です。
そして、参加しやすさを戦略として捉えることです。
初心者歓迎、1人参加歓迎、途中参加OK、途中退出OK、作業内容自由などなど。地方ITコミュニティにおいて参加母数を広げ、再参加率を高めるための合理的な設計です。
これらはどの地方のどの地域でも応用できる考え方です。学園都市なら学園都市の文脈、港町なら港町の文脈があります。東京のコピーを作るのではなく自分たちの地域で、誰が、なぜ、また来たくなるのかを設計していきましょう!
まとめ
みやこでITの本質は、京都に「また来られる場」を持ち続けてきたこと
みやこでITは京都のITエンジニアコミュニティとして、7年間にわたり場を継続してきました。京都という地域の中にITエンジニアや技術に関心のある人たちがまた戻ってこられる接点をつくり続けたことで、コミュニティというものが参加者に提供し得るであろう価値をちゃんと届けられてきたと感じています。
京都という、東京や大阪ではない地方都市で実践してきた1つの事例として、地方でITコミュニティを立ち上げたい方にとってこの実践が参考になればと嬉しいです。
ぜひ、みやこでITにも遊びに来てください!
【関連リンク】- 「みやこでIT」公式サイト:https://miyakodeit.com
- 「みやこでIT」connpassページ:https://mit.connpass.com
- 「みやこでIT」運営会社 Netsujo株式会社:https://netsujo.jp
