AIは実社会でどのように活用されているのか⑤ー画像認識(3)(Image Recognition)

2022年3月16日(水)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

前回は駅や空港、駐車場などの交通機関や地域まるごと顔認証決済の取り組みを紹介しました。今回は自動運転車や衛星データ利用などの実状を紹介します。AIの画像認識技術を使って、近未来にどのような社会が実現しそうなのかを感じながら読み進めてください。

自動運転車

自動運転は、アメリカの自動車技術会(SAE)の基準が世界標準となっており、表1のようにレベル1から5まで定められています。

表1:自動運転の基準(SAE)

レベル 名称 主体 走行領域
0 自動化なし 限定なし
1 運転支援 限定的
2 部分運転自動化
3 条件付き運転自動化
4 高度運転自動化
5 完全運転自動化 限定なし

一般に、レベル2がハンズオフ(手の開放)、レベル3がアイズオフ(目の解放)、レベル4がブレインオフ(脳の解放)と言われています。レベル4は走行領域が限定されていますが、技術的にはドライバーなしで走れるレベル5に近い水準です。2022年現在、自動運転車はどこまで実用化に迫っているのか見ていきましょう。

少し前まではレベル2とレベル3でした。レベル2は人が運転しますが、レベル3からは運転の主体が車になります。アウディが2017年にAude A8に搭載したAudi AI Traffic Jam Pilotという機能がレベル3の先陣を切り、ホンダも2021年3月に新型LEGENDにTraffic Jam Pilotというレベル3の自動運転機能を搭載しています。

ロボタクシー(Robotaxi)

現在、世界の水準はレベル4まで到達しています。米国や中国ではドライバーが乗っていないロボタクシーがあちこちで試験運転され、すでに商用運転も始まっています。早くから取り組んでいる地域がカリフォルニア州で、車両管理局(DMV)から認可を受けている企業(Permit Holders)の一覧がホームページで公開されています。

これによるとセーフティドライバー付きのテスト走行が許されている(Testing with a Driver)のが2022年2月18日時点で49社あり、この中にトヨタやホンダ、日産、BMW、ベンツ、フォルクスワーゲン、テスラなど大手自動車会社が含まれています。ドライバーが乗らない完全無人の試験走行(Driverless Testing)が許可されているのは、2021年11月19日時点で米国勢がWaymo、Cruise、Zoox、NUROの4社、中国勢がAutoX、Apollo、Werideの3社です(Pony.aiは事故により一時停止中)。このうちCRUISEとWAYMOとNUROの3社は2021年9月30日時点で商用展開(Deployment)が許可されています(NUROはタクシーじゃなく配送目的)。

中国勢のAutoX、Baidu、WeRide、Pony.aiは、深センや北京など中国本土でも試験走行しており、米国を猛追している状況です。表2に主なロボタクシーを紹介します。各社とも技術的にはほぼレベル4をクリアしており、今後、続々と認可を受けて無人タクシーが走っている風景があちこちで見られそうです。

表2:各国の主なロボタクシー

メーカー サービス動画 状況など
Waymo 米国 Waymo One Alphabet傘下のスタートアップ
GM Cruise 米国 Cruise Origin カリフォルニアで最初の無人タクシー
Argo AI 米国 Argo AI フォードとVMが支援。タクシーの他に、ウィルマートやドミノピザの配送実験など
Zoox 米国 Zoox amazonが買収。ラスベガスやサンフランシスコの公道で走行実験
AutoX 中国 AutoX アリババが支援。深センで無人タクシー運行開始
Baidu 中国 ApolloGo 長沙、滄州、北京、広州、上海などで走行
WeRide 中国 WeRide 広州汽車集団が支援。広州などで運行
Pony.ai 中国 Pony.ai トヨタや第一汽車集団も出資。北京やカリフォルニアなどで走行
Yandex ロシア Yandex ロシアの検索エンジン大手が開発。ロシア国内やラスベガス、ミシガンで走行実験
日産/DeNA 日本 Easy Ride 日産とDeNAが設立。ドコモと共同で2021年9月に横浜で約1ヶ月間実証実験
トヨタ 日本 e-Palette 2021年東京オリンピック選手村で利用

カリフォルニアの認可を見ると、大手自動車会社がドライバー付きの技術を目指している間に、豊富な資金調達を得たスタートアップが最初からレベル4、レベル5を目指して成功しているように思います。それらの多くが4、5年くらいで実用レベルに達しており、そのスピード感には本当に感心します。

日本は遅れを取っています。日産とDeNAが立ち上げたEasy Rideがドコモと共同して1ヶ月あまり横浜で実証実験したり、トヨタのマイクロバスe-Palleteがオリンピックの選手村に使われたという程度です。本格的に市中を走っている米国や中国との差が開きつつあります。官民一体となって市中走行にチャレンジしないと追いつけなくなりそうです。

自動運転バス

マイクロバス、小型バス、大型バスなどの自動運転バスの実証実験も各地で行われています。マイクロバスでは、ソフトバンク系のBOLDLY社がフランス製NAVYA ARMAを使って茨城県境町や北海道士幌町、羽田空港、岐阜市、名古屋市、福岡市、丸の内、万博公園など各地で実証実験を行っています。

また、小型や大型バスの方でも、滋賀県大津市の京阪バス兵庫県三田市の神姫バス北九州市の西鉄バス新宿の京王バス栃木県小山市の先進モビリティバス日立市の茨城交通バス横浜市の神奈川中央交通バス相鉄バス沼津市の群馬大学バス、那覇空港飯能市の西武バス気仙沼線のBRTなど各地で続々と実証実験がなされています。

まだ、運転手が同乗する、20〜40km程度の低速、期間限定の実証実験である、などの制約があるのですが、これだけ多くの地域で公道を走る実証実験を行っているのであれば、日本ではロボタクシーより早く実用化されるかも知れません。

船舶

自動運転車では、車や人などを物体検知を使って認識しています。これと同じように船舶を物体検知して航海の安全に役立てる実証実験も行われています。

船舶画像認識

2019年9月に商船三井はセンスタイムジャパン社と共同で船舶画像認識システムを“にっぽん丸”に搭載して実証実験を行いました。紹介動画を見るとまさに自動運転車の船版という感じで、大型・小型関係なく船を検知している状況がわかります。そう遠くない将来、このような安全装置が船舶に標準装備される期待を感じさせられます。

衛星画像による船舶検出

にっぽん丸は船に取り付けたカメラ画像でしたが、衛星画像を用いて船舶を検出する取り組みも行われています。前回、衛星画像を使って駐車場の車両カウントなどのサービスを提供しているオービタル・インサイト社を紹介しましたが、この会社は2021年12月に船舶、航空機、車両などさまざまな対象を検出できる「マルチクラスオブジェクトクラス」を発表しました。こちらの動画を見ると、民間利用というよりも各国の軍隊の情報取得に使われていそうですが、最初は軍事利用から始まって民事に広がるのが世の常なので、将来は船の安全航行や経済分析などに役立つようになるでしょう。実際、ウクライナの戦争でもPlanet、Maxar、BlackSky、Capella Spaceなど多くの民間企業がロシア軍の動きを示す画像を提供しているそうです。

日本でも2019年11月よりスカパーJSATとその子会社の衛星ネットワーク(SNET)が「低軌道衛星画像を用いた高頻度船舶検出サービス」を提供するというニュースリリースが出ています。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部、2019年東証スタンダード上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」「エンジニアなら知っておきたい システム設計とドキュメント」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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