エンジニアなら知っておきたい AIのキホン 2021年版 13

AIは実社会でどのように活用されているのか⑦ー画像認識(5)(Image Recognition)

梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

2022年6月9日 6:30

目次

  1. はじめに
  2. 医療への取り組み(ガバメント)
  3. 画像診断支援の仕組み CADの機械学習 AIによる取り組みで期待が大きい画像診断支援(表1の③)の現状を見てみましょう。一般にAIなどコンピュータによって病巣の検出や診断を行う技術のことをCAD(Computer Aided DetectionまたはDiagnosis)と呼びます。DがよくあるDesign(設計)ではなく、Detection(検出)やDiagnosis(診断)になっているのでご注意ください。どちらもCADだとややこしいので、検出(Computer Aided Detection)をCADe、診断(Computer Aided Diagnosis)をCADxと呼びます。CADeは病変を疑う箇所にマーキングするAI、CADxは病変の良性・悪性の度合いを数値化するAIです。 レントゲンやエコー、MRIなどの診断画像をもとにがんやポリープなどの疾患を発見するCADにおけるAIは、医療を飛躍的に向上させる技術として期待されました。そして、現在に至るまで世界中で実証実験や実用化が行われています。 AIと言っても、SVM(サポートベクターマシン)などの統計技術ベースで異常を検知する手法とディープラーニングを使う方法があります。基本原理は図4のように学習フェーズと本番フェーズからなる機械学習です。ディープラーニングのケースで解説しましょう。
    図4:ディープラーニングによる画像診断の学習と推論
    学習フェーズでは、正常な患部画像と病巣のある画像とを用いて診断AI(Diagnostic)を学習します。AIが正常か病巣ありかを判定し、間違った場合にそれをフィードバックすることで誤差逆伝播という仕組みでAIの判定能力が高まっていきます。 推論フェーズでは、学習済AI(高い精度で異常を指摘できる)を実際の読影に使います。AIの学習は「学習用のデータを用意するのが大変」という課題がありますが、こうして本番で使った画像はそのままラベル(異常あり/異常なし)を付けて蓄積できるため、それらを使うことで追加学習し、精度を高くできます。 CADの利用形態(AIと医師の位置関係) AI(CAD)が医師の助手だとして、助手の立ち位置が前か後かによって3つの利用形態があります。
    • a. First Reader:AIがスクリーニングし、異常の可能性がある画像のみ医師が診る
    • b. Concurrent Reader(同時リーダー):AIが判定した画像を医師も同時に読影する
    • c. Second Reader:医師が読影した後、AIが画像診断する
    図4の推論フェーズの場合、AIがスクリーニングして病巣の疑いがある画像だけ医師が診るのがFirst Readerです。一方、AIの判定(一次)した画像を全て医師が判定(二次)するのがConcurrent Readeです。こちらは医師の省力化にはなっていませんが、医師が見過ごしてしまうような異常をAIが発見することが期待できます(文書ソフトが入力ミスの疑いある箇所に下線を引いてくれるような役割ですね)。 一方、最初に医師が読影し、その後AIが判定するのがSecond Reader(図5)です。従来通りの読影作業の後段に、AIが念のために読影漏れを調査するスタイルです。現在、薬事承認を受けているAIはほとんどSecond Readerで、AIの診断に影響されずに今まで通りやりなさいということですね。人体に関わることなので慎重にAI活用が試されている段階です。
    図5:Second Reader
    AIの画像診断は、レントゲン(X線検査)、CT(コンピュータ断層撮影検査)、MRIやMRA(磁気共鳴画像診断検査)、エコー(超音波検査)、PET(核医学検査)、内視鏡検査など、さまざまな検査で取り組まれています。テレビドラマの「ラジエーションハウス」で一躍知られるようになった放射線技師の仕事はこれらの撮影と読影補助ですが、AIがそれを支援してくれるわけです。 人間の体を製品に見立てれば、工場における異常検知と仕組みはほぼ同じです。工場の製造ラインの検査の多くがリアルタイム検査なのに対し、診断AIは画像をバッチ処理で判定できるケースも多いのが特徴です。人間ドッグや学校健診などで撮影された大量画像を一気に検査・スクリーニングしてくれるAIという感じですね。ただし、内視鏡やエコーなどは医師が体内を診ながら検査する方法なので、AIも疑わしい箇所をリアルタイムでマーキングします(同時リーダー方式)。
    <<Note>>世界初の商用CAD
    世界で初めて商品化されたCADは、R2テクノロジー社のImage Checkerです。マンモグラフィー(乳房専用のX線撮影)の画像から乳がんを検出するもので、1998年に米国FDAから認可を受け、2000年に日本の薬事承認を得ています。それから20数年間の間に撮像技術が多様化する中で、AIの登場により検出や診断技術の飛躍的な向上が期待されているのです。
    実用化の状況 実際、画像診断AIの実用化はどのくらい進んでいるのでしょうか。一般にAI活用は、①研究→②実証実験→③発売→④実用というステップで社会に浸透します。表2に日本におけるCAD取り組みの主なニュースリリースをまとめました。画像の種類によって進んでいる技術とまだ時間がかかりそうな技術があります。プレイヤーはかなり多く、“実用化に向けて研究・開発中”というリリースも多いため、ここでは薬機法承認、発売開始といったステップ③まで到達したもののみピックアップしています。
    表2:日本における主なCAD事例のニュースリリース 画像 企業 内容 システム名 リリース 内視鏡 オリンパス/サイバネット 浸潤がん診断(発売)
    大腸炎症診断(発売) EndoBRAIN-Plus
    EndoBRAIN-UC 2021/1/27
    2021/1/27 内視鏡画像診断支援ソフトウェア(薬機法) EndoBRAIN-EYE 2020/3/2 富士フィルム 内視鏡診断支援機能(発売) CAD EYE 2020/10/26 NEC バレット食道腫瘍検知大腸腫瘍(CEマーク) WISE VISION Endoscopy 2021/7/14
    2021/05/28 CT/血管撮影 富士フィルム 肋骨骨折検出(薬機法承認) SYNAPSE SAI Viewer 2021/10/7 キヤノンメディカルシステム 超解像度画像再構成AI(販売開始) PIQE
    ADCT 2021/11/25 エルピクセル 胸部CT画像の読影を支援(販売開始) EIRL Chest CT 2022/4/4 島津製作所 血管撮影画像処理にAI搭載(発売) Trinias 2022/4/11 X線 エルピクセル 胸部X線画像の読影を支援(販売開始) EIRL Chest Screening 2022/4/4 島津製作所 X線TVシステムの画像処理AI(開発) SONIALVISION 4G 2022/4/7 MRI/MRA エルピクセル 脳動脈瘤の診断を支援(薬事承認) EIRL Aneurysm 2019/10/15 Splink 脳画像解析で認知症診断支援(薬事許可) Braineer
    Brain Life Imaging 2021/6/15 超音波
    内視鏡 内視鏡は、オリンパス、富士フィルム、ペンタックス メディカルの3社で世界の9割以上のシェアを持つ医療機器で、CADの実用化も進んでいます。 オリンパスは、サイバネットシステムが薬機法承認取得した内視鏡画像診断支援システム「EndoBRAIN-EYE」を販売しています。2021年2月5日には、大腸内視鏡でリアルタイムに浸潤がんの診断をサポートする「EndoBRAIN-plus」と炎症活動性評価をサポートする「EndoBRAIN-UC」という2製品を出しています。 一方、富士フィルムは2020年11月30日に内視鏡診断支援機能「CAD EYE」を富士フィルムメディカルを通じて発売しています。この分野にはNECも参入しており、2021年5月と7月にバレット食道や大腸の腫瘍検知を行う製品「WISE VISION Endoscopy」がCEマークを取得して欧州で販売開始すると発表しています。 内視鏡分野では、薬機法やCEマークを取得して、発売までこぎつけているのが特徴です。
    <<Note>>CEマークと薬機法
    CEマークとは、製品がEUの基準に適合していることを示すもので、EU領域内の自由な販売・流通が保証されます。一方、薬機法は、2014年の旧薬事法改正に伴い名称が変わったもので、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品の品質、有効性、安全性確保のための法律です。この薬機法に基づいて厚生労働省から承認を得ることを、薬事承認や製造販売承認、薬機法承認などと言います。
    X線 2014年に設立されたエルピクセルは、CADの分野で活躍しているベンチャー会社の代表格です。2020年8月には、胸部X線画像から肺がんが疑われる肺結節候補域の検出を行うEIRL Noduleを発売しています。2022年2月3日には、これに5つの計測機能を追加したEIRL Chest Screeningの発売を発表しています。 “匠の技をAIに”という取り組みは、多くの業界に共通するAI活用法の1つです。これをX線検査で取り入れたのが島津製作所です。放射線技師のノウハウを学習したAIを使って最適な画像を提供するソフトウェアを開発し、X線TVシステム「SONIALVISION G4」のオプションとして2022年4月7日から発売しています。これは撮影画像から最適な病変画像を抽出するスクリーニングにAIを用いたものです。以前に解説した“物体検知AI”に相当するもので、AIが診断をする“異常検知AI”ではありません。 CT 身体ごとドームの中に入って輪切り画像(断層映像)を撮影するCT(Computed Tomography)は、実はX線検査です。従来のレントゲン検査が一方向からX線を当てるのに対し、CTは周囲からX線を当てて3次元画像処理するため、より詳しく検査できます。CTのCADは以前から実用化が進んでいましたが、さまざまな用途にAIが使われ始めています。 キヤノンメディカルシステムズは、ディープラーニングを応用した超解像画像再構成技術を取り入れたCT装置を2021年11月25日から販売開始しています。超解像画像再構成とは、低解像度の画像から高解像度の画像を復元する技術のことで、刑事ドラマで監視カメラのぼやけた画面をはっきりさせる魔法のシーンを実現しているのがこれです。この製品は超解像度画像再構成技術にAIを活用したもので、画像診断そのものにはAIを利用していません。 富士フイルムは、AI画像診断プラットフォーム「SYNAPSE SAI viewer」を用いた肋骨骨折検出プログラムを2021年10月7日より発売しています。こちらもディープラーニングをワークフロー支援という設計技術に応用したもので、画像診断そのものにはAIを利用していません。 エルピクセルもCT向けソフトを出しています。2022年4月4日の発表では、AI画像診断支援技術「EIRL」を使った胸部CT画像読影支援システム「EIRL Chest CT」を発売開始しています。これは、観察対象領域(疑わしい部分)を抽出して、その体積と最大径を測定するもので、CADe(検知AI)の使い方になります。 島津製作所は、血管撮影システム「Trinias」を2022年4月11日に国内販売開始しました。こちらは、X線の照射線量を削減しても視認性を向上できるように、画像処理エンジンとしてAIを搭載しています。 MRI/MRA 脳の細胞に電磁波を当て、含まれる水を共鳴させて脳の画像を得る検査方法がMRI(磁気共鳴画像撮影法)です。ドラマなどでアルツハイマー病患者の脳画像を診ているシーンに出てきますね。一方、MRA(磁気共鳴血管撮影法)は同じ電磁波を使う検査ですが、脳血管のみを浮き立たせた画像です。こちらは、クモ膜下出血の原因となる脳動脈瘤などを見つけるのに使われます。 ここでは、ベンチャー企業2社の取り組みを紹介しましょう。エルピクセルは、2019年10月15日にMRI画像から脳動脈瘤の診断を支援する画像解析ソフトウェア「EIRL aneurysm」の薬事承認を得て発売すると発表しています。 もう1社は2017年に設立されたSplinkです。こちらは、2021年6月15日に脳画像解析プログラム「Braineer」が認知症診断を支援するソフトウェアとして薬事承認を取得したことを発表しています。 エコー(超音波) エコー検査は、診察台に横たわってゼリーを塗って超音波を当てる検査で、受けたことのある人も多いと思います。超音波プローブから発した超音波が体内の臓器ではね返ってくるのを画像として映し出すもので、内視鏡と同じくリアルタイム検査です。 エコーのAI CADの取り組み事例を探したのですが、これといった実用化のニュースは見つかりませんでした。術者の技量レベルのばらつきや機種が多いことなどによる画像の多様性の高さが課題のようです。現在、日本超音波医学会がAMADの支援を受けて大規模なデータベース構築とAI開発を行っており、これからの実用化が期待されます。 おわりに 医用分野におけるAIの活用は、4年前に期待したレベルにはまだ到達していないようです。私も工場製品の異常検知システムに4年間携わっているので、次々にぶち当たる課題を克服していきながら実用化に近づいていく苦労がよく理解できます。 でも、ようやく早春の野山のように息吹が芽生えてるのを感じます。芽が出たらその後の成長は早いです。医用のCADと工場の異常検知の画像処理分野において、ほぼ同時にAIが実用化され花開く時代が確実に来ていると思います。
  4. 実用化の状況
  5. おわりに

はじめに

2018年のAIブームの頃に、AI活用が大きく期待された分野の1つが医療です。皮膚がんを見分ける、内視鏡でがんを発見する、創薬分野で新薬を生み出す、慢性病の予防、など多くの取り組みが紹介され、世界中でスタートアップ企業が誕生しました。あれから4年、医療分野におけるAIの浸透、実用化はどうなっているのでしょうか。

医療への取り組み(ガバメント)

まずは、厚生労働省の取り組み状況から見ていきましょう。

保健医療分野AI開発加速コンソーシアム

厚生労働省は、2018年に「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」を設置し、保健医療分野におけるAI利活用を加速するための検討を行っています。2018年7月の第1回 検討会資料では「AIの実用化が比較的早いと考えられる領域」として下表①〜④、「AIの実用化に向けて段階的に取り組むべきと考えられる領域」として⑤⑥が挙げられ、それぞれの実用化に向けた工程表を示しています。

4年後の2020年5月に開催された第11回検討会の資料では、これらの6領域に加えて⑦〜⑨の3領域が追加され、これまでの進捗を踏まえて2020年以降の工程表が提示されています。

表1:保険医療分野AI開発加速コンソーシアムの工程表

第1回の工程表(2017〜2021以降) 第11回の工程表(2020〜2023以降)
①ゲノム医療 ①ゲノム医療
②画像診断支援 ②画像診断支援
③診断・治療支援 ③診断・治療支援
④医薬品開発 ④医薬品開発
⑤介護・認知症 ⑤介護・認知症
⑥手術支援 ⑥手術支援
⑦予防(PHR)
⑧人工知能開発基盤
⑨支払業務の効率化
関連する法制度

各領域の関係は、図1の俯瞰図がわかりやすいです。医療分野全体を「予防」「診断」「治療」「ケア」領域と「医療・支援技術」「基盤整備」領域に整理し、表1の9項目がマッピングされています。

健康・医療・介護・福祉分野においてAIの開発・利活用が期待できる領域

図1:健康・医療・介護・福祉分野においてAIの開発・利活用が期待できる領域【出典】保健医療分野AI開発加速コンソーシアム

2つの工程表を比較してみると、2018年の(参考)工程表では3年後の2021年頃には各領域で「実用化」を期待していたのに対し、2020年の工程表では少し遅れている状況が見てとれます。

2022年4月に行われた第12回検討会では、2021年10月から5回にわたって行われた「新AI戦略検討会議」のアウトプット「新たなAI戦略について」が説明されています。この資料の中でも「各取り組みはおおむね計画通り進捗しているが、進行中の取組が多く、効果に付いては、まだ十分に実感できていない」と認めており、新たなAI 戦略の目標設定を行う必要があるとして5つの戦略目標を掲げています(図2)。

  • 戦略目標0:非日常への対処
  • 戦略目標1:人材
  • 戦略目標2:産業競争力
  • 戦略目標3:技術体系
  • 戦略目標4:国際
「AI戦略2022」の概要

図2:「AI戦略2022」の概要【出典】新AI戦略検討会議

人材を育成し、産業競争力を付け、技術体系を確立し、国際社会と連携するという4つの戦略目標とともに、目標0としてパンデミックや大規模災害など“非日常への対処”を差し迫った危機への対処として挙げているのが特徴ですね。

今後「特に重点的に議論していく内容」として「AI利活用を支えるデータの充実」「人材確保等の環境整備」「日本が強みを有する分野とAIの融合」の3つを掲げており、具体的な取り組みは民間企業や大学などの研究機関に、その支援はAMEDなどに任せて、政府の立ち位置を意識した戦略を論じる方向性を感じます。

AMED(Japan Agency for Medical Reserch and Development)

AMEDとは日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Reserch and Development)の略で、2015年に設立された日本の医療研究開発を支援する独立行政法人です。日本版NIH(アメリカの国立衛生研究所)とも呼ばれる組織で、図3に示す6つの「統合プロジェクト」モダリティ(分類)において研究開発の推進と成果の実用化に取り組んでいます。

6つのプロジェクトを横断して疾患研究を推進

図3:6つのプロジェクトを横断して疾患研究を推進【出典】AMEDのホームページ

画像診断支援の仕組み CADの機械学習

AIによる取り組みで期待が大きい画像診断支援(表1の③)の現状を見てみましょう。一般にAIなどコンピュータによって病巣の検出や診断を行う技術のことをCAD(Computer Aided DetectionまたはDiagnosis)と呼びます。DがよくあるDesign(設計)ではなく、Detection(検出)やDiagnosis(診断)になっているのでご注意ください。どちらもCADだとややこしいので、検出(Computer Aided Detection)をCADe、診断(Computer Aided Diagnosis)をCADxと呼びます。CADeは病変を疑う箇所にマーキングするAI、CADxは病変の良性・悪性の度合いを数値化するAIです。

レントゲンやエコー、MRIなどの診断画像をもとにがんやポリープなどの疾患を発見するCADにおけるAIは、医療を飛躍的に向上させる技術として期待されました。そして、現在に至るまで世界中で実証実験や実用化が行われています。

AIと言っても、SVM(サポートベクターマシン)などの統計技術ベースで異常を検知する手法とディープラーニングを使う方法があります。基本原理は図4のように学習フェーズと本番フェーズからなる機械学習です。ディープラーニングのケースで解説しましょう。

ディープラーニングによる画像診断の学習と推論

図4:ディープラーニングによる画像診断の学習と推論

学習フェーズでは、正常な患部画像と病巣のある画像とを用いて診断AI(Diagnostic)を学習します。AIが正常か病巣ありかを判定し、間違った場合にそれをフィードバックすることで誤差逆伝播という仕組みでAIの判定能力が高まっていきます。

推論フェーズでは、学習済AI(高い精度で異常を指摘できる)を実際の読影に使います。AIの学習は「学習用のデータを用意するのが大変」という課題がありますが、こうして本番で使った画像はそのままラベル(異常あり/異常なし)を付けて蓄積できるため、それらを使うことで追加学習し、精度を高くできます。

CADの利用形態(AIと医師の位置関係)

AI(CAD)が医師の助手だとして、助手の立ち位置が前か後かによって3つの利用形態があります。

  • a. First Reader:AIがスクリーニングし、異常の可能性がある画像のみ医師が診る
  • b. Concurrent Reader(同時リーダー):AIが判定した画像を医師も同時に読影する
  • c. Second Reader:医師が読影した後、AIが画像診断する

図4の推論フェーズの場合、AIがスクリーニングして病巣の疑いがある画像だけ医師が診るのがFirst Readerです。一方、AIの判定(一次)した画像を全て医師が判定(二次)するのがConcurrent Readeです。こちらは医師の省力化にはなっていませんが、医師が見過ごしてしまうような異常をAIが発見することが期待できます(文書ソフトが入力ミスの疑いある箇所に下線を引いてくれるような役割ですね)。

一方、最初に医師が読影し、その後AIが判定するのがSecond Reader(図5)です。従来通りの読影作業の後段に、AIが念のために読影漏れを調査するスタイルです。現在、薬事承認を受けているAIはほとんどSecond Readerで、AIの診断に影響されずに今まで通りやりなさいということですね。人体に関わることなので慎重にAI活用が試されている段階です。

Second Reader

図5:Second Reader

AIの画像診断は、レントゲン(X線検査)、CT(コンピュータ断層撮影検査)、MRIやMRA(磁気共鳴画像診断検査)、エコー(超音波検査)、PET(核医学検査)、内視鏡検査など、さまざまな検査で取り組まれています。テレビドラマの「ラジエーションハウス」で一躍知られるようになった放射線技師の仕事はこれらの撮影と読影補助ですが、AIがそれを支援してくれるわけです。

人間の体を製品に見立てれば、工場における異常検知と仕組みはほぼ同じです。工場の製造ラインの検査の多くがリアルタイム検査なのに対し、診断AIは画像をバッチ処理で判定できるケースも多いのが特徴です。人間ドッグや学校健診などで撮影された大量画像を一気に検査・スクリーニングしてくれるAIという感じですね。ただし、内視鏡やエコーなどは医師が体内を診ながら検査する方法なので、AIも疑わしい箇所をリアルタイムでマーキングします(同時リーダー方式)。

<<Note>>世界初の商用CAD

世界で初めて商品化されたCADは、R2テクノロジー社のImage Checkerです。マンモグラフィー(乳房専用のX線撮影)の画像から乳がんを検出するもので、1998年に米国FDAから認可を受け、2000年に日本の薬事承認を得ています。それから20数年間の間に撮像技術が多様化する中で、AIの登場により検出や診断技術の飛躍的な向上が期待されているのです。

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