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オープンソースの適用可能性を示す
オープンソースの適用可能性を示す

第1回:ユーザ企業におけるOSS浸透のカギはメインフレーム世代のSE
著者:NPO法人オープンソースソフトウェア協会  小碇 暉雄
2006/3/13
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ソフトウェア産業の変革

   日本のソフトウェア産業は、大きな過渡期を迎えつつある。そこには以下の3つの側面がある。
  1. 長年、情報システム部門でメインフレームなどの基幹業務システムを、開発・保守してきた団塊の世代が一斉に引退する時期が迫っていること。「2007年問題」ともいわれ る。これは、国内でまだ多数が稼働している、メーカー/ベンダー独自仕様のメインフレームやミニコン、オフコンの、保守期限が終わることでもある
  2. LinuxやMySQL、PostgreSQLなどのオープンソースソフトウェア(OSS)製品の普及・発展に触発され、情報システム部門がOSSの積極的活用に傾倒していきつつあること。ソフトの機能選択や改良・改版に伴う、ベンダーの支配から開放されていく過渡期でもある
  3. 中国やインド、ベトナム、タイなど、IT後進国だった国々の、優秀で安い労働力が日本市場へ進出してきていること。開発の主体が国内ソフトハウスから海外企業やオフショアに移行することで、ユーザはグローバルな品質のシステムを手に入れられるかわりに、開発者との付き合い方を変えていく必要も生じる

表1:ソフトウェア産業の側面

   以上の3つの事態は既に進行中だ。2007年問題といっても、2000年問題のように、その年になって問題が露見するのとは異なる。いずれも、今現在、徐々に日本のソフト業界の産業構造を変質させてきている課題だ。

   3つの課題に加え、少子高齢化による個人顧客の減少と、企業合併や地方自治体合併などによる法人顧客の減少の影響も、今後は予想される。そのため日本のソフト産業は、従来のベンダー主導からユーザ主導に転換し、ユーザ個別の要求にキメ細かく応えられるよう変革を迫られる。いうまでもないことだが、これはユーザ企業側にとっても、大きな変化を意味している。

   本論では、変革すべき取組みによっては、必ずしも日本にとって逆風「ではない」3つの課題の分析と、望ましい取組みを解説する。


ますますマーケットが拡大するメインフレームのオープン移行

   2007年問題とは何か。実は、従来のシステムを支えてきたメインフレーム世代の引退が、直接的な問題になることはない。システム上で2007年にトラブルが発生したり、それらに対する特別な備えが必要になるわけではないのだ。

   重要なのは、レガシーシステムのハードやベンダー提供のソフトなど、保守が打切られるシステムに対処するマイグレーション作業と、老朽化資産の廃棄を急ぐことだ。

   日本の場合、システムを導入している企業の約40%がレガシーシステムを保有している。ちなみに米国の保有率は10%以下だ。

   6月14日に、COBOLコンソーシアム主催の「インターネット時代のCOBOL活用セミナー」が開催された。定員400人は、あっという間に満席となったという。

   COBOL生誕40周年にあたる2000年に開催して以来、参加者は着実に増えてきている。また団塊世代よりずっと若い世代の参加も多く見られる。COBOLは未だ、企業情報システムの主力言語であり、同言語を扱う人口が増えることはないが、大幅な減少傾向も見られない。筆者の所属会社や、パートナー企業の受託開発の実体からも、そう判断できる。

   COBOLは40年以上の歴史があるため、規格世代に違いがある。メーカー独自の方言や、作成者の定義によって実行に相違があり、入出力インタフェースを変えない単純な移行でも、何が起こるかわからないほど複雑だ。大手SIベンダーでは、COBOLやJCLなどの変換・移行ツールを用意しているが、実際にツールで機械的に変換できるのはごくわずか。確認段階で、いくつもの誤りが検出されているという。確認検査では正常に動作したが、計算をさせてみると間違いが露見したケースもある。

   問題はCOBOLだけではない。移行元の機種やOSに依存する独自のJCLがあれば、IMS-DBやADABASのような標準規格外のDBMSもある(表2)。

  移行元(From) 移行先(To) 備考
プログラミング言語 COBOL68、74 COBOL85 必要なければ処理単純移行
DBMS IMS-DB、ADABAS、RIQS?/ACOS4 Oracle  
OLTP IMS-DC J2EE  
画面 MFS XML 必要性なければエミュレータによる従来操作性を継承
ジョブ管理 JCL Kshell、cshell Kshell、cshellに自動変換
OS 0S/390、ACOS4 HP-UX、Linux  

表2:レガシーシステム移行例(COBOL資産を継承)

   レガシーシステムの移行作業は人海作業を要することが多く、検査に多大な時間と人手を要する。しかもこれらの作業は、COBOLに慣れ親しんだ担当者にとっても、事前に整理・予知し切れない難しいものだ。

   それでもCOBOL活用セミナーで発表されている移行成果や、作業に携わったベンダーの報告、筆者の会社で手掛けてきた事例などから、標準的な作業項目や作業量の目安、マニュアルは整備されてきている。今では、2007年にまでに引退するメインフレーム世代の人に依存する問題は、そう多くはないだろう。

   メインフレーム世代のソフトウェア技術者の潜在能力は、2のOSSの活用で発揮される。オープンソースコードの解読力や鑑識力が高いのだ。単にソースコードを判読するだけではない。歴史的な知識も含め、業務全体を把握する必要があった、メインフレーム世代ならではの希少な経験能力だ。

   COBOLのレガシーシステムをLAMP/LAPP(Linux、Apache、MySQL/PostgreSQL、PHP)のようなOSS主体に移行するという選択肢がある。また、そうした移行を積極的に提案し、請け負うSI会社もある。

   「開発」を考える際に、OSS主体の移行に限らず、メインフレーム世代の技術者は有効だ。OSS技術者の不足を問われる今、血眼になってソースコードを読んだ解読力と鑑識力を活かし、既存資産を最大活用。なるべくゼロから作らないようにする知恵が重要なのだ。現在は、様々なソフトが開発されている。何かソフトが欲しいと思ったら、本気で探せば類似したものは必ず存在する。最新の言語で組まれていなくとも、きちんと動作するのであれば、それを改造する方が余計な手間やコストがかからない。もちろんソフトの見極めは重要だが。

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NPO法人オープンソースソフトウェア協会 小碇 暉雄
著者プロフィール
NPO法人オープンソースソフトウェア協会  理事
小碇 暉雄

1967年から三菱電機で35年間コンパイラやDBMSの開発と、業界での標準化に従事、1999年以降(株)ハイマックスでユビキタスコンピューティングのニュービジネス創出のためのコミュニティ活動や、NPO法人「オープンソースソフトウェア協会」でのOSS活用推進活動に従事している。主な著書に「オープンソースで人が繋がる」(イデア出版局)がある。


INDEX
第1回:ユーザ企業におけるOSS浸透のカギはメインフレーム世代のSE
ソフトウェア産業の変革
  システム刷新の選択肢にOSSを加える企業が増加
  オフショアの技術者は業務ソフトの開発スキルが不足