連載 [第3回] :
  Red Hat Summit 2017レポート

Red Hat Summit 2017 キーパーソンが語るOpenShift成功の秘訣

2017年5月31日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Red HatでOpenShift担当副社長を務めるAshesh Badani氏にインタビューを実施。OpenShiftが遂に離陸した背景や、新たに発表されたクラウドIDEであるOpenShift.ioについて話を聞いた。

2017年5月1日から4日までボストンで開催されたRed Hat Summit 2017は、一言で総括すると「OpenShiftが中心となったカンファレンス」というのがジェネラルセッションを聞いた印象だ。PaaSとしては後発で、Cloud Foundryには導入ユーザー数やコミュニティのサイズで遅れを取っているとしか言えなかったOpenShiftだが、どうしてここまで成長できたのか? OpenShift担当のVP(副社長)であるAshesh Badani氏にインタビューを行った。

OpenShift担当のVP、Ashesh Badani氏

OpenShift担当のVP、Ashesh Badani氏

今回のカンファレンスでは事例やデモなどでOpenShiftが大きくスポットライトを浴びていましたが、その背景を教えてください。

まず大きなトレンドとして、クラウドに対する意識が高まってきていることを挙げましょう。それはパブリッククラウドだけではなく、プライベートクラウドやハイブリッドクラウドなどクラウドを取り入れようとする企業がすごく増えてきているということですね。次にマイクロサービスというトレンドがあります。これはアプリケーションをより細分化して、クラウドにあった作り方にしようという流れです。マイクロサービス化することで、クラウドに最適のアプリケーションを実行できるようになります。次にDevOps、これはアプリケーションを開発する仕事と運用する仕事を近づけて、新しいアプリケーションをすぐに使えるようにするというニーズに応えていると思います。そして最後に、コンテナへの取り組みが企業にとってとても重要になってきていることです。以上4つの要因が大きいと思います。これは最初のクラウドとも関係しますが、開発したアプリケーションをオンプレミスでもクラウドでも自由に利用できるようにするためにの方法として、現時点では最適の解ではないでしょうか。そういった4つのトレンドが顕著になってきたということが、OpenShiftの拡がりを支えているということだと思います。

あなたの次の質問は「ではなぜOpenShiftはここまで盛り上がってきたのですか?」だと思いますので、それを先に答えましょう。OpenShiftが3.0で完全にメイクオーバーしたこと、つまりアーキテクチャーから全て作り直したことはご存知ですよね。

ええ、2年前にクリス・モーガンが来日した時のデモンストレーションを見ていますから(笑)

OpenShift 3.0で既存コードを捨てコンテナーに賭けるRed Hat

その時にあなたと話をしたことを覚えています(笑)。今回のサミットでは約30を超える企業がOpenShiftのユースケースとしてセッションを持っています。どれもPoC(実証実験、Proof of Concept)レベルではなく、現実にプロダクションシステムとして利用が行われているものです。VolvoやBMW、ディズニー/ピクサー、バークレイバンク、ブリティッシュコロンビア州の事例、シンガポールの事例など、どれも実用として稼働しているものです。それら全ての企業や組織が、DockerとKubernetesというコンテナ技術のデファクトスタンダードのオープンソースソフトウェアを使ったOpenShiftを支持しているということだと思います。

約2年でここまできたということですね。これまでOpenShiftやHeroku、Cloud FoundryはPaaSと位置付けられてきましたが、それはもう違うということでしょうか?

PaaSというのは、いわゆる「12ファクターアプリケーションを動かすためのもの」という意見があります。12ファクターと言うのは、もともとHerokuの中でアプリケーションが上手く動くようにするための指針だったわけですが、実際にはそのようなアプリケーションばかりあるわけではありません。エンタープライズの中で12ファクターに沿ったアプリケーションは10%程度で、残りの90%は既存のモノリシックなアプリケーションだという人もいます。そういうアプリケーションを動かすためにコンテナという技術が評価されていて、それを動かすためにOpenShiftが使われているのです。

実際に日本のお客様で、とても古いCOBOLのアプリケーションをコンテナに入れてOpenShiftで実行しているという例もあります。COBOLですよ(笑)。つまり新しいアプリだけではなく古いアプリも必要であり、それをクラウドのように実行できるプラットフォーム、それがOpenShiftということです。それとコンテナ、DockerだけではなくLinuxコンテナに関して、我々だけではなく業界の全てのプレイヤーがサポートしているという事実があります。これはコンテナという技術をエンタープライズが真剣に評価して、使い始めることを後押ししていると思います。すでに「Container as a Service」というトレンドも来ていますし、OpenShiftをPaaSと呼ぶのは、もはや妥当ではないと思いますね。

OpenShift.ioについて教えてください。

これはブラウザベース、クラウドベースのIDEで、ベースになっているのはEclipse Cheです。そこにGitHub、OpenShift Online、Jenkins、などを組み合わせています。しかしそれだけではなく、機械学習ベースのレコメンデーション機能を備えています。これは、例えば利用しているコンポーネントが脆弱性を持っているのであれば、より新しいバージョンを提案するというものです。Jenkinsを活用したパイプライン機能もあります。単にブラウザで実行できるIDEというものではなくて、次世代のIDEという位置付けがふさわしいでしょう。

OpenShift.ioのパイプライン機能はとても初歩的という気がしますが、それは今後強化されるのでしょうか?

パイプライン機能が未熟であるというのは理解しています。まだこれはプレビューの段階なので、今後、他のツールを統合して拡張していくことを予定しています。そのようなツールの拡張をプラグインできるようにする土台は、OpenShift Onlineの基本的なアーキテクチャーです。他にも日本の「カイゼン」が基となったかんばんの機能も組み込んでいますので、単なるIDEではなくコラボレーション、レコメンデーションの機能を含んだ次世代のIDEということになります。他のRed Hat製品と同様に、全てオープンソースソフトウェアとして公開します。

レッドハットとしては来年のサミットに日本からのOpenShiftの事例が必要ですね(笑)

そうですね。日本は欧米と比べて保守的と言われますが、すでにOpenShiftの事例も出てきています。パイオニアのカーナビゲーションのバックエンドは、OpenShiftで動いていますよ。来年は、日本のお客様の事例を紹介できることを期待しています。

OpenShiftの完全なリアーキテクチャーから約2年、サミットの中でここまで大きく取り上げられる理由の一つに、コンテナという技術が成熟してきたことを挙げたBadani氏であったが、ブラウザベースのIDEであるOpenShift.ioも発表し、「OpenShiftは進化を止めずに、さらに進んでいく」という意思表明ともとれるインタビューであった。ちなみにジェネラルセッションで政府系機関、金融系の事例が多かったのは、一般的に保守的と思われる種類の組織であっても、すでにOpenShiftを使った本番系システムが稼働していることを訴えたかったのであろう。来年のサミットでは、OpenShiftの日本からの事例が発表されることに期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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