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iPhone7のイヤフォンジャック廃止は“見当違い”のイノベーションである

2016年9月14日(水)
ReadWrite Japan

先日Appleから発表があったiPhone7にはヘッドフォン端子がない、この情報は瞬く間にweb上をかけめぐり、携帯業界を騒然とさせた。また、新しくお披露目されたワイヤレスイヤフォン『AirPods』が$159で10月から販売されるということも発表された。AirPodsは普通のイヤフォンからケーブルを取ったような見た目をしている。思い切ったことをやるものだが、ひかえめに言っても多くの人々がこのワイヤレスイヤフォンに不信感を抱いている。

周りからの非難の声は大きく、「remove headphone jack」といったワードで検索をかければ批判はいくらでも出てくる状況だ。

なかでも極めつけが、電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)がAppleのヘッドフォンジャックの大失敗について書いた『Analog:DRMに対する最後の砦』という投稿だろう。

といっても、ワイヤレスイヤフォンがどこかに行ってしまったり電車の中で盗まれたりする可能性について48時間に渡って語られたところでたいして面白くはない。たしかに気になることではあるが、こういった懸念はAppleが今回の発表において欠けていた大事な観点に関わるものではないからだ。

それよりも気になるのは、「今回のAppleの決断は本当に非難されるべきことなのか」というところである。

パネル調査企業のNPD Groupは、今年の7月に米国でのBluetoothヘッドフォンの売上が初めて普通のヘッドフォンを上回ったと発表しており、それは金額にして54%、出荷台数にして17%を占めるに至ったという。完全にワイヤレスなイヤフォンに移行する動きはすでに始まっており、そのなかでもAppleは我々がこれまでに目にしてきたどこよりも迅速にそういった動きを拡大しつつあるのだ。

では、周りが同じような動きを取りつつあるなか、なぜAppleがこんなに叩かれることになったのだろうか? Appleに欠けていた観点とはなんだろうか?

これまでと同じイノベーションは通じない

先に述べたように、愛用していたヘッドフォンジャックが無くなることについては多くの意見が溢れている。しかし、なぜかこれまで支持していた企業が現在の定義でいうところの真にイノベーティブなものを作る機会を逸したことについては話に登らない。

テクノロジー分野は、常に「イノベーション」を追い求めている。新しければ売れる時代はとうに過ぎ、我々はそれを使うことによって生活がよりよくなると考えるためにモノを買う(新しいもの好きな人は除く)。

一度、これまでのAppleによる素晴らしいイノベーションの数々をふり返ってみよう。iPodにiPhone、iPad、iOS、どれもこれもホームラン級の発明だ。iOSに至っては、ただクールでシンプルで使いやすいだけでなく、新しいソフトウェアビジネスをも生み出した。これまでのイノベーションが意味するところは、たとえばiPhoneを通じて素晴らしいものを手に入れたり、常に娯楽を楽しんだりすることがより簡単になることや端末の軽量化・小型化、カメラをはじめ付属機能の性能向上を繰り返していくことである。

しかし、今日求められているイノベーションは、これまでのイノベーションとは異なる意味合いを持っているのだ。つまり、エンターテイメントを提供するデバイスを売り出したり、それらを小型化したり機能を追加したりすることは、2016年においてイノベーションとは言わないのだ。「求められるイノベーション」の性質の変化という観点がAppleの発表には欠けていた。

人々はいま、より本質的なものを要求している。それにもかかわらず、Appleはエンターテイメントを提供するデバイスを推し出したために叩かれることになったと言えるだろう。では、Appleはなぜこのような見当違いを起こしたのだろうか?

現代のイノベーションとは何か

現代のイノベーションは、「人としての状態や生活を改善することに真っ向から取り組むもの」であるべきだと私は考える。現代の偉大なイノベータたちは、全員この考え方をビジネスモデルに取り込んでいる。次に取り上げる取り組みは、まさに現代のイノベーションといえるものろう。

SpaceXの『Falocn 9』は先日フロリダ州で爆発事故を起こしたが、我々は居住可能な星の探索を再び考えなおしているところだ。人を他の星に移住させ、地球に与えられた時間は限られているという現実と向き合うことが現代でいうところのイノベーションになる。

Farmbot』は人類史上初の完全オープンソースの農業マシンだ。このマシンにより、生存するのにちょうど十分なだけの食料を誰もが作れるようになることで、食費やCO2排出量を低減でき、また肥満も解消されることになる。世界の肥満人口が6億4100万人に増加したこともふまえ、素晴らしいプロジェクトだ。

排泄物を飲み水に変えるというのもイノベーションの1つの形だろう。少なくとも20億人が、下水道が整備されていないトイレを使っていることを知っているだろうか? そこからの排泄物は多くの人々の飲み水を汚染している。そういった国々でなくとも、米国ですら綺麗な飲み水を調達することは難しい問題になってきているのだ。

さて、“ヘッドフォンジャックをなくしイヤフォンを無線化する”ことで人生をどう改善しようというのだろう? 無理な話だ。

ヘッドフォンジャックをなくす程度では不十分

端的に言って、Appleには期待を裏切られた。ヘッドフォンジャックを取り払ったからではなく、つまらないワイヤレスイヤフォンを作って、それをやるのに大きな決断が必要だったなどと吹聴しているところにだ。

ワイヤレスイヤフォンでイノベーションを起こすというのならば、音楽や電話の着信以上のものを提供しなければならないだろう。大事なことなので二度言うが、エンターテイメントを提供するデバイスを売り出したり、それらを小型化することはすでにイノベーションとは言わない。それらは、「あったらいいな」と思うものでしかない。

現代のイノベーションとは、ここでは五感(この場合は聴覚)を補い、コントロールするようなものを指すだろう。厳しいタスクだ。インテリジェントになにかを聴き、コンシューマが周りをどう捉えるかをコントロールできる何か。Appleの発表はそういったものを提案できなかった。そういうことだろう。

ものを聴くことは難しい

Appleがヒアラブルデバイス会社でないことは理解しており、また、彼らが相手にしている市場はヒアラブルデバイス市場よりもずっと大きなものである。だが、聴覚を扱うことはそう簡単なことではない。インテリジェントで真にワイヤレスなイヤフォンに求められるものは、音響学、RF技術、高度に小型化された電子部品、音声処理、芸術的なソフトウェア技術に素晴らしい工業デザインだ。

なんとも専門的な技術の羅列が続いたが、それだけではない。それら以上に「コンシューマが抱える問題は何か」、そして「それをどうすれば解決できるか」についての核心を掴み深く考えることが必要となる。

さて、ヒアラブル分野で活躍するイノベータたちは、誰しも製品のクオリティで頭を悩ませている。耳から耳へのコネクティビティや携帯へのBluetooth接続、ゴテゴテしすぎたUI、低い音質、挙げていけばきりがない。いまのところ人々の期待に応える真のワイヤレスイヤフォンというものは出てきていないが、Appleの今回のニュースはその流れを変えるものになるかもしれない。

関連記事:ウェアラブルの次は”ヒアラブルデバイス”が来る?

iPhoneからイヤフォンジャックが消えたことで、世の中はワイヤレスイヤフォンの開発の話で持ち切りだ。補聴器業界の手元を離れ、我々の耳は、生活を根本的な部分から改善するイノベーションのプラットフォームとして、今後企業の注目を集めていくだろう。我々の生活に眼鏡ケースが欠かせないように、今後イヤフォンチャージも必需品となっていく時代に変わるのかもしれない。

そして先日、Apple公式サイトに『AirPod Strap』という名の左右のヘッドフォンを白いコードでつなぐだけのアクセサリが登場した。これで無くさずに済むと喜ぶ声もあるが、大半はワイヤレスイヤフォンの意味がない、完全に退化だというような反応を見せている。

なにはともあれ、これまで1つだった商品が2つになったことで、商売の選択肢が増えたのは間違いない。本質的なものではなかったかもしれないが、次のイノベーションを生むための土壌を作り種を撒いたと表せるだろう。

※ゲスト執筆者のDavid Canningtonはオーディオ用ウェアラブルデバイス企業Nuhearaの創設者の一人である。

ReadWrite[日本版] 編集部
[原文4]

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