第4回:北東アジア編 (2/3)

世界各国政府のオープンソース採用動向
世界各国政府のオープンソース採用動向

第4回:北東アジア編
著者:三菱総合研究所  飯尾 淳   2005/5/13
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東アジア〜東南アジア〜南アジアに跨る活動

   経済産業省は日中韓での連携を進める一方で、東南アジア・南アジアを含めた、より広い地域におけるOSS普及活動も進めています。こちらはCICC(財団法人国際情報化協力センター)が中心となって実施しているアジアOSSシンポジウムです。

   アジアOSSシンポジウムは北東アジアOSS推進フォーラムよりも歴史が古く、第1回目は2003年3月にタイ国のプーケットで開催され、春と秋の年2回のペースで開催されています。2005年3月の第1週には第5回アジアOSSシンポジウムが北京で開催されました。中国ではこの週を中国OSS週間として、アジアOSSシンポジウムと前後してDebianミニカンファレンスおよびコードフェスタ(注)を開催しました。

注: ふだんネットワークを介して共同作業するOSS開発者たちが、寝食を共にしてハックするイベント。
国策としてのLinux政策と新華Linuxの台頭

   中国では1999年の後半頃からOSSに対する意識が高まりはじめました。その頃からコミュニティ活動も盛んになりはじめています。当初中国では、国家防衛のためにOSSの利用意識が高いといわれていました。しかし現在では、国際的な協調関係を保ちつつ欧米の特定企業に縛られないソフトウェア開発ができるプラットフォームとして、さらには中国国内における産業振興の道具として認識し、OSS振興に力を入れているようです。

   中国政府は初期のころから国策として、中国版Linuxの開発を促進してきました。なかでも比較的早い時期に開発されたRed Flag Linux(紅旗Linux)や、その改良版であるYangfan Linux(揚帆Linux)、Qihang Linux(起帆Linux)が有名です。

   最近では、Sun Wah Linux社(新華Linux有限公司)の台頭が目立ちます。新華Linuxは香港・南京を拠点とする企業で、Sun Wah Hi-Tech Group(新華科技集団)の一員です。耳に新しい話題として、VA Linux Systems Japan社と新華LinuxがDebian Projectに関連したビジネスの推進を目的に戦略提携したニュースを思い出された方も居るのではないでしょうか。新華Linuxは中央政府とも太いパイプを持っているようで、先に紹介した第5回アジアOSSシンポジウムでも新華科技集団はスポンサーとなっており、その影響力をアピールしていました。


人材育成に力を入れる中国

   中国ではOSS関連技術者の人材育成にも注力しています。2003年には北京市科学技術委員会の指導のもとに「Linux 1+1+1」教育プロジェクトがはじまりました。このプロジェクトでは2006年までに10,000名のLinuxユーザ、1,000名のLinux技術者、100名のLinux教師の育成が目標とされています。プロジェクトを運営するThiz Technology社(即時科研集団有限公司)では15の教育コースが用意されており、それぞれに対応するLinux技術者認定制度「ThizBEST」が提供されています。

   一方、情報産業部の傘下で標準化を担当するCESI(China Electoronics Standardization Institute)、北京ソフトウェア産業促進センター、および新華LinuxがLPI(Linux Professional Institute)に対応する認定制度とそれに対応する教育の提供を進めています。

   さらに、中国各地にある35箇所のソフトウェア技術学院でLinux技術の教育コースも用意されるようになりました。そこでは組み込みLinuxからWebアプリケーション開発、各種サーバの設定と運用など24種類のコースが提供されています。

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三菱総合研究所
著者プロフィール
株式会社三菱総合研究所  飯尾 淳
情報技術研究部  主任研究員
1994年(株)三菱総合研究所入社。並列計算機関連、ソフトウェア工学、音響・画像処理関連と幅広いテーマで先端情報技術の研究開発業務に従事。専門は、画像処理とユーザインタフェース。著書に「Linuxによる画像処理プログラミング」、「リブレソフトウェアの利用と開発〜IT技術者のためのオープンソース活用ガイド〜」など。技術士(情報工学部門)。


INDEX
第4回:北東アジア編
  今回は
東アジア〜東南アジア〜南アジアに跨る活動
  コミュニティ、開発者を支持する活動も
世界各国政府のオープンソース採用動向
第1回 欧州編(前編)
第2回 欧州編(後編)
第3回 米国・南米編
第4回 北東アジア編
第5回 アジア・オセアニア編
第6回 日本編(地方自治体編)
第7回 日本編(中央官庁編)

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